全国を旅するライダーに、ランクル70が教えてくれたスローライフの魅力

晴れた休日。誰もいない芝生で友人とのんびりお茶を楽しむ女性たち。後ろにあるトヨタのランドクルーザー70は、シリーズ発売30周年を記念して、2014年8月に期間限定発売されたモデルだ。日本では2004年7月以来、約10年ぶりに再発売となったことでも知られている。ラインナップはバンとピックアップトラックが設定された。

オーナーである中川裕子さん(写真左)のおっとりとした雰囲気とランクル70のヘビーデューティーなイメージのギャップに驚いたが、彼女の趣味を聞いたら、ランクルに負けないアクティブな一面があり、なるほどと納得した。

中川さんは子供の頃から冬になると家族でスキーに出かけていた。そして学生時代にスキューバダイビングを始める。社会人2年目で購入したのは、1年を通じて趣味を楽しめるようにとステーションワゴンのトヨタ カルディナだった。

「学生時代にアメリカのボストンで初めてスノーボードを体験して『おもしろい!!』と思ったのですが、日本にはまだスノボができるゲレンデが少なかったので、スキーとスノボ、両方積んでゲレンデに向かっていました。そしてスノボOKならスノボを、ダメならスキーという風にしていました。カルディナはスキー/スノボでもスキューバーでも、4人分の荷物なら楽々と積めたので、毎週のように遊びに出かけていましたね」

新車で買ったカルディナには約10年乗り、手放した時の走行距離は16万kmを超えていた。最初の数年は年間2万km以上走っていたという。途中から走行距離が増えなくなったのは(とはいえ年間1万km以上は走っていたそうだ)、バイクに乗るようになったから。

「29歳で、ホンダのSL230というオフロードバイクを買いました。ちょうどこの頃に一人旅に目覚めて、『プチ日本一周をしよう!』とまとまった休みが取れるたびにバイクで全国を旅していました」

中川さんの職業は看護師。長期休暇に有給休暇を絡めても一度に取れる休みは10日間ほどだ。そこで中川さんは、今回は北海道、次回は九州とエリアを決めてバイクで1周。これを続けて日本一周旅行を達成しようと決めたのだ。

20代の中川さんにとって、楽しみのためとはいえ休みのたびにホテルなどを予約して旅するのは経済的な負担も大きい。そこで男性ライダーと同じようにバイクの後ろにテントを積んで格安のキャンプ場を利用していたという。豪雨に見舞われた時は誰もいないキャンプ場の炊事場にバイクを乗り付けて雨をしのいだこともあるそうだ。

しかし、いくら治安のいい日本とはいえ、女性一人で怖くはなかったのだろうか。

「テントはファミリーキャンパーの隣に張るなど多少は気を遣いましたが、怖いと思ったことはなかったです。変な言い方ですが、ライダーの格好で、しかもオフロードバイクだから、女だと思われることは滅多にありませんでした(笑)。地元の人から『この辺りは夜になると獣が出るから気をつけてね』と言われた時のほうが怖かったですね」

旅先で出会ったライダーといろいろな話をしていると、行きたい場所がどんどん出てくる。中川さんの“プチ日本一周”は、30代前半まで数年におよぶ旅となった。

その後、中川さんは10年間乗ったカルディナを手放し、同じトヨタのエスティマハイブリッドを手に入れる。この時期、中川さんは登山に夢中になっていた。エスティマハイブリッドはたくさん荷物を積むことができるし、燃費もいいから遠くの山まで出かけても燃料代が大きな負担にならない。しかも車内が広いので、登山の前に車中泊をすることもできる。アクティブな中川さんにとって好都合な一台だったそうだ。

エスティマハイブリッドに乗ってから数年後、中川さんは結婚。これを機にアウトドアの楽しみ方が大きく変わった。

「変な言い方ですが、結婚する頃には自分の中で、行きたいところには行き尽くしたという感覚がありました。主人はキャンプ好きなので、今は移動せず定住型のキャンプを楽しんでいます。自分でも結婚して大人しくなったなと感じています(笑)」

独身時代は旅を楽しむための“手段”だったキャンプが、自然の中でのんびり過ごすという“目的”に変わった。ご主人のクルマを出すか、中川さんのエスティマハイブリッドで出かけるかはその日の気分次第。小学校から中学校までガールスカウトに入っていたので、定住型キャンプで料理を作るのも、昔を思い出して楽しかったという。

そんな中川さんだが、実はランクル70への乗り換えはいまいち乗り気ではなかったようだ。

「結婚した頃から主人と『ランクル60って可愛いね』という話をしていて、何度か販売店に中古車を見に行ったりもしました。そうしたらランクル70が再販されることがニュースになって、主人はすっかりその気になっていました。でもランクル70はマニュアルしかないし、燃費だって私のエスティマハイブリッドに比べたら絶対に悪くなるから……」

しかし、中川さんはご主人の盛り上がりを見て、一つ条件を出す。私のクルマとして買うならいいよ、と。

「主人のクルマは仕事で使うこともあるので、エスティマハイブリッドと入れ替えた方がいいだろうと思ったんです。でもランクル70が限定販売じゃなければ、うんとは言わなかったでしょうね」

エスティマからランクルに乗り換える形になった中川さん。運転免許を取得以来マニュアルトランスミッションのクルマを運転していなかったので、納車後しばらくは今回取材させていただいた広場で坂道発進などの練習をすることに。

中川さん曰く、マニュアルにはわりと早く慣れたそう。しかし大変だったのはそこから。ランクル70は思った以上に大きくて街中での切り返しなどで苦労することも多い。デパートの立体駐車場に入れられず困ったこともある。それでも高いドライビングポジションだからこそ味わえる見晴らしの良さは気持ちいいと感じている。

「実は弟がトヨタの86に乗っているのですが、たまに助手席に乗せてもらうと視界の違いにビックリします。『同じメーカーのクルマなのにこんなに低いの!?』って。ランクルで街中を走っていると小さな男の子がこっちを指差すこともあります。そしてお母さんが振り返って私が運転していることに気づくとビックリしたり。そんな時はちょっと優越感を味わえますね」

キャンプやピクニックを楽しむ時、すぐに日陰を作れた方が楽だからと、中川さんは愛車にサイドタープを取り付けた。キャンプ場に遅くに着いた時はそのままクルマの中で寝られるように、ご主人に頼んで車中泊がしやすくなるフラットな台を作ってもらった。「今でも時々エスティマハイブリッドが恋しくなります」と笑うが、ランクル70でのアウトドアライフを夫婦で存分に楽しんでいることが伝わってくる。

「バイクで全国を旅していた頃、どこのキャンプ場にも1週間くらい定住しているおじさんライダーがいました。私はいろいろな場所に行きたいから、キャンプ場でのんびりしている人の気持ちがわからない、と思っていました。でも最近は『歳を重ねたらきっとキミも落ち着くよ』と笑っていたおじさんのことがわかるようになりました。天気のいい日に何もしないで過ごすのはこんなに気持ち良かったんだって」

夫婦、そして仲間とともにゆっくりした時間を楽しむ。歳を重ねて落ち着いた中川さんだが、やはり今でもウズウズすることがあり、年に一度はランクルのキーをご主人に預け、キャンプ場から一人登山に出かけてしまうそう。

高速道路をのんびり走っているときに横をバイクが通り過ぎていくのを見ると羨ましくなり、そういえばまだランクルで林道を走っていないなと思ったりする。

中川さんが本当の意味で落ち着くのは、もう少し先なのかもしれない。

(取材・文/高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影/柳田由人)

[ガズー編集部]

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