モータースポーツと運転、そして家族を愛するラガーマンが選んだ「ステーションワゴン」という最高の妥協点

マニュアルトランスミッションのマツダ・アテンザワゴンXD PROACTIVEに乗る松下克也さん。原稿の冒頭でこの人のことをどうご紹介したものか、いささか困っている。

なにせ人生のバックグラウンドがキャッチーすぎて、「どの部分」を選ぶべきかで迷ってしまうのだ。

野球の強豪私学ではなく公立進学校野球部のエース投手として、同校を初の選抜高校野球大会、いわゆる「春のセンバツ」出場に導く(本人は「導いた」という言い方を嫌うだろうが)。

そして導いただけでなく、ベスト16入りまで果たした偉大な元高校球児として紹介するか?

それとも、入試を経て慶應義塾大学に進学後、同学の体育会硬式野球部に入部したものの、高校時代の無理がたたったのか早々に肩を壊し、公式戦での登板は到底無理な身体となった。だがあくまで「選手」として4年間をまっとうした、不撓不屈の人として紹介するべきだろうか?

またあるいは、22歳で本格的な野球を辞めたまではわかるが、32歳でなぜか「ラグビープレーヤー」に転身した、ちょっと変わったヒト……として紹介したほうが伝わりやすいのか?

だがいずれにせよ、人様の人生を短い文字数で完全に紹介することなどできはしない。そのため、ここはシンプルにいこうと思う。

松下克也、そろそろ39歳の38歳。働く男であると同時に2児の父で、ひとりの女性の夫でもある。好きなものは――もちろんほかにもいろいろあるのだろうが、お聞きした限りでは――クルマとモータースポーツ、そしてスポーツ全般。

そんな松下さん、つまり「ガチなスポーツマン」であると同時に「わりとディープなクルマ好き」でもある彼が、ディーゼルエンジン+6MTのマツダ・アテンザワゴンというステーションワゴンを選んだ理由、そしてそれを人生の相棒としてどのように使っているのか、聞いてみた。

出身は愛知県豊田市で、父はトヨタ自動車硬式野球部の選手だった。

「そんな環境でしたから、物心ついた頃にはすでにクルマに興味を持ってましたよね。父がトヨタに勤務していたということもありますが、豊田市というのはやはり“自動車の町”ですから」

小学校低学年になるとF1のいわゆる「セナ・プロスト対決」に夢中となり、ひたすらレーシングカーのプラモデルを作るようになった。F1に限らずWRC(世界ラリー選手権)のラリーカーなど、「とにかくレースカーと名が付くものなら何でも作ってましたね」と笑う。

9歳からは、後に全国を沸かせることになる野球を始めた松下さんだったが、「クルマ好きの克也くん」という側面は持ち続けた。

大学時代、本当はWRCで活躍していたトヨタ セリカのGT-FOURを買いたかったが、そこは学生の悲しさで予算が足りず、必死のアルバイトで貯めた50万円で「4WDターボじゃないセリカ」の中古車を購入。それをラリーカー風にカスタマイズし、4年ほど乗っていたという。

「で、25歳で結婚したのですが、さすがにセリカだとやや狭いということで、2代目のトヨタ ハリアーに買い替えました。父がトヨタの社員だった関係で若干安く買えたというのと、妻の要望と僕の欲求とのちょうどいい中間地点がハリアーだったんですよね」

クルマという趣味分野に興味がない完全ペーパードライバーの妻は「とにかく背が高くて見晴らしのいいクルマがいい」と言い、松下さんは「とはいえ運転自体も楽しめるクルマじゃないと意味がない」と考えた。

「でもハリアーなら 背が高いのに走りはいいから、運転する僕も、運転はしない妻も満足できるんじゃないかな? って」

予想は大正解だった。年月とともに各部はさすがにヤレてもいったが、「でも買い替えるべき理由が特にない」ということで、ハリアーには都合11年間乗った。

だがハリアーが6回目の車検を迎えようという頃、松下家に待望の第一子が誕生することになった。現在は「元気な2才児」に成長している松下 樹(いつき)くんである。

長らく苦楽をともにしたハリアーと、別れるときがやってきた。

「次はステーションワゴンを……と思いましたね。ハリアーはハリアーで満足していましたが、やはりクルマ好き、モータースポーツ好きとしては『背が低めなクルマを運転したい』という煩悩もあるじゃないですか(笑)。でも家族が増えるわけだからクーペは無理だし、セダンも厳しい。となると、ほぼセダン並みの乗り味が楽しめるステーションワゴンしかないだろう、と」

