現役タクシードライバーを唸らせた直感性能。2012年式トヨタ オーリス 150X Sパッケージ(NZE151H型)

「おすすめのクルマは何ですか?」

自他ともに認めるクルマ好きであれば、これまでに1度くらいは家族や友人からこのような意見を求められたことがあるかもしれない。

そして、答えに窮したはずだ。

「果たして、どのクルマを薦めればいいんだろう」と。

質問の内容が漠然としているだけでなく、冷静になって考えるとあまりにも選択肢が多すぎることに気づかされるためだ。

しかし、無数にある選択肢においても「これを薦めておけばまず安心」というクルマも少なからず存在する。今回、ご紹介するオーナーの愛車もそんな1台なのかもしれない。

「このクルマは、2012年式トヨタ オーリス 150X Sパッケージ(NZE151H型/以下、オーリス)です。新車で手に入れてから8年目。現在の走行距離は、約8万2千キロです。私の年齢は46歳、職業はタクシードライバーです。仕事ではJPN TAXIを、愛車のオーリスは通勤の足や、休日のドライブに使用しています。8年経ったいまでも、オーリスはいいクルマだなと想う気持ちに変わりはありません」

オーリスの初代モデルにあたるこのクルマがデビューしたのは2006年10月。「直感性能」を開発テーマに掲げ、日欧戦略車として開発された小型ハッチバックの乗用車だ。開発段階におけるテスト走行の際には、ドイツ・ニュルブルクリンクサーキットが使用されたという。欧州では「Cセグメント」の位置づけとなる。フォルクスワーゲン ゴルフがベンチマークとして君臨する他、当時はフォード フォーカスやプジョー307などがひしめく激戦区に挑戦状を叩きつける形となった。そのため、世界屈指といわれる難コースでの走行実験は必須だったのかもしれない。

オーナーが所有するオーリス 150X Sパッケージのボディサイズは、全長×全幅×全高4245x1760x1515mm。オーリスは「カローラ ランクス」「アレックス」の後継モデルという位置付けだが、新しいプラットフォーム採用によりボディサイズが大きくなり、3ナンバー枠となる。オーナーのオーリスには「1NZ-FE」型と呼ばれる、排気量1496cc、直列4気筒DOHCエンジンが搭載され、この個体は最大出力110馬力を誇る。このほかにも、排気量1797CCの「2ZR-FE」型エンジンが用意され、それぞれ2および4輪駆動モデルが設定された。ちなみに車名のオーリスは、ラテン語の「AURUM(黄金)」、英語の「AURA(独特の雰囲気)」から、「オーラのある車」という意味の造語である。

話を本題に戻そう。オーナーの職業は現役のタクシードライバーであり、キャリアは19年。ベテランの域に達しているといっていいだろう。プロドライバーとして生計を立てているオーナーが、なぜオーリスを愛車に選んだのだろうか?

「このオーリスは、愛車遍歴として3台目にあたります。もともと、私はクルマよりバイクに傾倒していたんです。愛用していたバイクは、スズキのGSX1100Sカタナでした。しかし、家庭の事情でクルマが必要になり、トヨタ クレスタ スーパールーセント(GX81型)に乗り替えたんです。3年ほど乗ったあと、エアコンが故障したのを機に、日産セドリック(Y34型)に乗り替えました。冬の寒いある朝のことです。通勤途中で橋のうえに差し掛かったとき、路面が凍結していたようでクルマがスリップしたんです。幸い、低速で走行していたので事故は回避できましたが、"通勤で使うなら、最新のFF車に乗り替えた方が安全かも…"と思ったのが乗り替えのきっかけです」

オーリスを手に入れてから8年の歳月が流れたということは、当時のオーナーは30代後半に差し掛かった時期だ。そろそろ長く付き合えるクルマを選んでも不思議ではない。

「20代のときは、最高出力や最高速度がハイスペックなクルマに魅力を感じたのは事実です。しかし、30代半ばを過ぎたあたりから"クルマはパワーだけじゃない。トータルバランスだ!"という考えに変わっていったんです。自然と"走る・曲がる・止まる"の基本がしっかりとできているクルマに惹かれていきましたね」

とはいえ、クルマはやはり"乗ってナンボ"だ。現役のプロドライバーだけに、じっくりと吟味したのかと思いきや…。

「実は、オーリスは指名買いでして(笑)。しかも、試乗しないで購入しました。かつて池袋にあった"アムラックス(トヨタ自動車を展示するショールーム。2013年12月23日をもって営業を終了した)"に行って、展示されていたオーリスをじっくりと眺めて実車を確認。仕立ての良さが気に入ったので、地元のディーラーで購入を決めました。クルマは指名買いでしたが、グレード選びは悩みましたね。スポーツグレードの"RS"にも惹かれましたが、通勤の足として6速MTかつハイオクガソリン仕様はいかがなものか…ということで、維持費を優先しました。その結果、エアロパーツが標準装備されていて、スポーティさを感じた150X Sパッケージというグレードを選んだんです。安全装備にはこだわりたかったので、VSC&TRC、SRSサイドエアバッグ&カーテンシールドエアバッグシステムがセットになったメーカーオプションを注文したのは言うまでもありません」

オーナーが手に入れたオーリスは2012年3月に登録された個体だという。実は、2代目となるオーリスが5ヶ月後の同年8月にデビューしており、初代モデルとしては最終型といってよいモデルだ。試乗をせずに購入したオーリス、決め手や実際に走らせてみた感想も気になるところだ。

