砂や塩も気にせず道具を積む。バンベースのNV200バネットだからできるラフな使い方
前日までの豪雨が嘘のように晴れ上がった休日。だが低気圧の影響で、砂浜に寄せる波はかなりうねっている。そんな中を今注目のマリンアクティビティであるスタンドアップパドルボード(SUP)、ロッドやリールを抱えて慎重に海に入っていくのは吉野史浩さん。海に憧れ、20年ほど前から湘南で暮らすようになったという。
「SUPのボードはボディが大きいので、波が高い日は気をつけないと。海に入る時や浜に上がる時に波に煽られるとロッドが折れたり道具が海に流されたりしてしまいます」
吉野さんが海で遊ぶようになったのは大学時代。サーフィンを始めたのがきっかけだった。理由は単純。モテると思ったからだ。
「サーフィンが楽しいから女の子を浜に残したまま海に入っちゃうし、波がよければデートをすっぽかして海に行くので、あっという間に嫌われます。世の中は甘くなかったですね(笑)」
フラれてもめげずにサーフィンを楽しむうちに、海のそばで暮らしたいと考えるように。東京育ちの吉野さんは、社会人になり思い切って湘南に移り住んだ。この時はまだ自分のクルマは所有していなかったという。海まで自転車で行ける距離に部屋を借りたので、クルマが必要とは思わなかったそうだ。
吉野さんが初めてマイカーを手に入れたのは結婚して子どもが生まれてから。この話を聞くと普通はベビーカーや子どもの荷物を積むためにクルマが必要になったのだろうと思うが、吉野さんは別のことを考えていた。
「男の子だったから一緒にサーフィンをやりたいなと思って。どうせなら湘南の海ではなく、サーフキャンプを楽しもうと考えました」
サーフキャンプとは文字通りキャンプをしながらサーフィンを楽しむこと。人によってはよりいい波を求めてキャンプ場を転々とすることもある。サーフボードやウェットスーツに加えてキャンプ道具も持っていくので、積載力のあるクルマが必要だ。
吉野さんは家族でサーフキャンプを楽しむために、レアなクルマをチョイスした。フォードがマツダからボンゴフレンディのOEM供給を受けて販売した5ナンバーサイズミニバンのフリーダだ。
「クルマに限らず、人と同じものは所有したくないタイプなんですよ。ボンゴフレンディはたまにすれ違うことがありましたが、フリーダはまず出合わない。そこが気に入っていました。直線的でクールな顔つきも好きでしたね」
街中で運転しやすい5ナンバーサイズなのに積載力は抜群で、しかもシート下のスペースにサーフボードを2枚積める。あまりにも便利なので、最終的に10年以上乗り続けたという。
フリーダを手に入れてから、吉野さんは念願のサーフキャンプを存分に楽しんだ。長期休暇の際は北海道や九州のサーフポイントまでフリーダを走らせることもあったという。
フリーダの走行距離はかなり伸び、最後は調子が悪くなった。吉野さんは5年前にクルマの買い替えを決意。そして選んだのが今回紹介する日産 NV200バネットだ。
「NVを買う時も、考えたのはとにかくたくさんの荷物が積めること。そして周りに乗っている人が少ないことでした」
NV200バネットは元々商用車として開発されたモデル。街中で多く見かけるが、ほとんどは仕事道具や配送の荷物を積んだビジネス仕様。これをプライベート用で使っている人は多くない。何より貨物車として開発されたモデルだから荷室がとにかく使いやすい。吉野さんの好みにぴったりハマるモデルだった。
「サーフボードも楽に中積みできるし、キャンプ道具が積めなくて困ることもありません。僕はいざという時にたくさんの人が乗れるよう3列シート仕様を選びました。NVは3列目席を横に跳ね上げられるのはもちろん、2列目席も前方に跳ね上げて荷室を広げられます。すごく便利ですよ」
長期のバカンスを楽しむ習慣があるフランスでは、スライドドアを備えた商用モデルのフルゴネットバンを乗用仕様にしたモデルがある。ルノー カングーやシトロエン ベルランゴなどは日本でも人気が高い。
