レクサス RXが教えてくれた、心地いい移動時間の過ごし方

フォトグラファーの川田洋司さんと待ち合わせたのは、連日気温が35℃を超えていた、8月の日中だった。

「クルマの取材だから、キレイにしなきゃと思って。朝6時から洗車してきましたよ。それでも汗だくでした。真夏の洗車は大変ですね(笑)」

川田さんの愛車は、現行型レクサス RX450h。休日の朝から重労働させたことをお詫びしつつクルマを眺める。多くの機材を積んで走り回るフォトグラファーが乗っているとは感じられないほど、キレイな状態だ。リッチクリーム色のインテリアも目に眩しい。

「ディーラーの人に話を聞いたら、汚れが目立つという理由でダーク系のインテリアを選ぶ人が多いようです。僕はまったく逆の考え方。汚れが目立たない色っていうのは、汚れに気づかず乗り続けているわけでしょう。汚れに気づいたら、さっと掃除をすればいい。そのほうがいつも車内をキレイな状態に保てます」

なるほど。わずかな労力を惜しまないことで気持ちのいい状態をキープする。ものぐさな筆者には耳の痛い話だ。

「でもこのRXに乗るようになってから一つだけ気を付けていることがあります。それは運転するときはデニムを履かないということ。デニムの色落ちだけはどうにもならないのでね」

川田さんが主に撮影しているのはライブやフェス、演劇などのエンターテインメント。アーティストのツアーに帯同し、ドラマチックな瞬間を切り取っていく。著名なアーティストだとライブ会場はスタジアムやアリーナなど広大な場所になる。撮影では何台ものカメラ、そして超望遠から広角まで多数のレンズを駆使する。

フォトグラファーの多くは「撮影がデジタルになってから現場に持っていく荷物がコンパクトになった」と言い、機材車もステーションワゴンなど大型車から、コンパクトなハッチバックや軽自動車、あるいは荷室が小さい2シーターオープンに換えたりしている。中には「もうクルマは必要ない」と、電車やスクーターで撮影現場に向かう人もいる。

だが、川田さんの場合はそうはいかなそうだ。取材でお会いした日は最低限の機材しか積んでいないと話していたが、それでもラゲッジルームはいっぱいになっていた。

「遠方での撮影だと新幹線などを使うこともありますが、大量の機材を持って移動するのはものすごく大変なんですよ。タクシーで駅に着いたら荷物を降ろすだけで大騒ぎ。今度はひとつ数十kgもあるキャリーケースを両手で転がし、衣類などが入ったバッグを背負ってホームまで歩かなければならないのですから。わずか数段の階段が現れただけでイライラしますよ。東京から大阪くらいまでの距離なら迷わずクルマで移動します」

現在の愛車は、川田さんにとって2台目のRXだ。最初の1台目は北米で発売されてから3世代目のRX450h。日本市場への導入は初となる2009年1月の発表と同時にオーダーした。

「先代のRXは1月にまずガソリンモデルが発売になって、ハイブリッドは少し遅れて4月に発売されました。僕は発表直後にディーラーに行ったので当然ハイブリッドの実車が置いてありませんでしたが、そのとき乗っていたクルマの車検の関係でなるべく早く納車したかった。だからスタイルなどはガソリンモデルで確認し、試乗もせずにその場でハイブリッドモデルをオーダーしました」

それから約11年。川田さんはRXと文字通り多くの時間を共有している。RXのどんなところが川田さんにビタッとハマッたのだろうか。それを尋ねたら、「クルマに対する考えを変えたから」という応えが返ってきた。

25歳でフリーランスになった川田さんは、知人から譲り受けたプジョー605でクルマ生活をスタートさせる。その後は輸入車を中心にさまざまなクルマを乗り継いでいく。若い頃は愛車をカスタムして楽しんだりもした。もともとクルマが好きだったこともあり、なるべくたくさんのクルマに乗りたいと思い、ほとんどは初回車検を待たずに乗り換えていた。

