前オーナーの意思を継ぎ、名車を維持していくセカンドオーナーの志

  • クラシックカーヘリテイジカーミーティングTTCM2023で愛車取材したトヨタ初代ソアラ

    初代ソアラ

言うまでもなく、クルマというのは金属や樹脂などで構成されている工業製品である。しかし5年、10年と長く乗り続けているうちに愛着が増していき、オーナーにとっては大切な家族やペットのような、かけがえのない存在になっていくものだ。それゆえに、なんらかの事情で手放すことになった際には、これまでと変わらず、いや、それ以上に可愛いがってもらえるように…という気持ち。きっとクルマ好きなら経験したことがあるのではないだろうか。

  • クラシックカーヘリテイジカーミーティングTTCM2023で愛車取材したトヨタ初代ソアラ

まさにそんな前オーナーの気持ちや想いも含め、初代ソアラ(GZ10型)を昨年譲ってもらったのが橋本さん。前オーナーは新車から37年間も大切に乗り続けていたが、高齢となってマニュアルシフトの操作が難しくなり手放すことを決意。譲渡に際しての条件は「大切に乗り続けてほしい」というのはもちろん、今では取得することのできない「栃58 XXXX」という愛着あるナンバープレートをそのまま引き継いでほしいという事だった。

  • クラシックカーヘリテイジカーミーティングTTCM2023で愛車取材したトヨタ初代ソアラはマニュアル車

そんな話を知り合い経由で知った橋本さんは、現車をチェックし、試乗をさせてもらってから購入を決意。「この初代ソアラは、私が免許を取得してクルマに乗り始めた頃にデビューしたもので、当時の若者にとって憧れのクルマだったんです。私も欲しいと思っていましたが、どうしても予算的に叶わずにマークⅡ(GX71型)を購入しました。それ以来ずっと、いつかは乗りたいクルマと思っていましたので、今回のお話はまたとないチャンスでした。走行距離は26万kmでしたが、しっかりメンテナンスされていましたし、純正の5MTというのも希望にピッタリでした。やはり、スポーツクーペはマニュアルシフトで運転したいじゃないですか」と、購入までの経緯を語ってくれた。

この初代ソアラ(Z10系)がデビューしたのは1981年。ヨーロッパの高級GTカーを目標として開発されたパーソナルスポーツクーペで、当時のバブル景気にも後押しを受け、大人気となった80年代ハイソカーブームの代表格ともなったモデルだ。国産高級パーソナルカーとして先行デビューしていた日産レパードと国産高級パーソナルカーとしての地位や争いや比較も話題になった。ソアラはトップグレードに2.8L DOHCの5M-GEUエンジンを擁して、マイコン式オートエアコンや多機能なドライブコンピューター、クルーズコントロールなど数々の最先端技術が採用された豪華絢爛な装備面でもアドバンテージを獲得していた。

  • クラシックカーヘリテイジカーミーティングTTCM2023で愛車取材したトヨタ初代ソアラは1G-GEU

橋本さんが乗る2000GTは、1983年のマイナーチェンジで設定された後期モデル。その最大の特徴となっているのが、最高出力160psのパワフルな6気筒DOHC4バルブの1G-GEUエンジンだ。
「これまでのところエンジンは好調で、トラブルなども一切ないのはトヨタ車の品質の高さを感じる部分ですね。油脂類の交換など、基本的なメンテナンスは同級生が店長を務めている地元のディーラーにお任せしています」とのこと。

好調なエンジンやパワートレーンに対し、橋本さんが購入後に補修を施したのがエクステリアだという。
「後期型の特徴でもある、前期型から20mm延長されたバンパーは、とくに黒い樹脂部分の色褪せがひどくなっていたので塗装で補修しています。ドアミラーのカバーも傷んでいたのですが、こちらは幸運にも部品の在庫があったので新品に交換できました。本当はバンパーも新品に交換したかったのですが、いざ補修をしたいと思ってもパーツが手に入らないというのが、維持していくうえでの苦労ですね」と橋本さん。取材当日に披露された美しい外観もあってか、苦労の面影は感じなかったが、やはり多くの旧車オーナーが抱える悩みは、このソアラでも例外ではないようだ。

エクステリア関係で、今後の課題となっているのが電動サンルーフで、現状では開けてしまうと閉めることができない状態になっているそうだ。せっかくのオプション装備品なので、開放感ある走りを楽しむためにも、しっかりと補修していきたい箇所だという。

そして、最も苦労した部分というのがインテリアのレストア作業。とくにダメージがひどかったのがドライバーズシートで、長年に渡る乗り降りによって表皮のファブリックが破れてしまっていたため、専門業者に依頼して純正に近い素材で部分補修をしてもらったそうだ。そして、ドアとルーフ部分も同様に劣化が見られたため、こちらもオリジナルの雰囲気を崩さぬよう、丁重に張り替えが行なわれている。

  • クラシックカーヘリテイジカーミーティングTTCM2023で愛車取材したトヨタ初代ソアラのデジタルメータ

    バックライトが暗くなっているデジタルメータ

その他にも、ドライブの際の実用面でのアップデートを目的として、オーディオユニットはバックモニター機能も備えたナビゲーションシステムへと変更し、ETC車載器の追加も行っている。こうしたエクステリアとインテリアの補修に費やした期間はトータルで8ヶ月。「クルマは昨年の6月に購入したのですが、実際に乗り始めたのは今年の2月だったので、まだ本格的に動かし始めてから8ヶ月というところです。インテリアでもまだやりたいことがあって、まずはメーターパネルをレストアしたいと思っています。せっかくのデジタルメーターなのですが、バックライトの照度が低下しているようで、昼間はよく見えない状態なんですよね。今はコレを直せるプロショップがないか調べているところです」と、完調を目指す橋本さんの“ソアラ補修プログラム”はまだまだ続いていきそうだ。

聞けば橋本さん、このソアラのほかにもレクサス・LS、トヨタ・アルファード、スズキ・ワゴンR、三菱・パジェロミニを所有しているということで、バラエティに富んだクルマ選びのこだわりも気になるところだ。
「免許を取得して最初に買ったカローラⅡに乗って感じた『自分の思い通りにいつでも行きたい場所に行ける』という、クルマに対する魅力は今も変わらないものなんです。クルマ選びは、基本的には欲しいと思ったものを買うというスタンスなのですが、気に入ったクルマは愛着がわいて手放せなくなってしまう性分なので、増車、増車で気がつけば5台になってしまいました」という。

そんな数ある愛車のなかでこのソアラは“見て楽しむ”を主目的として、今後はイベントやミーティングへの参加を通じて多くのクルマ好きに見てもらいたいとのこと。
「前オーナーからは『できることなら純正のままで』と託されましたが、ここまでオリジナルを保っているソアラ(GZ10型)は滅多にありませんから、もちろんそのつもりで付き合っていきます」と締めくくってくれた。歴代オーナーの想いを積み重ねながら、今度も末永く受け継がれていくことだろう。

取材協力:クラシックカーヘリテイジカーミーティングTTCM2023

(文:川崎英俊 / 撮影:平野 陽)
[GAZOO編集部]