横転事故からの復活!12SRの心臓を引き継いだ快速の日産マーチ(K12)
1982年、人気絶頂の“マッチ"こと近藤真彦氏をイメージキャラクターとして起用し『マッチのマーチ』をキャッチコピーに華々しくデビューを果たした日産マーチ。日産を代表するコンパクトハッチバック車として、5代目となる現行型まで40年も生産が続けられているロングセラーモデルだ。
その歴史の中においてはラリーやワンメイクレースなどで活躍した経歴を持ち、ターボとスーパーチャージャーを併用した『スーパーターボ』や、キュートなカブリオレなども存在する。
2002年にフルモデルチェンジされた3代目となるK12型マーチでは、オーテックジャパンによってスポーツモデルとしてカスタムが加えられた特別仕様車『マーチ12SR』(AK12)が発売された。
12SRは、エクステリア、ボディ、サスペンションなどへの改良が施されているのはもちろんのこと、最大の特徴は搭載されているエンジン。自然吸気1.2LのCR12DEエンジンをベースに、専用ピストンによる高圧縮比化、高回転型カムシャフトの導入、バルブスプリングも強化品を使用し、エキゾーストマニホールドも専用品を採用するなど、レースカーにも匹敵するメカチューニングが加えられているのだ。
エンジンチューンによるパワーアップに加え、軽量フライホイールや高回転仕様に合わせたコンピュータセッティングなどのおかげで、スペック以上に体感できるレスポンスの良さを兼ね備えたモデルとして好評を博した。
そして、だいごさん(49才)の愛車であるマーチ(K12)は、とある事情によって12SRからエンジンやミッションなど各部に渡るパーツをフル移植して制作された、こだわりの詰まった1台となっている。
両親の影響を受けてクルマ好きに育ち、走り屋に憧れるような青年だっただいごさんが、初めての愛車として選んだ車両は、当時の先輩から譲り受けたダイハツのミラだったという。
「自分で貯めたお金で免許を取って、それもやっとという状態でお金もなかったので『乗れるクルマならなんでもいい』という具合で先輩からもらったボロッボロのミラがはじめての愛車でした。ほんで、車検のときにオイル漏れがひどくてもうダメだということで、姉貴が乗らなくなったスターレット(EP71型)の前期ターボモデルをもらって、それが2台目の愛車になりました」
このスターレットには4年間ほど乗り続けたものの、スターレットを欲しいという友人に譲渡。手元に愛車がない状態となっただいごさんに、救いの手を差し伸べたのはクルマ好きになるキッカケをもらった父親だった。
「父が譲ってくれたのは4WDのパルサーGTI-Rで、免許を取る前に横乗りして『自分もこういうのに乗りたい』と思っていたクルマだったので嬉しかったですね」
20代後半というタイミングでパルサーGTI-Rオーナーとなり、会社の同僚に誘われて観戦したことをキッカケにゼロヨンに興味を持ちはじめ、愛車にもカスタムを施すようになっていったという。
「タービン交換したらミッションが2基ブローしてしまい、エンジンも1基ツブしたくらいのめり込んでました(笑)。だけどしばらくしたら金銭的にも余裕がなくなって、車体のヨレも出てきたので、今度は乗ってラクチンなクルマに乗ろうと思って、フォレスターの2代目モデルに乗り換えました。これが人生で初めてのAT車だったので気楽でしたね」
フォレスターのカスタムは車高調とホイールを交換する程度におさめて8年ほど落ち着いたカーライフを続け、クルマの維持費をさらに抑えるためにスズキ・ワゴンRへ乗り換えたというだいごさん。
タイムアタックや最高速チャレンジを得意とする兵庫県姫路市のプロショップ『ピットロードM』との付き合いは、このワゴンRのころから始まったという。
「もう20年近く前になりますが、大阪のカスタムカーイベント『大阪オートメッセ』でワゴンRのチューニングをやっているお店がないかな?と探していたらピットロードMが出展していたんです。そこから森下社長とも話すようになって、ワゴンRでセントラルサーキットの走行会などにも挑戦するようになりました」