多くの機材を積むから選ぶのは荷室が広いSUVが中心。しかし、クルマ好きとしてはスポーツモデルにも乗りたい。川田さんは30代後半でポルシェ初のSUVである初代カイエンにも乗った。

「カイエンは凄いクルマでした。スタイルはSUVで機材もしっかり積めるけれど、走りはスポーツカーそのもの。楽しいからついアクセルを踏んじゃいますよね(笑)。ただ、同時に緊張感もすごくありました」

クルマが好きだから、楽しいものに乗りたい。しかし選んでいるのはあくまで仕事で使う機材車。若い頃なら平気だったかもしれないが、アラフォーで運転中にずっと緊張していると、現場に着く頃にはかなり疲労していて、その後の撮影に支障をきたすこともあったという。

「全く撮影ができずクライアントに迷惑をかけたことはありませんが、移動でエネルギーを使い果たすのはプロとしていかがなものか。仕事でのパフォーマンスを上げるためにも、乗り心地がよくて快適なクルマを選ぼう。走りを楽しみたいなら、仕事とは別のところで楽しむ。そう思うようになりました」

これがRXに乗るきっかけになったのだが、実はこのとき、川田さんはちょっと変わったことを計画していた。せっかくなら日本にほとんど走っていないクルマに乗ろうと考えたのだ。

「リーマンショック後に日本が空前の円高になった頃だったので、安く輸入できるかもしれないと思ったんですよ。ターゲットはインフィニティのFX50とマツダのCX-9。しかし調べてみると輸送費その他でかなりの金額になることがわかったので諦めました。そんなとき、レクサスが日本で初のSUVを出すという話を聞いて飛びついたのです」

先代RXの乗り味はスポーツSUVとはまったく違う。エアサスペンションの柔らかな動きもあり、アクセルを踏み込んだときの刺激やタイトコーナーをクリアしたときの爽快感よりも、高速道路の左車線をのんびりクルージングしているほうが気持ちいい。リラックスしてドライブできるから長距離移動でも体への負担が少なく、現場に着いたときに疲労感はほとんどない。仕事で使うクルマとして、これ以上ないほどよくできたクルマだと感じたという。

また、RXに乗るようになってから、川田さんの移動に対する考え方も大きく変わった。

「日本のビジネスマンはみんな忙しいですよね。移動もスマホのアプリを駆使して、1分でも早く目的地に着くことを考える。以前の僕も同じ。どういうルートで行けば早く着くかばかり考えていました。でもRXに乗るようになってから、遅刻さえしなければ移動をどう楽しむかは僕の自由と思うようになったのです」

たとえば大阪に出張する際、以前はどう走れば早く到着できるかを気にしていたが、今は途中で一泊して地元のうまい食事を楽しもうと考える。移動を“旅”として捉え、楽しめるようになったのだ。純正オーディオシステム、マークレビンソンの上質なサウンドは、最高の旅の友になっている。

日本が世界に誇るプレミアムブランドであるレクサスのSUVは、川田さんにとってどんな存在なのか。そんな質問を投げかけると、少し間を置いてこう切り出した。

「ヨーロッパにはレクサスよりはるかにプレミアム性の高いブランドがいくつもある。レクサスはそれらとは明らかに立ち位置が違っていて、もっとラフな印象です。例えるなら……ヨーロッパのプレミアムブランドのクルマがハイブランドのシャツだとすると、RXはもっと気軽に着られるシャツという印象です。でも仕立てがいいから袖を通した瞬間に心地いい気分になる。ハイブランドのシャツは素敵だけれど、袖を通すだけで気疲れすると思うんですよ。汚すのが怖くて食事もできない」

11年におよぶRXとのカーライフ。きっと現行型との付き合いも、先代と同じか、それ以上になるだろう。何度も着たくなる、洗いざらしのシャツを羽織るような感覚で、心地よさを味わい続けるに違いない。

(取材・文/高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影/柳田由人)

[ガズー編集部]

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