ホンダ オデッセイで全国を旅するフラメンコギタリスト&You Tuberの自由気ままな生き方

筆者はPCに向かって原稿を執筆している時、YouTubeでインストゥルメンタルの音楽を聴いている。ところがコロナ禍になってから、旅モノや食モノの動画を流すことが多くなった。おそらく旅行や外食ができなくなったストレスもあったのだろう。その頻度が日増しに多くなったのをよく覚えている。

ある日、レコメンドされた動画を何気なくクリックした。それは筆者と同じ歳くらいのおじさんがとくに喋りもせずただ釣りをしたりラーメンを食べているものなのだが、店の喧騒とバックで流れるギターの音色が程よくブレンドされているのがとても心地よく、気付いたらヘビーローテーションしていた。

そのおじさんは、関東近郊はもちろん、北海道・東北・北陸・山陰・四国、そして九州と、文字通り全国で食事(ラーメンが圧倒的に多い)をしている。不思議だったのは、動画の中にちらっとクルマが映り込むのだが、それがいつも同じ3代目ホンダ オデッセイなのだ。

「この人、もしかして自分のクルマで全国を旅している?」

そう思うと俄然興味がわき、GAZOOで取材させてほしいとコンタクトをとってみた。それが今回ご登場いただいたMeloncito(メロンシート)こと松村哲志さんだ。

松村さんの本職はフラメンコギタリスト。フラメンコロイドというバンドを組み、バンドメンバーとともにライブをしながら全国を旅している。YouTubeではその合間に立ち寄った店などを紹介しているという。動画で流れるギターはすべて松村さんが弾いているものだ。

「フラメンコは踊り手が主役で音楽は脇役です。生活に困らないほどにはギタリストとしての仕事はあったのですが、そればかりじゃ面白くないなと感じるようになり、2010年頃に仲間とフラメンコバンドを結成して全国を旅するようになりました。その頃からライブの模様をYouTubeにアップしていたのですが、もっと表現を広げたいと考えていたときに友人から『地方の食などを紹介してみたら』と言われて、旅先での食事や自分の料理、釣りなどの動画をアップするようになったのです」

松村さんが管理しているチャンネルは自身の名を冠した『メロンシート ジャーニー』と、バンドの名がついている『ロイドごはん』、そして松村さんの演奏やバンドのライブ映像を中心にアップしている『フラメンコロイド』。松村さんは主に『メロンシート ジャーニー』に登場する。

冒頭にも書いたように、『メロンシート ジャーニー』では松村さんが全国津々浦を旅し、さまざまなものを食べたりキャンプや釣りを楽しんだりしている模様がアップされている。現在、松村さんが暮らしているのは神奈川県の湘南エリア。つまり北海道の旭川や鹿児島となると、軽く1000kmを超える旅になる。それをすべてクルマで回るのはつらそうだが……。

「バンドを組んだ頃は電車や飛行機を利用することもありましたが、ギター、カホン、ジャンベといった楽器や機材、さらに趣味の道具を持ち歩くことを考えるとクルマのほうが圧倒的に楽だという結論に達しました。今は沖縄以外だと基本的にクルマで出かけています。僕の父の実家は京都の丹後半島で漁師をやっていました。父は仕事で九州までクルマで出かける機会もありました。それもあって長距離移動に抵抗がなかったのかもしれないですね」

全国を旅する手段を公共交通機関からクルマに変えたら、旅の楽しみが広がった。高速道路を走っていても、この付近に有名な店があるようだとメンバーが言えば高速道路を降りて向かうことができる。それが秘境にある店だって躊躇する必要がない。そして途中でこれまで見たこともないような絶景に出合うこともしばしば。クルマのおかげで、移動は旅の手段から目的へと変わった。

「もちろん飛行機や新幹線に比べるとクルマ旅は時間がかかります。でも乗り換えとかを考えたらなんだかんだでクルマのほうが楽だったりするし、大きな機材を持って満員電車に乗って周りの人に迷惑をかけることもない。それに大阪だったら家を朝5時くらいに出れば昼前には到着できます。出発時間を調整すれば電車で出かけるのと変わらなかったりしますからね。不便はまったく感じません」

ちなみにバンドメンバーとの旅は、すべて松村さんが運転。道中はずっと3人で喋っているという。まるで修学旅行のバス旅のようだ。バンドの旅は長いと出発して20日間くらい自宅に戻らないこともある。そして一度家に戻って洋服などを入れ替え、すぐまた旅に出る。そんな暮らしがもう何年も続いている。

ここで松村さんの愛車であるオデッセイについても話を聞いた。

「初めて買ったクルマは中古車屋さんに安いよとすすめられたメルセデス・ベンツのE350でした。ベンツは廃車になるまで乗って、次も同じE350を買いました。重厚感があるし高速道路で路面に吸い付くように走るのでとても気に入っていましたが、セダンだったので3人で乗ると荷物がほとんど積めないことが不満でした。そこで次は3列シートの大きなクルマにしようと思ったのです」

