目指すはマラソンの全国制覇!「一度きりの人生を楽しく生きる」夫婦の、車中泊仕様エブリイ
『軽バン』と聞くと、働くクルマのイメージを持っている人が多いのではないだろうか? 実際のところ、街中でも建設業や運送業の方が乗っているところをよく見かける。白くて箱型のクルマに、荷物をこれでもかと積み込み、細い道をテキパキ走る姿は見ていて気持ちがいい。おそらく、多くの人がそういう情景を思い浮かべるはずだ。
しかし、今回取材した稲岡さん夫妻の愛車は少し毛色が違う。ご主人の趣味であるマラソン用に購入したというスズキ・エブリイは、ワイルドでタフな感じだ。
「どうせなら、他人とちょっと違うカッコええのに乗りたかったんです。そんで、いろんなお店のデモカーやコンプリートカーを見せてもらったんですけど、姫路にあるワイルドギアさんの所のクルマが僕の好みでした」
軽キャンピングカー専門店『ワイルドギア』のオリジナルエアロが装着された外観は、オフロードっぽい雰囲気が力強く、シボの入ったラプターライナーという塗装が施されたバンパーとグリルは、どことなくレンジローバー・ディフェンダーのような面影があり男らしい。
加えて、ヘッドライトとフォグランプが丸いので、ワイルドさの中に親しみやすさがあるところもグッとくるポイントだ。
撮影時はスタッドレスタイヤ仕様だったが、夏場はインチアップしたホイールも装着しているという。
ところで、そんなエブリイを“マラソン用に購入した”というのはどういうことなのだろうか?
「フルマラソンで、全国制覇をするという目標があるんです。退職して、ある程度時間も取れるし、せっかくいろんな所に行くんやったら、何日間か観光しながらのんびり回ってみたいなぁ…と思って、エブリイを購入しました。
ほんならこれが、むっちゃ楽しい!僕らは何泊か車中泊して、1泊くらいはホテル泊まろか~みたいな感じやねんけど、お風呂とか食べる所とか、行きたい所がめっちゃあるし、行った場所で探すというんがまた楽しいんですわ。宮崎に行った時に、真っ白な温泉入ったやんな?あれも良かったよなぁ」
「確かに、あれも良かったなぁ!ガイドブックを買ったりとかせずに、どっかその辺を適当に行くんやけど、意外にも良い店に出会えるんですよ。駅の売店の方に、美味しいお店を教えてもらった時もありましたよ。
私が『美味しいとこ知ってますか?』って聞いたら『いつもいっぱいやから電話して聞いたるわ~』やって(笑)。ほんで、そこの店が大当たりで!旅先での出会いは暖かい人が多くて、そこもまた楽しいとこやね。あっ、あとこんなこともあったやんか」と、泡のように浮かび上がってくる旅先での思い出を話してくれる稲岡さんご夫婦。
今回の旅はどこのお店に入ろうか?どんな出会いがあるだろうか?とワクワクしてしまうのが、車中泊ならではの良さだという。朝目覚めて「今日はどこ行く?」が、夫婦の合言葉のようになりつつあると笑いながら話してくれた。
そう、稲岡さんのエブリイは、見た目だけでなく、車内もワイルドギアのベッドキットが搭載されたカスタム仕様となっているのだ。
「こういう使い方ができるから、買って大正解でした。ほんで、観光できるから、奥さんもついてきてくれるしね。走るだけやったら、絶対に来えへんと思います(笑)。『あなたが走ってる間に観光してくる』って言うから『これぐらいの時間にゴールするからな、ここにおってよ!』と言っても、たいがい、おれへんねん(笑)」
「なんでよ!走り出す時はいるやんか(笑)」という奥様は、マラソンよりもっぱら観光にお熱な様子だ。
最近はコロナ禍の影響で新潟や佐賀でのマラソンが中止になり、エブリイを手に入れてから現時点でマラソン旅に行くことができたのはまだ宮崎と高知の2県だけということだが、車中泊の回数を重ねる毎に“快適に過ごすコツ”をつかんでいったそうだ。
「サイドの窓のカーテンだけやと車内が丸見えやから、運転席と助手席のすぐ後ろにカーテンを付けました。真ん中のバーは、ここに洋服がかけられるようになってるんです。壁にかかっている網はね、キーをかけたりするんですよ。寝て起きて、あれ!?どこにやったんやろ?みたいな感じになるから、分かりやすくブラ下げられるようにしたんです」
稲岡さんがキャンピングカーではなく車中泊仕様の軽自動車を選んだ理由は、普段使いもするからだという。本格的なキャンピングカーだと旅の装備は申し分ないが、日常生活で使うとなると不便な面もでてくるのだという。
「基本は寝るだけやし、コンパクトなサイズ感もちょうど良いんです。旅先で、細い道もどこでも入って行けるし、駐車場にも困らへんしね。高速道路の走行料金も安いし、夜乗ったらさらに安いで!あと、よう言われるんは“コソッとどっか行って、サボれますね”や(笑)」
サボるのはともかく、維持費も安く、宿代わりにもなるエブリイは稲岡さんの使い方にピッタリのクルマだったのだ。
「僕は今まで、いろいろなクルマに乗ってきました。教師やったんで、部活で生徒を乗せたりすることもあって、そういう使い方に適したクルマを選んできたんです。やけど、退職して買ったこのエブリイは、自分の楽しみと、夫婦2人のことだけを考えて買ったクルマです。何も気にせんと、気ままに運転することができるんです」
「東北マラソンに行ったら、祭りを制覇しながら観光してみたいと思ってるんです。北海道マラソンの時は、船で渡って北海道1周!美味しいもんがいっぱいあるやろうから、道の駅で車中泊しながら。やけど、何泊かはホテルに泊まろなって、奥さんとよう話してますわ。な?考えただけで、むっちゃオモロいやろ!」
「人生1回きりやから、楽しく生きる!これが、定年退職してからの僕の目標です。やっぱり、好きなことをやるんは、豊かな人生に繋がるしね」
このエブリイは、これから稲岡さんご夫妻と日本全国を走ることになるのだ。きっと、そんなエブリイはなかなか存在しないのではないだろうか。全国制覇したとき、走行距離は何万kmになるのだろうか?そして、稲岡さんご夫妻はどんな顔をしているのだろうか? 想像しただけでオモロくなってくる。
取材協力:大蔵海岸公園
(⽂: 矢田部明子/ 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]
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