「自分で買った、自分のトヨタ タンク」は“自由”という名の翼になった

埼玉県などの郊外の街で若い女性がリッターカーや軽自動車を運転している姿を見かけると、筆者のような古い人間はついつい「親御さんに買ってもらった車かな?」「OLさんが通勤や買い物などに使ってるだけなんだろうな」などと思ってしまう。おっさんの悪いクセである。

もちろんそういったケースもゼロではないだろう。

だが実際の若い女性というのは、筆者のような中年男が思うよりもはるかに自立している。
そして従来の字義どおりの「クルマ好き」ではないのかもしれないが、「自分のクルマがある生活」を、存分に謳歌している場合が多いのだ――ということを、2018年式トヨタ タンクに乗る埼玉県の会社員、椎橋 舞さんによって教えられた。

18歳ですぐに運転免許を取得した椎橋さんは、そもそも「運転」という行為自体が大好きな女性だった。免許取得後は親御さんの車を借り、あるいは近所に住まうお祖父様の車を借り、友人とともにさまざまな場所へ出かけた。

そんな毎日は素晴らしく楽しかったわけだが、同時にいささかの問題もあった。

「親やおじいちゃんの車というのは、当然ですが『わたしの車』ではないわけですから、向こうの都合的に問題がないときしか借りることはできません。またおじいちゃんの家は確かに“近所”ですが、それでも電車で行くと30分はかかります。さらに……」

さらに、若者と高齢者の間に存在する「生活時間帯の違い」という問題もあった。

「わたしはやっぱりいちおう若者なので(笑)、時間を気にせず夜まで遊びたい。でもおじいちゃんはどうしても寝る時間が早めなので、おじいちゃんから車を借りると『寝る時間までには帰ってきてくれよ~』みたいな感じになります。もちろんおじいちゃんが寝るまでに頑張って帰るわけですが、そういうことがあるたびに『あー、自分の車があればなぁ……』と思うようになったんですよね」

お祖父様の車に限らず「人の車を借りる生活」の不自由さから開放されたいと思った椎橋さんは、まずは「車であればなんでもいい。軽自動車でもいい」と思い、中古軽自動車の物色を始めた。だが1年前に転職した会社に、その会社の社用車である軽で通勤するようになると「……軽はないな」と思うに至った。

「軽自動車でも“移動の自由”はもちろん獲得できるのですが、ぶっちゃけもっと車内が広いほうがいいし、もうちょっとパワーも欲しいと思ったんです」

そして椎橋 舞さんの場合は「四角い車がいい」というのもあった。

「おじいちゃんの車が四角いやつで、具体的に言うとスズキ ソリオなんですが、それがすっごく運転しやすかったんですよね。ボディの見切りが良くて。なので、四角い車で、それでいて軽じゃなくて、おじいちゃんが乗ってるソリオでもない、何かいいやつがないかなぁ……と思っていたとき、たまたまトヨタ タンクと出会ったんです」

某所にお祖父様の車で出かけた際に、駐車場の隣の枠にたまたま停まっていた白いトヨタ タンク。そのたたずまいにビビビときた椎橋さんは、お父様に手伝ってもらいながら中古のタンク探しを始めた。

「その過程で姉妹車のトヨタ ルーミーも見てみたんですが、やっぱりタンクのほうがカワイイし、カッコいい。色はもうパールホワイトIIIの一択でしたね。ところどころにある『黒い部分』とホワイトのコンビネーションもすっごくカワイイですし」

そうこうして無事手に入れることになった、中古のトヨタ タンク カスタムG。親に買ってもらったわけではなく自身のローンで購入した、正真正銘「自分の車」だ。

そんな自分のタンクで舞さんは今、比喩的に言えば「身体に翼が生えたかのように」各地を飛び回っている。

「まだタンクに決める前、何らかの車を探している最中に、ビジョンというか“やりたいこと”がパッと浮かんだんです。『車に自転車を積み込んで旅に出たい』って。だから、タンクを選んだのは駐車場で見かけてひと目惚れしたというのもあるんですが、『自転車旅がしやすいだろうな』というのもあったんです。タンクって、後ろの座席をアレンジすれば簡単にフラットな荷室にできますからね」

それに付随して「車中泊の練習」も始めたそうだ。

「いきなり本格的な車中泊をやるのはちょっと怖かったので、近くの道の駅みたいなところで、今日の撮影にも同席してもらった奈々ちゃんと一緒にとりあえず1回、やってみたんですよ。……すると意外にも8時間以上、楽勝で爆睡できちゃって(笑)ウケたんですが」

とにかく「夢が広がる」ということと「思い描いたことをすぐ実行に移せる」というのが、自分の車を持ったことで「いちばん良かったこと」だと、椎橋さんは言う。

「車を買う前は、友人と遊ぶといっても埼玉から都内まで買い物に行くだけだったり、カフェでお茶を飲んだりする程度でした。でも今は自転車旅に始まり――って、小さな電動アシスト自転車を買っただけで、まだ実行はしてないんですが、それこそ車中泊とかキャンプとか……本当にね、夢と希望(笑)が広がるばかりの毎日なんです」

「ほんと、こんなにも素晴らしいモノを、このあたりに住む同世代の男子たちはなぜ買わないのだろう? って、いつも不思議に思ってるんですけどね」

筆者のような昭和世代のおっさんの感覚からすると、埼玉県あたりの若い男性は大方が「自分の車」を持っているものと思ったが、最近はそうでもないのか?

「ぜんぜんですよ! もちろんわたしの周りだけの話である可能性もありますが、たいていの同世代男子は『車なんてなくてもいい』とか、『親の軽を借りられるからそれで十分』『ところで今度、舞ちゃんのタンクを出動させてくれない? ガソリン代はワリカンで』みたいな感じで……ハッキリ言っちゃうと覇気がないんです」

そ、そうなんだ?

「そうなんですよ。むしろ同世代の女子のほうが車の所有率は高いですし、『買うなら軽じゃなくて、でっかいやつがいいよね~』みたいなことを言ってますよ」

いやはや。ここで性差やジェンダーの問題、あるいは世代論などを展開するつもりはない。だが椎橋 舞さんの報告が事実であるとするならば、サイタマの男子諸君にはもう少々の奮起を期待したいと同時に、本稿冒頭のような筆者自身の“思い込み”も、今後は厳に是正せねばなるまいと、あらためて固く誓ったのであった。

(文=伊達軍曹/撮影=阿部昌也)

[ガズー編集部]

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