趣味をとことん楽しむギアとして最高に便利なカスタムプロボックス
トヨタ プロボックスのカスタムがちょっとしたブームになっている。
たくさんの荷物を積んでの長距離移動もこなせるビジネスカーとして開発されたモデルだけに、走りのよさには定評があった。
2002年にデビューし、2014年に大規模なマイナーチェンジを行って今なお多くのユーザーから選ばれているのがその証だ。そこに注目し、プロボックスでモータースポーツを楽しむ人もいるほど。
今のブームはその流れとは異なっていて、初期モデルのシンプルなデザインを活かし、使い込んだ雰囲気を演出してアウトドアを楽しむスタイルが人気だ。
今回お会いした池下孝志さんもその一人。茨城県水戸市にあるスノーボードショップの店長で、休日は渓流釣りやヘラブナ釣り、キャンプ、ゴルフ、サーフィンなどさまざまなアウトドアスポーツを楽しんでいる。
趣味の道具は普段からクルマに積みっぱなし。そうすれば思い立った時にすぐ出かけられるし、途中でやっぱり別のことをしようと思えばすぐに目的を変えることができる。
「普通は遊びに行く時に使う道具だけを積むと思いますが、僕はスノーボードのイベントなど明らかにたくさんの荷物を積むことがわかっている時だけ不要な道具を下ろすという“引き算”のスタイルです。購入してから2年ほど経ちますが、これまで荷物が積めなくて困ったことは一度もない。しかも空荷より荷物をたくさん積んでいる方が気持ちよく走ります。さすが商用車ですね」
20〜30代の頃、池下さんはプロスノーボーダーとして活躍。雑誌の撮影やスノーボードパークのプロデュースなどで全国のゲレンデを駆け巡っていた。当時選んでいたのは輸入車ばかり。理由は単純。女の子にモテると思ったからだ。最初はアメリカ車、その後はドイツ車を選ぶようになった。その中でこだわっていたのは、ステーションワゴンをチョイスすること。
「プロとして活動していると雪山に行く時は荷物が多くなるし、クルマの中で寝ることもしょっちゅう。だから仲間はハイエースをはじめとするワンボックスや大きなバンに乗るやつらが多かったですね。でも車高が高いクルマは地吹雪の影響でハンドルを取られるんですよ。僕はそれが嫌で風が強い中でも安定して走れるワゴンを選んでいました」
そんな池下さんも結婚し、2人のお子さんの親になった。新しいクルマを考えていると奥さんから「普通のファミリーカーがいい」という意見が。
それならフォルクスワーゲンのコンパクトミニバンであるゴルフトゥーランはどうだろう。そう考えていたが、ふとカスタムされたプロボックスが目に止まった。
「それを見た時にやっぱりステーションワゴンがいいなと思って。トヨタディーラーで働く友人に聞いたら『プロボックスはすごいクルマだ』と言われました。スタイルもいいし、燃費がよくて経済的。今回はミニバンではなくプロボックスを選ぼうと決めました」
購入予算は約100万円。60万円くらいで車両を選んで、40万円ほどカスタムに充てようと考えた。最初はオールペンするつもりでいたが、ベースの色である白を活かしたカスタムも悪くないと感じるように。色はそのままにして細かいカスタムを施した。現段階でのカスタム費用は予定の半分ほどで収まっている。
「このクルマには長く乗るつもりなので、『飽きたら塗り替えようかな』くらいの気持ちで楽しんでいます」
現在施したカスタムは以下の通り。
- アメリカンな雰囲気を演出できるYAKIMAのルーフラック
- クラシックな“TOYOTA”エンブレムがついたフロントグリル
- フォグランプ
- ブラックのサイドモール
- 鉄ホイールを自分で黒にペイント
- タイヤのBRIDGESTONEエンブレムの縁を自分で白くペイント
ちなみに現在はプロボックスやハイエースを丸目にしたり、古いモデルの顔つきのようにカスタムする“フェイスチェンジ”も流行している。そのようなカスタムはどう思うか尋ねたところ「初期のプロボックスはもともとがいい面構えをしているからちょっともったいないかな」という答えが返ってきた。
ところで、今回は池下さんの数ある趣味のひとつであるヘラブナ釣りを楽しんでいる場所にお邪魔した。
釣り経験がほとんどない筆者の偏見が多分に入っている可能性もあるが、ヘラブナは釣りの中でも年配の方が楽しむものと思っていた。実際、お邪魔した釣り堀には池下さんよりはるかに年配の方が多い。
