ハイエースじゃないと実現不可能な、命の恩人でもある愛犬とのアウトドアライフ

芝生が広がる広大なキャンプ場の隅にクルマを置き、愛犬であるシェパードのぽんすけとのんびり過ごす栗原良介さん。週末はたいてい、都内近郊のキャンプ場にいるという。

「一口にキャンプといってもいろいろな楽しみ方があります。僕はキャンプ場に入ったら一切何もせずにぼーっとしているタイプ。1週間くらいキャンプをしていても、ほぼキャンプ場から出ないで朝からビールを飲んでタープの中にずっと座っている。そんな姿を見て、ぽんすけは『今日もどこにも連れて行ってもらえないのか……』とふてくされています(笑)」

子どもの頃はボーイスカウトに入隊。ボーイスカウトのキャンプは訓練の一環。重い荷物を担いで何kmも山の中を歩いてキャンプ場に向かう。1週間近く風呂に入れないことも珍しくない。この経験で栗原さんはキャンプが大嫌いになったという。

運転免許を取って最初に乗ったクルマはY31型日産 グロリア。次に選んだのは2代目ホンダ ステップワゴン。この頃はスノーボードに夢中になり、冬になると毎週のようにゲレンデに足を運んでいた。3台目のクルマはE51型日産 エルグランド。このクルマに乗っている時から愛犬との暮らしがスタートした。

「エルグランドに乗っていた時に飼ったのはボーダーコリーと訓練系のシェパードで、当時は競技会に参加したりもしていました。子犬だった頃はよかったのですが、だんだん大きくなるにつれて問題が出てきて……」

問題というのは、愛犬と一緒にクルマで出かける時のケージ。3列目席が跳ね上げ式のエルグランドには、どうやっても大型犬用のケージを2つ積載することができなかったのだ。

飼い主として、愛犬を安全にクルマに乗せられないのはご法度。栗原さんはクルマの買い替えを迫られた。

「家族が乗れるスペースも確保しながら大きなケージを積載することを考えると、必然的に選択肢はひとつに絞られました。それが今乗っているハイエースのワイドボディです」

贅を尽くしたLクラスミニバンからの乗り換えだと、バンベースのワンボックスは乗り心地の面などで不満もあったはずだ。しかし犬との暮らしを考えると背に腹は変えられない。

圧倒的な積載性を誇るハイエースだが、標準ボディだと大きなケージを2つ並べることは難しい。ワイドボディなら片方のケージの下に少し板を敷いて左右の高さを変えることで、なんとか並べることができた。

最初は中古車を買うことも考えたが、ハイエースは人気があるためかなり走り込んだものでも値段が高く、しかもワイドボディは中古車だと選択肢が少ない。そこで栗原さんは新車でワゴンのGLをチョイス。ハイエースなら買い替えの際に絶対に高く買い取ってもらえるはずだという思いもあった。

愛犬と一緒に暮らすようになってから、栗原さんは大嫌いだったキャンプを楽しむようになった。

旅行では、最初はペットと一緒に泊まれるホテルを利用していた。しかし、大型犬だと予約時点で断られることが多く、OKだったとしても設備などがあまりよくないところが多かった。せっかくの旅行なのに心から楽しむことができない。だったらいっそのことキャンプにしたほうが気分的に楽なのではないかと思ったことがきっかけだった。

「ボーイスカウトの頃はつらさしかなかったけれど、今は道具もいいものがたくさんあるし、しかもクルマをキャンプサイトの真横に停められる。なんて楽で快適なのだろうと思いました」

現在の相棒であるぽんすけは、ハイエースに乗り始めてしばらくしてから飼い始めた。犬種は展覧会系のシェパードで、足がスラッと長く、性格がおっとりしているのが特徴だ。

以前に飼っていた犬たちが亡くなり落ち込んでいた栗原さんを見かねて、犬仲間が「大人しくていいシェパードがいるよ」と紹介してくれたのがぽんすけだった。

ぽんすけと暮らすようになってからはケージがひとつでよくなったので、一人の時はケージの横に寝袋を敷いて車中泊を楽しむように。すると車内をどれだけ快適にできるかと考えはじめ、サブバッテリーを積んで大型のテレビと電子レンジを設置した。

栗原さんはカー用品店で働いていたこともあり、これくらいの配線はお手の物だという。

「一人でキャンプ場に来てコンビニ弁当を温めて食べているのですから、ほかのキャンパーは『あの人、何をしているのだろう』と感じるでしょうね(笑)。でもこれが僕のスタイル。キャンプ場では何もせず朝からのんびりと酒を飲み、気が向いたらぽんすけと散歩に出かける。この時間がものすごく楽しいんですよ」

ぽんすけとのキャンプの思い出を尋ねると少し考えた上でこんなエピソードを教えてくれた。

その日は仲間とともにキャンプを楽しんでいて、牛が放牧されている牧場まで散歩に出かけた。牧場の中にある登山道を歩いていたら、一頭の大きな牛が遠くから栗原さんのほうに近づいてきた。なんとなく嫌な予感がしたら、その後ろにいた十頭以上の牛が興奮しながら栗原さん目掛けて走ってくる。

栗原さんは身の危険を感じた。仲間は離れた場所にいて助けを求められない状況だった。足がすくんで動けなくなった栗原さんはとっさにぽんすけに向かって「逃げろ!」と言い、リードを離した。

ところがぽんすけはあろうことか牛に向かって走っていき、大きな声で吠えて威嚇し始めた。ぽんすけが吠えたことで牛たちは一瞬足を止め、栗原さんも我に返ってぽんすけを呼び、一緒に逃げることができたという。

「もしあの時ぽんすけが牛たちを威嚇してくれなかったら、今こうして一緒にキャンプを楽しんでいられなかったかもしれないと思うことがあります。こいつは僕にとって命の恩人。だからこそ時間が許す限り一緒の時間を楽しもうと思っています」

今年6月には栗原家に新たな家族がやってきた。訓練系シェパードのくらのすけだ。

今はぽんすけを徐々に慣らしている段階。くらのすけがもう少し大きくなったら2頭を連れてキャンプを楽しめるようになるだろう。

そうなるとまたハイエースのカーゴスペースに大きなケージを2つ並べることになる。すると栗原さんが車内で寝るスペースがなくなってしまいそうだが……。

「それもあって、実は今、新しいクルマへの買い替えを考えています。新しいランドクルーザー300で、キャンピングトレーラーを引っ張ろうと思っているんですよ」

なるほど。トレーラーがあることを前提に考えるなら荷室は犬たちさえ乗れればいい。寝るのだってハイエースより何倍も快適だ。キャンプ場に着いたらそこに根を生やす栗原さんのスタイルにぴったりのチョイスと言えそうだ。

栗原さんのハイエースは2011年式で、走行距離はまだ7万km程度。ランドクルーザーの頭金には十分なるはず。

「それが……。このハイエースは運転免許を取った息子に譲る約束をしてしまったんですよ。相談された時、断ることができなかった(笑)。彼は僕がクルマを大切に乗っていたのを知っているし、道具を大事に使うよう育てたつもりです。だから信頼してもいいかなと思っています」

新しい家族が増え、乗るクルマも含めて環境が大きく変わりそうだが、栗原さんは気にせずマイペースで楽しんでいくだろう。傍にいる相棒のぽんすけとどこかの山の中でのんびり過ごしながら。

(取材・文/高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影/柳田由人)

[ガズー編集部]

愛車広場トップ

MORIZO on the Road