愛車プリウスは旅行好きオーナーを支えるランニングシューズのような存在
毎週のように300kmから400kmの長距離旅行を楽しんでいるので、燃費が良くて快適に走れる相棒は欠かせない存在。旅行は移動時間こそがメインであり、愛車を『靴のような存在』と表現するオーナーのカーライフは、運転することで疲れを取る日常であった。
1997年に世界初の量産ハイブリッド専用車として登場したプリウスは、環境に優しい21世紀のクルマとして話題をよんだ。ガソリン車と同等の走行性能なのに、燃費が約2倍でCO2排出量を大幅に減らすことができるとあって、日本のみならずアメリカ市場などでも『地球にもオーナーのお財布にも優しいクルマだ』と、注目を集めたのだ。
今回取材させて頂いた黒野さんは、これまでに4台ものプリウスを乗り継いできたというプリウスオーナーだ。
年間で4万km以上を走る黒野さんは、もはやプリウス以外の愛車は考えられないという。乗り心地がよく、運転しやすく、メンテナンスもほぼしなくて良い、何より燃費が良い、こんな素晴らしいクルマは他にはない!と自信に満ちた快活な言い方をしてくれた。
「走行距離の話をすると、勤務地が遠いの?なんて言われることもあるんですけど、自宅から職場までは3km(笑)。じゃあ何で伸びるのかというと、旅行であちこちに行っているからなんです」
そう話す黒野さんの旅行スケジュールは、かなりハードである。
例えばこうだ。仕事が22時に終わると即座に帰宅し、まずはお風呂や食事などの身支度を済ませる。そのあとは、栄養ドリンクを片手にプリウスに乗り込み、深夜1時に家を出発。途中にパーキングエリアで休憩を挟みつつ、住んでいる茨城県から兵庫県の神戸まで向かうと、現地に朝8時くらいに到着するのだという。そしてポートタワーなどの名所を巡り写真撮影をした後、すぐに帰路に着くという寸法だ。これだと、自宅のある千葉県から兵庫県までの日帰りツアーが十分可能になるらしい。
「観光場所によっては、何時間もかけて行ったのに、滞在時間が30分だったということもありますよ」とのこと。もはや、何かの修行のように思えてくるレベルの旅行だ。
そういうスタイルを黒野さんが取っているのは、まとまった仕事の休みが取れないからだそうだ。
しかし、もしも長い休みが取れたなら旅館に泊まるのかという話題になると、うーんと腕を組みながら悩む仕草をみせた。筆者は、黒野さんが何故そうなっているかが読み取れず、泊まりたい宿がいくつか頭に浮かんでいて、どれにしようかと迷っているのかもしれないと勝手に考えを巡らせた。ところが、その解答は予想とはまったく異なるものだった。
「よく言われるんですよ、日帰りだと移動ばっかりで疲れない!?って。でも、全然そんなことはなくて。何で僕はそう感じるんだろうと考えてみると、みんなはきっと移動時間はあくまでも旅行の“プロローグ"で、どちらかというと短ければ短いほど良いという時間なんですよ。ところが僕にとっては移動時間こそが本編で、到着後の観光は“あとがき"みたいなものなんです」
なるほど、それは確かに既成概念を一変させる旅行の楽しみ方だ。
『長距離を運転すると疲れる』という思い込みは、今まで知らず知らずに旅の面白さを削っていたのかもしれない。
そもそも旅行とは、気分転換や楽しむために行くことが目的の人が多いだろうから、その“楽しみポイント"は人それぞれでいいのだ。
運転するとパッと気持ちが切り替わり、自分の中の精神的な毒素が距離に比例して抜けていくように感じるという黒野さんにとっては、このスタイルこそが充実した旅行というわけだ。
そんな黒野さんの移動時間は、家で録画しておいた歌番組を聴くことが多いそうで、若い頃に流行った歌手が出ていると、思わず一緒に口ずさんでしまうのだそうだ。ほかにも色々なジャンルの番組をたくさん撮り溜めているそうで、今回の旅路はどれにしようかと選ぶのが楽しみでもあると話してくれた。
「車内でどう過ごすかにこだわっているからこそ、写真を撮って頂いたプリウスから乗り換えちゃったんですよ! でも大丈夫! よく見ないと分からないから!」
取材から少し経ったあとの電話取材で、いきなり飛び出したこの言葉に『じゃあ大丈夫ですね』と反射的に相槌したあと、慌ててコトの顛末を確認した。
なんと、この短い期間のあいだに、写真を撮ったプリウスから、ちがうプリウスに乗り換えたというのだ。
「同じ型式でボディカラーも一緒なんですけど、グレードが違うんですよ。窓がプライバーシーガラスなのと、サンルーフが付いていること、あとはソーラーパネルも付いているというのが大きな違いです。ね? これはよーく見ないと分からないでしょう?」
乗り換えたいと思った時にちょうど良いクルマがなく、いわば妥協して購入した個体だったこともあり、常々乗りたいと思っていたソーラーパネル付きの個体に出会えたことで即座に乗り換えを決意したのだという。
2009年5月のフルモデルチェンジによって、新たに設定されたソーラーパネル付きムーンルーフ。ルーフに取り付けられたソーラーパネルにより発電した電気によって、車内にあるファンを回し、車内の換気を行うといったシステムになっているという。
「これが付いていると、夏に車内がムワッとする感じが無くなるんですよ。流石に真夏は無理ですが、ちょっと暑いな〜くらいだったら、サンルーフを開けてファンが回れば涼しく過ごせるので、寝てよし、運転してよしなんです」
先代モデルよりもシャーシ剛性を高めることで、高速走行時の安定性を向上させ、軽量化とボディの各部分に吸音材や制振材を増やすことで、静かで快適な走行を実現したのが黒野さんの愛車であるZVW30型のプリウスだ。
1.8Lエンジンにモーターを組み合せることによって加速性能と燃費性能を両立したこのモデルは、千葉から京都まで無給油で走破できるのだという。
これほどまでに30プリウスがお気に入りという黒野さんだが、プリウス50 にも乗っていたことがあるという。
2022年3月に開催した『GAZOO愛車広場 出張撮影会in千葉』にはその愛車でご参加いただいていたのだが、燃費は変わらなかったものの50は30に比べて足まわりが硬めだったことや、50の方がシートの位置が低くてアイポイントの高い30の方が運転しやすかったことが乗り換えの理由になったと話してくれた。
「50が悪いと言っているわけではないんです。30の方が僕に合っているというだけですよ」と黒野さん。発売開始後1ヵ月で約18万台の受注を受け、ハイブリッド車で初めて新車販売ランキング1位を獲得した大ヒット車は、今もなお多くの人に親しまれているのである。
「スポーツカーが好きな人、クロカン四駆が好きな人、輸入車が好きな人、色々なジャンルのクルマ好きがいると思うんですけど、僕は断然『生活を豊かにしてくれるクルマ』が好きです。色んな景色を見せてくれるし、乗ると得るものが多いから」
黒野さんは取材中に『クルマは靴のようだ』と答えてくれた。自分にとっては無いと外に行けない、無いことが考えられない存在だということがヒシヒシと伝わってくる、心に残る一言だ。
- 取材協力:
- 『神栖1000人画廊』(茨城県神栖市南浜)
『日川浜海岸』(茨城県神栖市日川)
かみすフィルムコミッション
(⽂: 矢田部明子 撮影:平野 陽 編集:GAZOO編集部)
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