さまざまなステーションワゴンを物色しはじめた松下さんは、まずは中古のBMW 3シリーズツーリングに強い興味を持った。だが妻が「中古車」という部分に難色を示したため、すぐさま自ら却下(松下さんは奥さまに優しいのだ)。

次にスバル レヴォーグも試乗してみたが、SGP(スバルグローバルプラットフォーム)に刷新される前の車だからだろうか、その乗り味に今ひとつ納得できず、これまた自ら却下。

「そんなとき、所属していた草野球チームの皆さんが乗っているクルマを見て、ある種の衝撃を受けたんですよね。『あ、そうか。ステーションワゴンに加えてMTという追加オプションもあったか』と」

松下さんが所属していた草野球チームは、自動車メディアで働いている人たちが中心のチームだった。「同じクルマ好き」という縁があって参加したチームだったが、自動車メディアの人々ゆえごく普通に、マニアックな車種のMT車で河川敷のグラウンドにやってくる。

「ステーションワゴンで、そしてMTで……という車であれば、僕がその時点で望んでいたものはほぼすべて手に入るんじゃないか? と思って試乗し、そして購入したのが、コレです」

2017年式マツダ・アテンザワゴンXD PROACTIVE。「もともとディーゼルエンジンに興味があった」ということでXDを選び、そして草野球のチームメイトに触発されて、ATではなく6MTを選択した。

「……素晴らしい選択ができたと思っています。まあ決して安くはないクルマなのに『ヘッドレストの前後調整ができないのはなぜだ!』みたいに思う部分も多少ありますが(笑)、全体としては、ディーゼルターボでMTで……というステーションワゴンは今のところ僕にとって最高の相棒であり、我が家にとって最高のファミリーカーですね」

各種球技と同時にモータースポーツ観戦も愛している松下さんだけあって、極太トルクなディーゼルターボを活かしてガンガン走りたいという欲望がないわけではない。

だが現在のいちばんの使いどころは「家族のため」だ。

まずは週末の買い出し。約1ヶ月前に長女・花ちゃんも生まれたばかりの松下家が買うべきものは非常に多い。そのため毎週末には、優秀なディーゼルターボエンジンを搭載した6MTのアテンザワゴンは「お買い物スペシャル」と化し、家長・克也さんのドライビングにより各商店を回る。そしてラゲッジスペースにさまざまなモノをぶち込む。

またアテンザワゴンは長男・樹くんと松下さんが「遊びに行くためのクルマ」としても大車輪の活躍を見せている。

「二人目の子供が生まれたということで、実は来年2月まで3ヵ月間の“育休”を取ってるんですよ。そのため週末だけでなく平日も、僕が樹を連れてあちこちの公園まで遊びに行ったり、あるいはスーパーマーケットまで普通に食材の買い出しに行って、僕がみんなの 食事を作ったりもしています」

32歳という、ラグビープレーヤーとしてはかなり遅いタイミングで野球から転身したにもかかわらず、勤務先企業のラグビー部で「ウイング」として活躍する父を間近で見ているからだろうか。不安定な形状のラグビーボールを公園内で投げたり蹴ったりする樹くんのムーブは、なかなか堂に入っている。

だがラグビーの試合や練習があるときだけは、松下さんは「パパ」あるいは「夫」であることを一時的にやめ、「ひとりの男」に戻る。

大量の試合球とメディカルボックスをアテンザワゴンのラゲッジスペースに積み、そして自らのウェアとスパイク等々も積載してひとり、アテンザワゴンのステアリングを握る。そして、時おり意味なくシフトダウンをしてMT車ならではの感触を堪能したりしつつ、泥だらけのグラウンドを目指す。

そして試合後、自身もクルマも泥だらけになって自宅へと戻る。ときには肩などの骨折という、あまりありがたくないお土産も伴って。

「ラグビーは何歳までプレーできるのか、自分でもわかりません。また長女も生まれましたので、正直『ミニバンに乗り替えるべきかな……?』と思う瞬間がないわけではありません。でも……僕というひとりの男と、愛すべき家族、守るべき家族との間の“ちょうどいい中間地点”にあるステーションワゴンを降りる気には、まだなれないんですよね」

松下家のファミリーカーは今後どうなるのか? その答えを筆者は知らないし、人様の家庭に口出しするつもりもない。

しかし願わくば、将来的に買い替えるクルマがどれであったとしても、克也さんが「いち自動車愛好家」に戻れる時間も提供してくれるクルマであってほしい――とは思っている。

(取材・文/伊達軍曹 撮影/阿部昌也)

[ガズー編集部]

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