WRCホモロゲモデルのファミリア『GT-R』でスタンプラリーを愉しむ
市販車ベースのハイパフォーマンスマシンに与えられる“GT-R"という名称。その代表として多くの人がまず思い浮かべるのは日産の歴代スカイラインや現行モデルだと思われるが、ここで紹介するのはマツダ・ファミリアのGT-R(BG8Z型)。WRCでの勝利を目指して1992年にデビューした、ホモロゲーション取得用の限定モデルだ。
2023年10月22日、爽やかな秋晴れのなか栃木足利市の河川敷で開催された『クラシックカーヘリテイジカーミーティングTTCM2023』に、1993年式のファミリアGT-Rで参加していた小松さんが、このクルマを手に入れたのは今から12年前のこと。
限定生産モデルのうえ競技車ベースとなったものも多かったため中古車市場に出回っているタマは非常に少なかったというが、中古車情報を頻繁にチェックしてようやく巡り合ったのが走行距離5万kmのワンオーナー車という極上車。お住まいの東京から名古屋の中古車店まですぐに行き、実際にその目でクルマの状態を確認して購入することにしたそうだ。
ちなみに小松さんにとってこのファミリアGT-Rは2台目の愛車で、それまで乗っていたのは初代のマツダロードスター(NA系)とのことなので、生粋のマツダ党なのかと思いきや、小松さんはこう答えてくれた。
「じつは元々クルマはあれば便利というくらいの存在で、車種などにはあまり興味がなかったんです。今も乗っているのですが、イタリアのドゥカティというバイクが好きで、クルマが必要になるのは妻の実家帰省のときくらいなんですよね。ロードスターはそれまで乗っていた(奥さんの)スズキエスクードが壊れたので『次はオープンカーに乗ってみたい』と思って買ったものでした。そして、ロードスターに8年くらい乗ったので、そろそろ買い換えようと思って探したのがファミリアでした。弟が乗っていたGT-Rに乗せてもらったことがあったのですが、その時の路面に張り付くようなフルタイム4WDのバランスがいいと思ったのが選んだ理由でした」と教えてくれた。
ご兄弟揃ってレアなファミリアGT-Rを所有するなんて、やはり小松家とファミリアGT-Rにはただならぬ縁があるということなのだろう。
そんな限定車を前にしてやはりまず気になるのは、ボンネットの下に収まる1.8L直列4気筒DOHCターボのパワーユニット。BP型と呼ばれるこのエンジンはベースになっているGT-Xにも搭載されているものだが、GT-Rに搭載されているのは特別仕様。コンロッドや排気バルブが強度や耐熱性に優れた専用品であるほか、ターボチャージャーも大型化が図られ最高出力はGT-Xの180psに対し210psを発揮。もちろんそのパワフルさは現在も健在で「ノーマルのままでもパワーはちょうどよく、とくに不足はありませんね」とのこと。
またメーカーの手によるものとはいえハイチューンのスポーツエンジンということで、トラブルも気になるところだが、この疑問に対しては「古いといっても90年代のクルマですから、それほど神経質になることはないと思います。普段の足として平均して年間1万kmくらいは走りますが、これまでの12年間でレッカー車の世話になったのはクラッチレリーズの故障による1回だけです」とのこと。このファミリアGT-Rで各地の道の駅を巡りながらスタンプ集めのドライブを楽しんでいた時期もあったと、集めたスタンプ帳を眺めながら振り返ってくれた。
ただし多くの旧車オーナー共通の悩みである純正パーツの調達が難しいという点は、やはりこのファミリアGT-Rでも例外ではないようです。「最近行った補修としては、エアコンなんですが、なんだかんだで3年かかりました。コンプレッサーはベース車とは異なる専用品のようで、新品はもちろんリビルト品もありませんので電装屋さんを探して修理してもらいました。エアコンホースも劣化していたのですが、こちらも代用品も含め調達できませんでしたので、仕方なくダメな箇所を部分的に補修して対処してもらい、ようやく今年の夏は快適に過ごすことができました」とのこと。なるほど、それがエンジンルーム内のエアコンホースがやけにピカピカの状態である理由というわけだ。
コンパクトで扱いやすい3ドアハッチバックボディも小松さんにとってお気に入りのポイントのひとつで、ホワイトの塗装は基本的に新車当時からのオリジナル。
ちなみにフロントフェンダーの『GT-R』ステッカーエンブレムも健在だが、これはFC3S型サバンナRX-7、GD系カペラC2というマツダのGT-Rの名を与えられた3車共通のものというのはちょっとしたトリビアらしい。
大型の丸形フォグランプやエアアウトレット付きのボンネットはGT-Rの専用装備品。フロントバンパーの独特な厚みは、バンパー内にインタークーラーを収めるためのデザインなのだという。こういった“戦うために生まれた”作りは、オーナーならずとも思わずワクワクしてしまう部分だろう。
エクステリアはホイールに至るまで完全なオリジナル状態で「購入した当初はWRCマシンが履いているOZホイールにしたいなぁと思ったこともありましたが、今はここまでオリジナルなのであれば、むしろこのままの状態を維持していきたいという気持ちのほうが強いですね」とのこと。
運転席と助手席にホールド性の高いスポーツシートを採用したブラック基調の室内も、30年の年月を感じさせない良好なコンディション。
唯一シフトノブは傷んでしまったため社外品に変更しているというが、劣化が進んでいたモモ製スポーツステアリングは数年前に専門業者で補修してもらったという。
「自分としては古いクルマに乗っているという意識はあまりないのですが、イベントなどで若い人から『ゲームでしか見たことがありません』なんて言われて驚いてしまいます。バブル崩壊でWRCワークス活動撤退という悲劇も含めて、このファミリアGT-Rのすべてが気に入っているので、乗り換える気などはまったくないし、そのお金があるのならレストアに費やして長く乗り続けていきたいですね」
競技のために生まれ多くのファンを魅了した『GT-R』は、まだまだ小松さんの心を掴んで離さないようだ。
取材協力:クラシックカーヘリテイジカーミーティングTTCM2023
(⽂:川崎英俊 / 撮影:平野 陽)
[GAZOO編集部]
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