半世紀前の最高級車トヨペット クラウンを今、趣味で転がせるという贅沢
日本を代表する車種シリーズとして、長い歴史をもつトヨタのクラウン。その最新トピックスと言えば、グローバルモデルとして完全リニューアルとなった現行のS30系ということになるが、ここで紹介するのはそのルーツとなる50年以上も前に登場したS5#系だ。博物館展示級の希少なクラウンのオーナーは佐藤さん。群馬のご自宅から栃木県足利市のイベント会場まで、しっかり自走でやってきた動態保存車両だ。
S5#系はクラウンの3代目として1967年にデビューしたモデルだ。その特徴はそれまでのアメ車的なスタイルとは一線を画する「日本の美」をテーマとしたロング&ローの重厚なボディデザイン。また、技術的な面ではシリーズ初となったペリメーターフレームの採用によって底床化が可能となり、車内の居住性が大きく向上することとなった。ボディタイプは4ドアセダンとステーションワゴンのほか、ライトバンとピックアップの商用タイプも設定。1968年には2ドアハードトップも追加と、豊富なバリエーション展開となっていたのだ。
佐藤さんが所有するのは、そんなS5#系の初期型4ドアセダン最上級グレードであるクラウンSスーパーデラックスのMS50型だ。
「購入したのは4年前でした。知り合いの中古車販売店に長く展示されていたものですが、まだまだ乗れそうな感じだったので話を聞いてみると、前オーナーから『群5・・・・』という新車からのナンバープレートを引き継げる人に譲渡したいという意向があるので、なかなか次のオーナーが決まらないとのこと。幸運にも私はその条件を満たせたので、晴れて愛車として迎え入れたというわけです。書類上では私が3オーナー目となりますが、事実上はほぼワンオーナーと言えるもの。寿司屋の大将が新車で購入し、長くお客さんの送迎用に使用していたクルマだそうです」と、佐藤さんは購入までの経緯を教えてくれた。
購入時の走行距離は7万7000kmという低走行の極上車だったとは言え、車齢50年以上で長期間動いていなかったクルマとなれば、走行できるようになるまでかなりの整備が必要だったはず。それに対する佐藤さんの返答は「たしかにボディや車内はホコリまみれの状態でしたが、油脂類と冷却水、バッテリーの交換など、一般的なメンテナンス程度ですぐにエンジンはかかりましたよ」という意外なものだった。
エンジンルームに収まる2000cc直列6気筒OHCのM型エンジンは、先代モデルのMS41と共通のもので、最高出力125ps、最大トルク16.5kgmというスペック。エンジン本体やキャブレターなどに変更はないが、点火系をフルトランジスタ方式に変更している。ラジエターもノーマルだが、購入後にコアの補修を行なったということだ。
こうした整備作業はすべて自身で行なったそうだが、佐藤さんはプロのメカニックではない。
「クルマの基本的な構造などは、かつて自動車解体の会社に勤めているときに身につけたものなんです。クルマは走ってなんぼだと思っているので、オリジナルとか当時物とかにはこだわらず、使えるものはなんでも使おうということで、信頼性の高いフルトラ点火にしたわけです。その他、購入後には足まわりやブレーキの点検・補修をしましたが、足まわりの部品の多くは後継モデルと共通だったので、思いのほか部品には困りませんでした。そして、ブレーキのマスターシリンダーはなんとかネットオークションで調達できましたが、苦労したのはブレーキドラムやシューですね。クラウン用はなかったので詳細を調べていくと、SR311型のフェアレディやベレットの物が流用できたのでそちらを使いました」
どうやら、こうしたメーカーや年式違いなどに捕らわれない現車合わせのパーツ流用整備術は、クラウンの購入以前から長く所有しているというメインカー、オールドミニで培われたものとお見受けした。
さてここからは、さらにMS50クラウンの各部を詳しく拝見させていただいた。
まずは室内。さすがに最上級グレードということでビニール張りのシートは分厚くて、見るからにクッション性に優れていそうなことが伝わってくる。またショーファードリブンとしての利用も考慮した高級車なので、後席のフットクリアランスは十分で居住性が高く、読書灯も装備している。
当時最先端の快適装備もスーパーデラックスには満載で、パワーウインドウや集中ドアロックはもちろん、電磁式のトランクオープナーも装備。細いステアリングは中央部の王冠マークも誇らしげだ。
3眼タイプの丸形メーターは、中央が速度計、右が水温・燃料・電圧のコンビネーションで、左が時計となっている。ミッションはオーバードライブ機構付きの3速コラムシフトマニュアルだが、ほかにも2速ATタイプも用意されていたのだとか。
オーディオはオートチューニングのAM/FMラジオが標準だったようだが、佐藤さんのクルマには助手席前方にオプション設定の8トラックカセットデッキも装備。さらにその下にはCDデッキも追加されており、この一角にカーオーディオの進化、歴史が凝縮されているようで興味深かった。
そして驚いたのがクーラーのレイアウトで、なんとユニットはトランク内に設置されていて、冷気の吹出口はリヤスピーカーボードに配置されているのだ。さらにオプション設定のクールボックス(冷蔵庫)まで装着されていたのだが、これはひょっとして寿司ネタの運搬用に使われていたのかもしれない…と、思わず想像を膨らませてしまった。
購入後は好調維持のためにミーティングやイベント参加を中心に、年間1000kmくらいは走行させているそうだが、最後にこのクラウンの今後について伺ってみることにした。
「古いということはあまり気にせずに、クルマなんて所詮は“モノ”じゃん、というくらいの気持ちで付き合っているのが好調を保つ秘訣かもしれませんね。ちなみに、これまで何度も修理したのはラジオのオートアンテナです。今後も大切に維持していくつもりですが、50歳になってそろそろこのクラウンの将来のことも考えるようになりました。息子か娘に譲れればベストなんですが、それがダメでも、できれば若い人にこのナンバープレートとともに、クラウンの歴史を長く引き継いでもらいたいですね」
走る文化遺産として、今後も全国各地の空の下で、元気な姿を見せてくれることを期待せずにはいられない。
取材協力:クラシックカーヘリテイジカーミーティングTTCM2023
(文:川崎英俊 / 撮影:平野 陽)
[GAZOO編集部]
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