小さなスズキ ジムニーだからこそより近づいた、オーナーと大型犬の“距離”

埼玉県内のとあるドッグラン。そして、その駐車場に停まった小さなクルマ、先代のスズキ ジムニー。

助手席におとなしく座っている愛犬は、ジムニーのサイズ感にマッチするトイプードルか何かと思いきや、体重30kgは優にあろうかという大型犬、ラブラドールレトリバーだった。

「以前はね、ランクル(トヨタ ランドクルーザー)に乗ってたんですよ。それも3台続けて。でもいろいろと思うところがあって、今はジムニーです。この大きなおばあちゃん犬『クルザ』と一緒に、ちっちゃなジムニーであちこちを走ってるんです」

そう語るのは、ジムニーと「クルザ」のオーナーである小峯晴彦さん。聞けば、ランクル80に乗っていた頃はもう1匹のラブラドールレトリバー、その名も「ランド」も乗せて、各地でキャンプなどを楽しんでいたという。

小峯さんはどんな「思うところ」があって、ラブラドールレトリバーを乗せるには最適とも思われるトヨタ ランドクルーザーを降り、小さなスズキ ジムニーを選んだのだろうか。

少年時代から大のクルマ好きであった小峯さんは、18歳になるとほぼ同時に初代マツダ サバンナを購入。その後はトヨタ カリーナ1600GTVや「ケンメリ」の日産 スカイライン等々、当時の青年たちに人気だったスポーティな国産各車を乗り継いだ。

そして1991年にトヨタ ランドクルーザー80を購入。これを大いに気に入った小峯さんはその後13年間、このランクル80に乗り続けることになる。

だが、お気に入りだったディーゼルエンジンのランクル80は、2003年10月に施行された条例により、乗り続けることが不可能となってしまった。

そのため小峯さんは2004年、ガソリンエンジンを搭載した後期型のトヨタ ランドクルーザー80に乗り替えたのだが、「これがとにかく燃費が悪くて(笑)、通勤にクルマを使っていた私としてはちょっと困っちゃったんですよね」。

そこで小峯さんが“通勤スペシャル”としてもう1台購入したのが、現在乗っているジムニー、2004年式の「スズキ ジムニー FISフリースタイルワールドカップリミテッド」だった。

「通勤用とはいえ、どうせなら遊びにも使えるクルマがいいと思いました。あと、ジムニーには、ちょっとした思い出もありましたからね……」

小峯さんが「ちょっとした思い出」と言うのは、奥様とのなれそめに関する話だ。

若き日の小峯さんは埼玉県内の男子校に通う少年で、校内でロックバンドを組んでいた。担当楽器はドラムスである。そして、後に妻となる女性が通っていたのは隣の女子校で、彼女も同じく校内でロックバンドを組んでいた。そして担当楽器も、同じく「ドラムス」だった。

そして、女子校のドラマーは文化祭での演奏を控えたある日、「ドラムが上手らしい」という隣の男子校の同い年ドラマーに、教えを請うことにした。

そこから何があったかは筆者の知るところではないが、とにかく2人はカップルとなり、そして24歳のときには「夫婦」になっていた。

「そのカミさんが18歳から19歳ぐらいの頃に乗ってたのが、2ストロークエンジンのジムニーだったんですよね」

そんなこんなで通勤兼遊び用のクルマとして選んだスズキ ジムニーの限定車。そして――その限定車が連れてきたご縁かどうかは不明だが、2004年にはもうひとつの出会いがあった。

今は亡きクルザの先輩犬、ラブラドールレトリバーの「ランド」を、家族として迎えたのだ。

「捨て犬だったんですよ、まだ生後3ヶ月か4ヶ月ぐらいの。ふらふら歩いているところを知人が保護して、私に『お前、飼わないか?』って連絡してきたんです。犬は大好きですが、諸事情あって20年ぐらい飼ってはいなかったのですが、『まぁこれも何かの縁かな?』と思い、その子犬を引き取ることにしました。付けた名前は『ランド』。もちろん、ランドクルーザーのランドです」