釣り堀の淵に座り、ピクピクと動く浮きを眺めながらそんな話をしてみると、池下さんは日に焼けた顔に白い歯を浮かべながらこう答えた。
「僕は45歳ですが、釣りは本当に小さな頃からやっています。ヘラブナは釣り人が最後にたどり着く場所とも言われるほど、究極のゲームフィッシングだと思っています。僕は近所の川でのザリガニ釣りからスタートし、バス釣り、渓流釣りといろいろな釣りを楽しんで20年ほど前にヘラブナにたどり着きました」
この釣り堀は池下さんにとってゴルフ練習場のようなもの。ここでヘラブナを釣る感覚を磨き、池などで竿を下ろす。ところがこの釣り堀で数十匹釣り上げる池下さんでも、外の池だと1匹も釣り上げられないことも珍しくないという。
「ヘラブナはビギナーズラックがない釣り。釣れないのは魚のほうが賢かったということです」
そう言って再び堀の中に仕掛けを垂らす。池下さんの横に置かれたケースの中には何本もの竿が入っていた。
「竿は狙う棚に合わせて、1m50cmから6m30cmまで30cmピッチで揃えています。そのケースの中だけで20本くらい入っているんじゃないかな。それに合わせて浮きや仕掛けも揃えるので、結構な荷物になりますね」
ヘラブナは釣りだけでなく、道具の世界も奥深いと聞く。高級な竹竿は1本100万円以上するし、市販の道具で満足できない人は自作するという話だ。
池下さんも道具にはこだわっているのだろうか。
「僕はそこまで高価なものは使っていません。渓流釣り、サーフィン、スケートボードにスノーボードと楽しみがたくさんあるから、高価なものを揃えたら身が持たないですよ(笑)。ただ、年配の方が多い趣味なだけに僕はスタイリッシュな感じを出したいと思っているので、あえて竹っぽく見えない竿を選んだり、ケースもいいデザインのソフトケースを使ったりしています」
そして手に入れた道具は手入れをしながらとことん使い込む。これは渓流釣りやスノーボードでも同じ。
池下さんの話を聞いていると、クルマ選びも同じ考えだったことが伝わってくる。スタイルを楽しみながらも道具としての機能にこだわり、手に入れてからはその性能をとことん発揮させる。
趣味の道具を積みっぱなしにしていつでもすぐ出かけられるようにしているのも、その現れに違いない。購入時に約7万kmだった走行距離は2年間で13万kmを超えたという。
渓流釣りでは細い山道をプロボックスでガンガン登っていく。山の中を走れば当然、小枝などで細かいキズはついてしまう。雪深い場所に向かえば滑ってボディに凹みができることもあるだろう。
「遊びで道具をタフに使えばキズがつくこともあります。それは仕方ないもの。大切なのは手入れ。釣りを楽しんだ後は竿をきちんと拭き、新しい仕掛けを用意して、次に楽しむ準備をしておく。クルマも同じだと思います。きちんとメンテナンスをしてあげれば、次に乗る時も安心してステアリングを握れます」
幸いプロボックスはパーツが豊富にあるし価格も安いから、細かいことを気にしなくていい。池下さんは今、2年前に手に入れたこのプロボックスをとことん使い倒してやろうと考えている。
「WEBサイトを見ていると普通に50万km走っているプロボックスもあります。そんな世界を目指してみるのも面白いなと感じています」
一つ気になるのは家族の反応。道具として便利に使えるとはいえ、プロボックスは商用車だ。最初に検討したゴルフトゥーランに比べたら明らかに乗り心地は劣る。家族から不満は出ないのだろうか。
「後部座席に座ってもまだ狭いと感じないからか、娘2人は案外楽しんでいますよ。妻は……諦めているのかも。スノボもそうでしたからね。『教えてあげるよ』と言って口説いておきながら、ゲレンデに行ったらスクールに放り込んじゃいました(笑)。プロは案外そういうパターンが多いかもしれないです。自分が思い切り滑りたい人ばかりですから」
最近は小学校高学年の娘さんもスノーボードに興味を持ち始めているが、当分教えるつもりはないという。なぜならまだ池下さん自身が夢中で遊んでいるから。本当にやりたいならそのうち自分で方法を見つけるに違いない。池下さん自身がそうだったように。
プロボックスはそんな池下さんにとことん付き合っていくはずだ。
(取材・文/高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影/柳田由人)
[ガズー編集部]
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