幻のマツダスピードC-SPECというコンプリートカーを所有する歓び
1997年に限定30台で発売された、初代ロードスター(NA型)をベースとするコンプリートカー『マツダスピード・ロードスター Cスペック』。この幻とも言われるクルマをご存知だろうか? 筆者は“随分と奇抜なスタイルのクルマが出たな"という衝撃を、おぼろげながら記憶している。
栃木県足利市で開催された『クラシックカーヘリテイジカーミーティングTTCM2023』の会場でそんな希少車を目の当たりにして、思わずオーナーさんに声をかけられずにはいられなかった。
詳細を調べてみると、ちょうどNA型からNB型へとバトンタッチするタイミングでの発売となっており、新型(NB型)にはストリート向けのツーリングキットという位置付けで『Aスペック』を設定。対して、旧モデルのNA型をベースにボディやエンジンから内外装までフルスペックでチューニングしたコンプリートカーが『Cスペック』、さらにこのCスペックのボディキットだけを『Bスペック』としてマツダスピードが販売していたという。
当時の資料によると『Bスペック』のボディキットだけでも135万円。コンプリートカーの『Cスペック』となると530万円(ベーシックグレードは435万円)というプライスであった。ロードスター(NA型)のベース車両価格が197万円だったことを考えると、パーツ代もろもろのアップチャージは、なんと200~300万円を超えてくるという、なかなかのスーパーカーぶりである。
そんな『Cスペック』を所有するのが村木徳久さん。Cスペック発売が話題となっていた当時もロードスター(NA型)に乗っていたそうで「すごいコンプリートカーが出たなぁ、これに乗ってみたいなぁ!」と思ったものの、高価で手が出なかった。そして、ほどなくして結婚を機にNAも手放してしまったのだが、やはり自分の原点はNAにあったと思うようになったという。
そんな時を経て『子供も大きくなり落ち着いてきたので、やっぱり大好きなNAにもう一度乗りたい』とネットで調べていてこのクルマを発見したのが3年前。「無理してでも買っちゃおう。こんなチャンスは二度とない。買わないと絶対後悔する」といった衝動に自身を突き動かされるように、現車確認もせずに契約を敢行したそうだ。
前オーナーがカーコレクターだったらしく、手元にやってきたのはガレージで大切に保管されていた極上の“納屋物件"。前オーナーのSNSにも詳細なスペックが出ていて、どうやら村木さんが3オーナー目らしい。
「自分が知る限り、現存しているCスペックは3台しか確認できていません。残る2台のうち1台は個人オーナーさんが所有していて、もう1台はマツダのディーラーで飾られているそうなんです」と教えてくれた。プロトタイプのマシンや『Bスペック』を装着した車両はいくつか存在するようだが、村木さんの愛車は正真正銘ホンモノの『Cスペック』。お墨付きとなるシリアルプレートも確認できる。
スポーツカー好きの誰もが憧れる存在だった“メーカーワークス"のブランド。そのひとつである“マツダスピード"が手掛けたコンプリートカーというだけあって、カスタマイズのクオリティは折り紙付き。最大の特徴であるワイドボディキットは、数々の名作を創り出してきたレーシングカーデザイナー、由良拓也氏が設計したという入魂の作だ。
ボンネット(フロントカウル)は後端部から跳ね上げる逆開き式で、いったん前方へオフセットさせてから開くというユニークな構造を採用。テールランプもロードスター用ではなくなんとマツダ・ランティスの純正品を流用。しかも、上下を逆さまに装着するという遊びゴコロが取り入れられており、1990年代の自由奔放さが羨ましくも感じられる部分といえるだろう。
Cスペックのエンジン内部は、シリンダーヘッド、シリンダーブロック、カムシャフト、ピストン、クランクシャフト、ヘッドガスケットなどに手が入り、排気量は2000ccまでアップ。さらにストレートタイプのインテークマニホールドや4連独立のスロットルの他、エキゾーストマニホールドやマフラー、ECUなども専用品として仕立てられたものだ。
そうしてチューニングされたエンジンスペックは最高出力200ps。このパワーを受け止めるために、クラッチやブレーキも強化され、LSDは機械式の2ウェイ、サスペンションも車高調整式が奢られているという、まさに夢のマシンである。
ロードスター(NA型)に惹かれたキッカケは、TVの自動車情報番組で発売前のロードスターを先行試乗している映像を見てのひと目惚れ。実際手に入れてからは、家庭環境の変化もあって1〜2年くらいしか乗れなかったのだが、やはりあの頃の想いは時が経っても変わらないという。そんな村木さんが憧れの『Cスペック』に出会えたのは、ある種の運命なのかもしれない。
「あまり遠出には使っていないのですが、休みの日に乗るのが楽しみです。流線型のデザインは見るたびに惚れ惚れしますね〜。ムーンクラフトの由良さんがデザインしたクルマとのことなので、いつの日かお会いできたらこのクルマをお見せしたいですね」と目を細める。
激レア車だけに“オリジナルコンディションの維持"にも注力しているそうだ。
「自分で換えたのはステアリングくらいです。このクルマが手元に来た時は、惜しくも社外のステアリングが装着されていました。本来ならばマツダスピードのオリジナルステアリングに交換したかったのですが、市場では高騰しているらしいので…。ひと先ずは、オリジナルの雰囲気に近いステリングをチョイスしました」
「このクルマには代わりがないパーツが多用されているので、ぶつけたりすると困ります。けれど、もっと古いクラシックカーばかりを手掛けているお店に整備を頼んでいるので、国産のロードスターくらいはお手の物らしく『いつでも持ってきてヨ。直すから』と言ってくれるのが心強いですね。今現在、修復を考えているのはドアの内張りですかね。前オーナーさんがダイヤキルト風のものに張り替えたようなのですが、やっぱりノーマルの内装に戻したいです」
20年以上の時を経て、あの頃に憧れていたコンプリートカーを所有し、大切に維持しながら人生を謳歌する。そんな村木さんの笑顔は、満足感に満ちあふれ、とても輝いていた。
取材協力:クラシックカーヘリテイジカーミーティングTTCM2023
(文:TOKYO CIAO MEDIA / 撮影:岩島浩樹)
[GAZOO編集部]
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