いつかは憧れのAE86に!『ビンボーチューン』でドリフトデビューを目指す22才の86オーナー
トヨタとスバルが共同開発したFRライトウェイトスポーツカーとして、2012年にデビューした86/BRZ。トヨタ・86は、その名の通り1980年代に登場し、その後ドリフトシーンでの活躍や『頭文字D』の主役車両として抜擢されるなど、多くのファンを生み出した名車AE86がその根源にあるモデルであることはよく知られている。
そして、22才という若さでトヨタ・86(ZN6)を愛車に選んだ竹之内真咲さんも、AE86から86につながるカーヒストリーに興味を持ったのがキッカケだったという。
D1植尾勝浩選手の走りが好きでAE86にあこがれる
「ボクが小学生になる前のことだから、もう20年くらい前です。父も昔アルトワークスをチューンして乗っていたようなクルマ好きだったみたいで、家にはビデオオプションやドリフト天国などクルマ系のDVDや雑誌が置いてあったんです。だから自分も自然にそれを見はじめて、すぐにD1GPが大好きになりました」
D1グランプリは『ドリフト選手をレーサーのようなプロの職業にしたい』という考えのもと、2000年に全日本プロドリフト選手権として発足し、現在でも日本国内のトップカテゴリとして開催が続けられているドリフト競技会。もともとは定期刊行ビデオの企画として開催が始まったという経緯もあり、ビデオ内の人気コンテンツとして毎戦ごとのレポートが収録されていたD1GPを自宅で観戦するうちに、ドリフトへの興味を深めていったという。
「なかでもボクは植尾勝浩選手の走りが好きで、それがAE86に憧れるキッカケでした」
ハイパワーにチューンされた日産シルビア・180SXやマツダRX-7(FD3S)の活躍が目立っていたD1GPのなかで、NAエンジンのAE86にこだわって参戦していたのが植尾勝浩選手。他のAE86ドライバーがターボ化やエンジン換装で戦闘力を増していくなか、独自のサスペンションセッティングとドライビングテクニックを武器に、AE86で2002年のシリーズチャンピオンとなった人物だ。
熊本県出身の植尾選手とは同じ九州出身という共通点もあり、竹之内さんは「大人になったら絶対にAE86スプリンタートレノの3ドアハッチバックを買って乗りたい!」という思いを膨らませながら少年時代を過ごしていったという。
そして、18才で免許を取得した竹之内さん。1台目の愛車はマツダのAZワゴンだった。
「父親の会社の同僚の人がクルマを乗り換えるにあたって、お下がりとして安く手に入るので『運転の練習がてらどう?』という話をいただき、乗り始めました」
「だけど、17万キロも走行していて色々ガタが出てきていたのと、なによりもオートマだったことがイヤで。練習のためとは思ったけど、マニュアルじゃないと意味がないと思って1年経たずに別のクルマに乗り換えました」
次に選んだのは下取り車としてとても安く購入できたというダイハツ・エッセの5速マニュアルモデル。そのエッセは、86を手に入れた今でもたまに使う普段乗りのクルマとして所有しているという。
愛車歴の裏側でクルマへの興味は仕事へも繋がり、高校卒業後に九州の自動車整備専門学校へ進み、2級自動車整備士の資格を取得。20才になると晴れてクルマ関連の会社に就職が決まり、現在もその職を続けている。
「仕事を始めてからも、ずっとAE86が欲しいなぁと思っていたんですよねぇ」と竹之内さん。その言葉の裏に少しだけもの悲しさが伺えるのは、AE86を一旦あきらめ、86を手に入れるまでに至った経緯に理由があった。
「まずは何よりも、AE86の車体価格が上がりすぎていたことですね。それと、職場にもAE86が入庫することがあって、自分で整備を担当することがあるのですが、車体価格と維持していく上でのメンテナンスの大変さを実感しちゃいますよね」
「トヨタ車のエンジンといえば4A-Gや3S、2JZといったトヨタかヤマハ製というイメージが強くて、86に積まれているのがスバル製のFA20だというところが引っかかって」と、1990〜2000年代のクルマに憧れを持っているからこその悩ましい思いを語ってくれた。86/BRZが発表された当時、同じような印象を覚えたファンも少なくないのかもしれない。
しかし、そうして悩みに悩んだ結果、最終的に勝ったのは憧れ続けたドリフトへの熱意だった。
「どうせ選ぶなら、86を買ってドリフトをやりたい!という気持ちになって、そのことを親に伝えたら『それならお前の好きに決めたらええ』と背中を押してもらって、最後の踏ん切りがつきました」と竹之内さん。
そして2021年の2月、ついに現在の愛車となる後期型のトヨタ・86(ZN6)が納車されることとなる。
トヨタ86をあえて購入
すでにモデルチェンジされた新型のGR86(ZN8)が年内にデビューすることが噂されていたが、デザインの好みと成熟された最終型という点でZN6のほうを選んだそうだ。
ボディカラーは後期型の86になって採用された新色のブライトブルー。派手なカラーリングだが、「後期にしかない色だし、他の86とかぶることが少ないだろうと考えて思い切って選びました」と竹之内さん。
ノーマルのまま維持することは考えず、のちに様々なカスタムを加えていくことを想定し、グレードはエントリーモデルの『G』を選び、ナビなどのオプションも付けずに車体にかかる予算は最低限に抑えたチョイス。純正装備で16インチだったホイールは、上司からちょうどいいサイズだと譲ってもらった17インチのものへ変更済みだ。また、車高調もオークションで3万円だったというタナベ製へ交換してある。
過去には激安で購入したというマフラーを装着したこともある。だが、これらのカスタム方針も「ドリフトのためのビンボーチューンです!」と言い切り、なるべくお金をかけずに理想の仕様を作り上げていくという姿勢は、かつてAE86をベースに走り屋からプロドリフトドライバーへ成り上がってきた、竹之内さんが憧れる往年の名ドライバーたちが歩んできた道と変わらないものだ。
リヤのテールランプは駐車場でぶつけられる不運にあったものを好機と捉え、前期仕様へ変更。新色のボディカラーゆえに、同色の中古バンパーがなかなか見つからない苦労もあったそうだ。
そして『ビンボーチューン』の極めつけとも言えそうなのがインテリアだ。親から譲ってもらったというテープで全周を補修してある年季モノのステアリング。そして、ところどころに生地のほつれが目立つレカロシートの購入価格は驚きの5000円だという。
これらの努力はすべて、いずれサーキットでドリフトデビューをするための準備とのこと。「まだドリフトは基礎の定常円(ドーナツターン)くらいなので、サーキットを目指してこれからデフも入れて、普段乗りもできるドリフト仕様にしていきたいです」
AE86への憧れもいまだに持ち続けているそうで、86でテクニックを磨いた暁には、植尾選手と同じAE86トレノに乗り、そしてドリフトも…!?
この86は、少年時代からの夢に向かう道を歩むため、その第一歩を刻み始めた竹之内さんの大切な相棒なのだ。
取材協力:鹿児島県立吉野公園
(⽂: 長谷川実路/ 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]
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