最初の動機は『維持費を抑えるため』だったワゴンRも、クルマ好きの性分から逃れることはできず、カスタムやタイムアタックの道へと再びのめりこんでいったそうだ。
そして、ピットロードMの常連ともいえる存在になっていた2013年、冒頭で触れたマーチ12SRの話がだいごさんの元へやってきた。
「ピットロードMに12SRの中古車が入庫していたんです。コンピュータとかをひと通りイジってあったクルマで『そういやスターレットもパルサーもワゴンRもずっとターボだったし、速いNAのクルマってどうなんかな?』って気になりはじめたんです。NAならタービンブローもないし、燃費も良いのかな?とワゴンRから乗り換えを決めました」
初めての人生初のNA車としてマーチ12SRオーナーとなっただいごさんだったが、購入後2ヶ月も経たないタイミングで、マーチにとっても、だいごさんにとっても人生で最大のピンチに見舞われることになってしまう。
「初めてSR12で走ったセントラルサーキットで、NAとFFの走り方も知らないまま攻めてしまって、横転してそのまま壁の方にドカーンと…ホンマに死ぬかと思いました」
幸い体のほうは無事だったものの、12SRのほうは一発廃車という大クラッシュだった。
「お金もないしどうしよう…と思いながら帰ったら、母にも姉ちゃんにも怒られて。『そんなムチャしたら命が足らんで!』と心配されたので、それからは自分でサーキットを走るのはやめて、見るだけにしています(笑)」
と、いまでは笑って話せるほどのエピソードになっているのは、その廃車となった12SRマーチから、無事に残ったエンジンやミッションといった心臓部を移植したマーチを現在も愛車として乗り続けられているからにほかならない。
「とんでもなく落ち込んでたんですが、NAなのに軽く吹け上がる12SRの乗り味が楽しくて、このままエンジンも手放すのはもったいないと思っていたところに、社長からピットロードMで代車として使っているマーチに12SRのエンジンなどを載せ換えることで安価に復活できるプランを提案してもらって、そうすることにしました」
そういった過去を経て、クラッシュが起きてから8年間、愛着をもって乗り続けているのが、こちらのK12型マーチというわけだ。
サーキット走行は封印したものの、普段乗りやミーティングに参加する楽しみのためのカスタムは「ローン禁止でマーチのために貯まった分だけを使う」という方針のもと進められ、見た目や中身はまるでタイムアタック仕様といった仕上がりに。
室内は20代のころからレカロ一筋というこだわりのフルバケットシートを導入。ホールド性の高さはもちろんだが、純正シートよりも腰への負担が少ないことが好みのポイントでもあるそう。そして、ミッションもATから12SRの5速マニュアルへ載せ換え済みだ。
リヤには大迫力のインパル製ウイングを追加。足まわりはスピリット製の車高調にハルスプリングのバネを追加してサーキットから街乗りまで楽しめる仕様に。ボルクレーシングTE37の16インチホイールいっぱいに収まるD2レーシングスポーツ製の大径キャリパーは特注品という。
12SRに装着されていたチタン製マフラーをそのまま移植。エキマニからフロントパイプまではピットロードMのワンオフ品で、通常のマーチでは助手席側にあるマフラー出口を運転席側に移し、その面影がないようにバンパーの形状まで作り直されているというこだわりの仕様だ。
エンジンは走行距離がもうすぐ20万キロに達するというが、ピットロードMでのメンテナンスによって快調を保っているとのこと。
「サーキットを走る機会はこれからもないです(笑)」ということだが、それでも長年乗っていて飽きさせないほど日常の楽しみを与えてくれるのは、12SRという特別仕様のエンジンによるフィーリングも大きく関係しているだろう。
大クラッシュから蘇ったオンリーワンのマーチとだいごさんとのカーライフは、これからも末永く続いていきそうだ。
取材協力:大蔵海岸公園
(⽂: 長谷川実路/ 撮影: 稲田浩章)
[GAZOO編集部]
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