NV200バネットの3列シート仕様は、それらと同じ発想のモデルと言えるだろう。最近ではその使い勝手の良さから車中泊仕様のベース車として選ばれるケースも増えている。
全幅は5ナンバーサイズで、全長は同じ日産のセレナより30cm以上短い4400mm。平日に運転する機会が多い奥さまからも「街中で扱いやすい」と好評だ。
吉野さんはNV200バネットの飾り気のないシンプルさが気に入っている。
「特に好きなのはリアスタイルですね。荷物を積むことを最優先に設計した真四角なスタイルが潔いし、小さなテールライトもシンプルで可愛い。ベースが商用車だからゴテゴテといろいろな機能がついていないことも気に入っています。ただ……運転席と助手席は気にならないのですが、後ろの席はあまり乗り心地が良くないと文句を言われます(笑)」
そんな吉野さんがSUPで釣りを楽しむようになったのは今から3年ほど前。きっかけは友人のSNSだった。
「釣り自体は昔からやっていましたが、堤防で楽しむ程度でした。釣れても20cm程度のものばかり。それでも十分楽しんでいました。ところが友人がSUPフィッシングを始めて、見たことないようなサイズの魚を釣り上げている写真をしょっちゅうSNSにアップするようになったんです。『これはすごい!』と思い、飲み会で会った時に教えてくれと頼み込みました」
まずはどんな環境でもちゃんと1人で漕げるように練習。そして練習を始めてから半年。ロッドを持って海に出た。するとSUPフィッシングデビューで60cm級の魚がヒット。これまで経験したことないヒキでSUPが魚に引っ張られる。吉野さんは魚のヒキに負け、ボードから落ちてしまった。
この強烈な経験で、吉野さんはSUPフィッシングの虜になる。話を伺った数週間前には30分以上格闘し、80cmを大きく超えるブリを釣り上げたという。
「SUPフィッシングを始めてから、海遊びの幅が大きく広がりました。早朝に海に出て、いい波があればサーフィン、凪いでいたらSUPを持って海に入ります。サーフィンだけを楽しんでいた頃は波がなければ諦めて帰るしかない。でも今はほぼ毎週海に出ています」
興味があるのは、NV200バネットへのボードの積み方だ。ボードは長さが10フィート(約3m)以上あり幅も広いため、ほとんどの人はボードをルーフに載せている。ところが吉野さんはサーフボードだけでなく、ボードも中積みすることにこだわっている。
「SUPを始めた時、中積みできるか気になりましたが、NVは助手席の背もたれを前にパタンと倒すことができるので、10フィートのボードなら車内に積むことができました。これは助かりましたね。ただ、ボードを積んだ時は運転席に一人しか座れませんが。だから、家族で遊びに行く時はインフレータブル(空気注入式)のボードを持っていきます」
吉野さんへのインタビューはSUPフィッシングを終えた後にお願いしたのだが、後片付けを見てギョッとした。吉野さんはボードを軽く水で流した後、まだ砂が残っているのも気にせず車内に積んでしまったのだ。
「NVは遊びを楽しむための道具ですからね。細かいことは気にしません。遊び道具をたくさん積むから車内も小キズがついていますが、そういうものだと割り切っています」
細かいことは気にしない。おそらくこれは吉野さんの性格だろう。だが、もし高級車やインテリアが豪華なグレードが設定されたクルマを選んでいたら、さすがに今のような使い方はできなかったはずだ。
もともとがタフに使われることを想定して開発されたNV200バネットは、吉野さんにとって最良の選択だったのだろう。このクルマだからこそマイペースで海遊びを楽しみ、家族との時間も大切にすることができる。
手に入れてからまだ5年。これからも吉野さんはNV200バネットを使い倒していく。クルマも吉野さんの楽しみ方に応えてくれるはずだ。
(取材・文/高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影/柳田由人)
[ガズー編集部]
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