小峯家で体力を回復させた元捨て犬はすくすくと育ち、いつしかランドクルーザー80にちょこんと(ドスンと?)乗って各地のキャンプ場まで一緒に行く、かけがえのない家族になった。

そして2009年には「念願だった」という多頭飼いを始めるべく、知人のブリーダーから生後2ヶ月のラブラドールレトリバーを迎え入れた。当然(?)、その名前は「クルザ」に落ち着いた。

2012年には海外市場向けのランドクルーザー78プラドに乗り替え、そこに「ランド」と「クルザ」の両名を乗せて、小峯さんご夫妻は全国各地を走った。

だが2015年。のっぴきならないとある事情により、ランクルのほうは整理せざるを得なくなった。

そのため小峯家の「大きな犬たち」は「小さなクルマ」に乗り替えることになり、そして先輩格のランドは2018年9月、14歳で天国へとその居住地を移した。

「……まぁランドが死んでしまった話をすると、どうしても湿っぽい感じにもなっちゃうのですが、実際はそんなこともないんですよ。もちろんさびしいという気持ちもありますが、あくまで『天寿を全うした』ということですから。また少なくともジムニーに関しては、私もクルザもめちゃめちゃ気に入ってますしね」

元来おとなしい性格なラブラドールレトリバーであり、なおかつ聡明で、そして小峯さんに“ぞっこん”なクルザは、走行中はリードを固定したシートにおとなしく座り、小峯さんがジムニーを駐車しクルマを降りると、すぐに運転席にやってくる。とにかくこのクルマの「運転席」が大好きなのだ。

そして小峯さん自身も、セカンドカーからファーストカーに昇格した先代ジムニーの実力に舌を巻いている。

「とにかく小回りが利きますし、雪道を走るときの性能も、ランクルが100点だとしたら90点ぐらいにはなるんじゃないでしょうか?キャンプに行くときも、雨の日の後だと河原でスタックすることもあるのですが、そこからの脱出に関してはランクル80より上かもしれませんね。故障もしないし。……考えてみたらこの16年間、車検整備以外でこのジムニーを工場に入れたことって1回もないんですよ。いやほんと、頑丈なクルマです」

サイズ的に小さいゆえ、載せられる荷物の量には限界があり、それこそランドクルーザー80と比べてしまうと雲泥の差がある。だが小峯さんはそこに関しても、「むしろ悪くないポイントだと思っている」と言う。

「ランクルの時代は“あれもこれも”という感じで多くのモノをクルマに載せてましたが、今は、限界があるゆえの“選別”を楽しんでるんです。流行りのミニマリストを気取るわけじゃないですが、“本当に必要な物”と、実はそうでもない物とを選別して、必要な物だけを身の回りに置いてシンプルに生きるというのは、なかなか気持ちのいいものですよ」

通勤用のセカンドカーとして購入した頃も、そしてその後ファーストカーに昇格してからも、一貫して「フルノーマルであること」にこだわってきた小峯さん。だが「そろそろ思いっきりカスタマイズしてみようかと思ってるんです。ヘタっている足回りを近々修理するついでに、それこそ林道を走る用にリフトアップさせたりして。まぁ“最後”だから、それもいいかな……なんてね」と笑う。

小峯さんがこの先代ジムニーをリフトアップ仕様にすること自体については、筆者は特に反対ではない。お好きになさればいいと思う。

だが「最後」という言葉についてはいささか反対というか、懐疑的である。

なぜならば、走行距離16万kmを超えたこの先代ジムニーも、そして11歳となったクルザも「おじいちゃんとおばあちゃん」であることは確かだが、筆者が見る限り、両名ともに「元気なお年寄り」だからだ。

まだまだイケる。

たぶんだが、小峯さんも心の底ではそう思っているのではないだろうか。

それは当人以外には知る由もないが、小さなクルマだからこその小峯さんとジムニー、そして小峯さんとクルザとの“きわめて親密な距離感”が、筆者にはひたすら眩しく感じられるのであった。

(文=伊達軍曹/写真=阿部昌也)

[ガズー編集部]

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