ただ、ミニバンを選ぶ時にネックになったのが駐車場事情。松村さんが借りている駐車場はマンションの機械式で、高さ1550mm以内という制限があった。それならステーションワゴンという選択肢もあったが、もしかしたら5人以上で乗る機会があるかもしれないし、何より機材と釣り道具やキャンプ道具を一緒に積むために荷室は広いほうがいいので、ミニバンという選択肢は捨てられない。松村さんが選べるクルマはオデッセイの一択になったという。

クルマに詳しい人ならご存じのように、3代目オデッセイはミニバンでありながら全高を1550mmに抑えて立体駐車場への入庫を可能にしたモデル。また、重心が低くなったことでスポーティな走りを楽しめるため、現在でも人気があるミニバンだ。

「ベンツに比べると乗り味はかなり軽くなりましたが、そこはすぐに慣れました。それよりも3人で乗ってもたくさんの荷物を積める利便性が気に入っています。ベンツの時は楽器や釣り道具、キャンプ道具を毎回入れ替えていたのですが、それをしなくて良くなったのは本当に楽ですね」

ロイド号と名付けたグレイッシュモーブ・メタリックの愛車は、松村さんにとって2台目のオデッセイになる。最初のオデッセイは約4万km走行したものを中古で手に入れ、そこから20万km以上走って廃車になった。前述したように今の松村さんのライフスタイルを考えると選べるクルマはオデッセイしかない。松村さんは3年前に再びオデッセイを購入。今度は走行2万km程度のものが見つかった。現在の走行距離は10万kmを超えたところだ。

「コロナ禍になってからライブで全国を回れなくなったので全然乗れていないんですよ」と苦笑いするが、それでも3年間で8万km以上走っているのだからかなりのハイペースだ。

どうやら松村さんは、気に入った道具はとことん使い倒すタイプのようだ。ロッドやリールはもう何十年も使っているものばかり。無数のキズと塗装の剥げが、道具をガンガン使い倒していることを物語っている。

クルマも然り。外観をよく見ると、四隅に擦りキズがついているし、アルミホイールは潮焼けで黄色く変色している。しかし道具としてしっかり仕事をしてくれるのだから、そんなことはお構いなし。むしろ使用感が出ている部分は“勲章”と感じさせる雰囲気すらにじみ出ている。

「長距離移動をしている時など、たまに『ロイド号、すごく頑張っているな〜』と感じることもあります。するとどんどんこのクルマのことが愛おしくなります。だから自分の動画でロイド号のカットをちょいちょい差し込んでいるのかもしれません」

松村さんは早朝から釣りを楽しむ時、車中泊をすることも多い。車中泊の際は荷物を全部前席に移し、2列目席と3列目席を格納してそこにあぐらをかいて過ごしている。ここで思うのは、車中泊の機会が多いならもっと背の高いミニバンのほうが楽だと思うのだが。

「先程も話したように、僕のクルマ選びは自宅マンションの立体駐車場に置けることが絶対条件です。少し離れた平置き駐車場を借りるという方法もあるのですが、荷物の積み下ろしが面倒ですからね。確かにオデッセイは車内の高さがありませんが、それでも普通に座ったり寝たりするのに支障はありません。もっとも今は天井にロッドホルダーを付けているのでそこに頭が当たってしまいますが(笑)」

クルマ旅の楽しさは多くの人が実感していること。しかし松村さんのような楽しみ方は、サラリーマンをはじめ休日が限られる人にはなかなかできるものではない。これは筆者も同じだ。だからこそ松村さんの生き方を羨ましく思う。

「僕は性格的にサラリーマンには向いていません。だからこそ、自分ができる生き方を存分に楽しもうと決めています。実は先日もある人から『最近何が楽しい?』と聞かれて、僕は『生きること』と答えました。おそらくクルマがなかったら、ここまで自信を持って『生きることが楽しい』とは言えなかったと思います」

松村さんはこれからも2代目ロイド号とともに人生を謳歌していくに違いない。

最後に全国津々浦々さまざまな食を楽しんでいる松村さんに、記憶に残る、GAZOO読者にもおすすめしたいラーメン店を聞いたので紹介しよう。

「まずは山口県の瀬戸内海にある周防大島の“たちばなや食堂”。ここのいりこ出汁のラーメンは最高です。同じ山口県の下松にある“中華そば紅蘭”の牛骨ラーメンも絶品でした。有名店ですが福島県白河にある“とら食堂”もぜひ食べてもらいたいし、青森県の津軽地方にある“中華そば田むら”も忘れられない味でしたね」

おすすめを聞いたら全国の店がパッと出てくるのはさすが。すべてに行ってみるのは難しいが、旅行で近くを訪れた際はぜひ足を運んでみたい。

(取材・文/高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影/柳田由人 編集/vehiclenaviMAGAZINE編集部)
「メロンシート ジャーニー」

[ガズー編集部]

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