30代のオーナーが、90年代の国産車に憧れて三菱・GTOを手に入れた理由とは?
新車発売当時のコンディションをキープしたワンオーナー車の三菱・GTOを手に入れ、2代目オーナーとして大切に所有しているという鹿児島県在住の山田拓哉(33才)さん。
山田さんいわく、自身にクルマ好きの意識が芽生えた幼少期を直撃したバブル期に発売された国産車のなかでも、GTOには特にその世代のクルマに憧れるオーナーのツボを刺激する点が多く存在しているのだという。
家族の影響
「祖父はクラウンやマークII、シーマといったセダンに乗っていて、父はBMWのセダンとZ4の2台持ちを続けていました。どちらも所有するクルマに対してこだわりを持って選び続けるような人たちでしたね。そして、そういうクルマに子供のころから身近に触れていた自分も影響されていきました」
そんな山田さんの初めての愛車となったのは、祖母から譲り受けたトヨタ・プログレだったという。
18才でいちど公務員として2年間働いたあと、大学へ通うことを決めて学生の立場に戻り、その間は父の手掛ける海外業務の手伝いなどもしながら過ごしていたという山田さん。
25才になって再び仕事に集中できる環境に落ち着くと、初めて自分の予算と都合で愛車を選ぶタイミングが訪れた。
「そのころは少し自分の周りも落ち着いてきた時期で『なにか自分の趣味を持ちたい』と思った時に思い浮かんだのが、やっぱり好きなクルマを自分で買って持ちたいということでした。候補は色々考えたのですが、予算はもちろん、自分でもある程度触れそうな国産車ということ、リトラクタブルライトでFRのレイアウト、あとは珍しいオープンカーということで、マツダのロードスター(NA6CE)を選びました」
その後NB型やNC型も運転する経験があったそうだが、やはりNA型が最高だったそうで「機会があればもういちど乗りたい」と今でも思うほど気に入っていたという。
そして30才を過ぎたころ、自身が会社の経営にも携わるようになって金銭面に余裕ができたこともあり、日常の用途では不便さを感じることがあった2シーターのロードスターに加えて、もう1台なにか別のクルマが欲しくなってきたという山田さん。
ちょうどそんなタイミングで、父親と付き合いがあったという人物からとある相談を持ちかけられる。
「その方はクラシックカーなどを何十台も所持している方で、そのコレクションの中からどれか1台を買って所有しないか?というお話をいただいたんです。そして父親が1969年製のメルセデス・ベンツW114(250)を選び、我が家に迎え入れることになりました」
「父からは『たまに俺が乗るから、お前がクルマを持て』と言われ、半分は父が所有しているような状態でしたが、手に入れて1年も経たずに父が亡くなってしまったんです。ずっと動かしてないクルマだったため修理する時間もかかってしまい、父は結局1度しか乗れませんでした」
60年代に製造された海外製のクラシックカーということもあり、2年ほどかけて修理しても100%の状態には直すことはできなかったと山田さん。事情を知った元オーナーからも了承を得て、イギリスの地で所有を希望していたオーナーへ譲り渡したという。
「ちょうどその間にロードスターも手放してしまっていて、クルマは父が所有していたアルファードだけという状況になりました。そこで、新たな愛車を探し始めたんです」
憧れのクルマたち
こうしてふたたび始まった愛車選びにおいて、山田さんが最も重視したのはそのクルマが発売された年代だった。「1980〜90年代にかけて発売されたバブル期のクルマにとても惹かれるのは、そのころに発売されたクルマを雑誌などで見て憧れて育った世代だというのもあると思います。次の愛車を検討するうちに、今ではありえないパッケージや豪華な装備、オプションなどが付いた、当時だからこそ発売できたようなクルマを買って、自分でも乗ってみたいという思いが強くなりました」
その結果、山田さんが手に入れたのは、1990年代の三菱を代表する大排気量スポーツカーのGTO。“日本車に初採用"の装備やギミックをふんだんに盛り込んだ、まさにバブル期の潮流を反映するようなコンセプトのもと発売されたGTカーだ。
「なかなか満足いく個体が見つからず、諦めて他の車種を探そうかと思っていた矢先に出会った極上車でした。1993年式のワンオーナー車でノーマルを維持したまま不具合なく乗られていて、走行距離も3万キロ程度。クルーズコントロールやアクティブスポイラーといった装備もそのまま残っていたんです。即購入を決めて新幹線で広島までクルマを取りに行き、帰りは自走で鹿児島まで帰りました」
そんな山田さんのGTOは、程度が良いだけではなく、少し珍しいモデルなのだという。「マイナーチェンジされた中期型からMRという軽量化モデルが作られたんですが、このGTOは前期型から中期型にさしかかる年代に作られたもので、フロントフェイスは前期のリトラクタブルライトのまま、パーツは中期のものが使われているんです。MRモデル限定のBBSのホイールを装備しているし、ボディカラーもMRの特別仕様色でした」
日本車として初採用された『アクティブエアロシステム』は、車内からのマニュアル操作のほか、公道走行中に80km/hを超えるとバンパー内に収められたスポイラーが自動的に作動する仕組み。リヤウイングの傾きを変える『可変リアスポイラー』も装備されている。
車内のエアコンパネル表示も、山田さんの憧れるバブル期らしい豪華さを感じる液晶タイプ。吹出口の系統も内部で複数に分かれるように設計されているなど、スポーツモデルながらも快適性を売りにしていた当時のGTOらしいコンセプトが伺える。
エンジンルームの美しさは、まもなく生産から30年経過しようかということが信じられないほど。V型6気筒DOHCの3Lツインターボのエンジンは当時の自主規制枠いっぱいの280馬力を発揮。ストラットタワーに見えるのは純正装備されていた電動のアクティブサスペンションだ。
「販売されていた当時は『スポーツカーなのに重くて曲がらない』と不評もあったようですが、今となってはそこも魅力だと感じています。車種選びではRX-7(FD3S)とも悩んだんですが、人気で周りにも所有している人を見かけるRX-7に対して、GTOオーナーはなかなか見かけないのがいいなと。それに、日本車らしくないコークボトルラインのボディ形状も好きですね」と山田さん。
ちなみにマイナー車が好みという点では、昨年夏にケータハム・スーパーセブンのレプリカモデルであるウエストフィールド製のスーパーセブンも思い切って購入したという。
「ほかにも、シルビアやプレリュードみたいなバブル期のデートカーを、当時のノーマル仕様で乗ってみたいと思っています」
『自分が幼少期を過ごした時代のクルマに乗りたい。そのためにお金を稼ぐ』という気持ちが仕事に励むためのモチベーションになっていると話してくれた山田さん。
幼少期にスーパーカーブームを体験した40〜60代のクルマ好きように、山田さんにとってはバブル期の国産車こそが憧れの対象なのだ。これからもそんな憧れのクルマたちに乗り続けたいという山田さんは33才。今はまだ、長い道のりの一歩目を歩き始めたばかりなのかもしれない。
取材協力:鹿児島県立吉野公園
(⽂: 長谷川実路 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]
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