「オーリスの開発テーマである「直感性能」と「5mインプレッション」いうキーワードに惹かれて購入しました。実際に走らせてみて、走りの良さを肌で感じましたね。アクセルワークや、ハンドルの切り返しなど、ちょっとした操作でも"あぁ、良いクルマだな"と思いましたし、その印象はいまも変わりません。あとは、純正HDDナビの完成度の高さもお気に入りです。実はこのナビやクルマのセンサーがCVTと連動していて、コーナーや勾配に合わせて適切なギア比を調整してくれる"NAVI・AI-SHIFT"という機能が装備されているんです。その恩恵なのか、8万キロオーバーでもブレーキパッドを交換しないで済んでいるほど残量があるんです。もちろん、定期的にディーラーでメンテナンスしてもらっていますよ」

"NAVI・AI-SHIFT"を活用しているとはいえ、8万キロオーバーでもブレーキパッドが無交換とは驚いた。老若男女を問わず、さまざまな人を乗せるタクシードライバーだけに、日頃から急がつく運転を避けているのだろう。それだけに、自然とていねいに運転する習慣が身についているのかもしれない。同乗者に優しい運転は、結果としてクルマにも恩恵をもたらせているようだ。オーナーはオーリスそのものの完成度の高さを評価しているのか、モディファイも控えめだ。

「職場の先輩が装着して効果があったと教えてくれたので、オーリスが納車されてから早い段階でサスペンションとロアアームに鉛のシートを貼り付けてみたんです。固有振動が抑えられるのか、ステアリングを通して伝わってくる"雑味"が軽減されたのが実感できたんです」

必要以上にアフターパーツを取り付けるわけでもなく、人目を惹くようなドレスアップもしない。それにしても、サスペンションとロアアームに鉛のシートを貼って固有振動を抑えるとは、実に「通好みなチューニング」だ。

取材を進めていくうちに気付いたことがある。オーナーのクルマのボディパネルはもちろんのこと、内装やドアパネルとボディの接合部分やエンジンルームにいたるまで、実に隅々まで手入れが行き届いているのだ。この年代のクルマにありがちな「ヘッドライトユニットの黄ばみ」も皆無だ。ましてや、このクルマはガレージ保管ではない。通勤の足として使用している。雨の日も雪の日もこのクルマで通勤していることを考えると、とても8年前のクルマとは思えないコンディションを保っているのだ。

「それこそ、購入当時は年中洗車していましたよ(笑)。最近は週に1回くらいでしょうか。可能な限り、手の届くところまできれいにしています。今回はプロカメラマンの方に撮影していただけるとのことで、いつも以上に時間を掛けて洗車してきました」

クルマに対する愛情がひしひしと伝わってくる。仕事の大切な相棒であるJPN TAXIもこまめに洗車しているのだろうか…。一般ドライバーとは異なるスタンスでクルマと接しているオーナー。せっかくなので、JPN TAXIの印象も伺ってみた。

「本当によくできているクルマだと感じています。ステアリングのフィーリングは"自然だけど鈍い"という印象ですね。タクシー専用車みたいなものですし、敢えてそういうセッティングにしているんでしょうね」

ところで、オーリスが大のお気に入りであるオーナーにも、実は気になるクルマがあるのだという。

「メルセデス・ベンツEクラス セダン(W212型)です。職場の先輩のご厚意で、メルセデス・ベンツCクラスワゴン(S203型)を試乗させてもらったことがありまして…。クルマそのものの質感の高さに驚かされましたね。私も40代半ばに差し掛かりましたし、いつかはメルセデス・ベンツに乗ってみたいなと思うことは正直あります。でも、オーリスもとても気に入っているんですよね(笑)」

クルマのトータルバランスや質感にこだわるオーナーらしく、メルセデス・ベンツに惹かれるのは自然な流れかもしれない。事実、ドイツではメルセデス・ベンツEクラスがタクシー用の車両として使われている。とはいえ、現時点ではメルセデス・ベンツに対する憧れよりもオーリスへの愛情が勝っているようだ。最後に、この愛車と今後どのように接していきたいか伺ってみた。

「8年間、ノントラブルですし、繰り返しになりますがいまでもこのクルマの良さを実感する日々です。まだまだ乗り続けたいですね。もし、将来手放すときが訪れるとしたら…。職場の後輩に乗り継いで欲しいなと思っています。まだ自分の愛車を所有したことがないそうなので、オーリスを通じて"良いクルマとは何か?"を実感してもらえたらな…と、密かに思っています」

タクシードライバーということは、クルマがなければ職業として成り立たない。オーナーにとっては相棒であり、大切な仕事の道具だ。一流のアスリートは、愛用の道具への手入れを欠かさないと聞いたことがある。そこには、道具に対する愛情だけでなく、感謝の気持ちが込められているように思えてならない。オーナーのクルマに対するスタンスが、まさに一流のアスリートたちが行うそれと同じように感じたのだ。

もし、偶然乗り合わせたタクシードライバーがクルマ談義を、しかもオーリスのことを自慢しはじめたら、それはきっと今回のオーナーである確率が極めて高い。ぜひ、移動のあいまにクルマ談義に花を咲かせて欲しい。その際、会話に夢中になって目的地を通り過ぎないよう、くれぐれもご注意いただきたい(笑)。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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