クルマを操る楽しさを教えてくれた20年来の相棒、エーダブ (トヨタMR2)

  • GAZOO出張取材会、大磯ロングビーチで取材した1989年式のトヨタ・MR2(AW11)

クルマの運転にのめり込むようになった理由は人それぞれだが「米軍基地で開催されていたジムカーナの競技会がキッカケです」という人は、そう多くないだろう。愛車を自在に振り回し、狙ったラインぎりぎりを攻める。そこに何物にも変え難い喜びを見出すようになって、かれこれ20年という川島さん。相棒でもあり、時には格闘する相手ともなる愛車は1989年式のトヨタMR2(AW11)だ。

「物心がつく前からトミカで遊んでいるような、クルマ好きの子供でした。中学からラジコンにハマって、毎週のようにギアボックスまで分解整備したりしていましたね(笑)。メカに関する用語を覚え始めたのも、その頃だったと思います。大人になって初めて買ったクルマがトヨタのサイノスでした。当時からコンパクトなスポーツカーが好きだったんですよ」
川島さんが当時新車で購入したサイノスは二世代目にあたるEL54型で、1.5Lエンジンを搭載したFFの2ドアクーペ。比較的手頃な価格だったことから、川島さんのようなクルマ好きの若者に支持され、1999年まで生産されたモデルだ。

「もともとモータースポーツに興味があったので、まずB級ライセンスを取ることにしたんです。ジムカーナを知ったのもその頃で、サイノスでもかじる程度には楽しんでいたんですよ。ただ、まぁよくある話ですが、若気の至りというやつで、そのサイノスをダメにしてしまい…代わりになる手頃な中古のスポーツカーを探し始めたことで、今のMR2と出会ったんです」

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せっかく新車で手に入れたサイノスを廃車にしてしまった川島さん。次のクルマを探すと同時に「もっとちゃんと運転も上手くならないとダメだ!」という気持ちが芽生え、それまで以上にジムカーナに本気で取り組む決心をしたという。
そして次なる愛車候補の筆頭はジムカーナで人気の高かったAE86だったのだが、その時すでに某漫画の影響で価格が高騰。悶々としていたところ、会社の先輩から「だったらエーダブ(※AW型MR2の愛称)でいいじゃん」と言われ、中学生の頃からMR2に憧れていたことを、はたと思い出した。

「それまですっかり忘れていたんですけど、ラジコン少年だった時からMR2の楔型のスタイリングがかっこいいなあ〜と、惹かれてはいたんです。軽量コンパクトなスポーツカーで、ジムカーナにも使えますから、まさに自分にとっての最適解。そう気づいてからはMR2一本に絞って中古車雑誌で探したり、関東の中古車屋さんを片っ端からまわったりしたんですが、最終的にはサイノスを購入したトヨペット店で、MR2を手放そうとしている方を運よく紹介してもらいました」

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そんな経緯で川島さんの手元にやってきたMR2。エーダブことAW型はMR2の初代モデルを指す呼称であり『日本車として初めて市販されたミッドシップモデル』というのが代名詞。
川島さんが手に入れたMR2は、AW型の中で最もパワフルだった4A-GZE型の1.6L直4スーパーチャージャーを搭載したAW11型の『G-Limited』。しかも専用の足まわりセッティングやリヤスタビライザーなども与えられたADパッケージ仕様で、ジムカーナを楽しむにはこれ以上ない素材だったのである。

「その頃はインターネットも普及し始めた時期で、いわゆるネット掲示板(なつかしい!)でジムカーナの情報を検索してました。そうしたら東京都福生市の横田基地で米軍関係者が開催しているジムカーナイベントの情報に行き着いたんです。参加者は基地に勤めるアメリカ人が大半だったんですけど、一般人も参加OKだったんですよね。結果的にそこで知り合った日本人の友人たちとは、今も20年来の付き合いになりました」

  • GAZOO出張取材会、大磯ロングビーチで取材した1989年式のトヨタ・MR2(AW11)

横田基地で行われていたジムカーナイベントは、敷地内の駐車場にパイロンを置いただけのコースを、軍人も一般人も、アメリカ人も日本人もなく、ただただみんなでブリンブリン走る練習会だったそう。9.11テロを境に出入りが厳しく規制されるようになり、現在は開催されていないというが、川島さんは日本にいながら異国情緒を感じるユルい空気を胸いっぱい吸って、その後の人生の宝となるものを見つけたわけである。

「遠征と称して仲間たちと夏場のスキー場の駐車場を貸り切って、朝から晩までみっちり練習したこともありました。そこでワイワイとクルマをいじったり、壊れたところを直したりした記憶が、今ではいい思い出です。最近はそれも騒音の問題で難しくなってしまったので、現在は主に埼玉県の桶川スポーツランドのジムカーナイベントに参加したり、初心者向けの練習会を主催したりしています」

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サイノスを廃車にしてから幾歳月。今では若い人にジムカーナを教える側に回った川島さん。改めてMR2のこだわりを伺ってみた。
「できるだけ軽くしたいのでフロントフードはカーボン製、リヤフードはFRP製になっています。エンジンはクランクプーリーが大きくなっていますが、基本的にはノーマルですね。足まわりはオーリンズ製で、車高を適度に下げてあります。トーイン、キャンバー、キャスターといったアライメントが前後ともすべて調整できるんですけど、逆にすべて調整できてしまうからこそ難しいし、奥が深い。アライメントの話を始めると半日かかっちゃので、もうやめときましょう(笑)」

ボディに貼ってある「牛貯」というステッカーが気になったので伺ってみると「牛丼貯金の略で、ギュウチョって読みます(笑)。今ではチーム名になっていますけど、もともとはジムカーナで勝った人が牛丼をオゴってもらえるポイントシステムだったんです。『自分はいま牛貯3つ貯まってるぞ〜』みたいな感じで」と、仲間同士の楽しみ方が伝わってくるエピソードが隠されていた。

また、ドアポケットにズラリと並べられた発炎筒については「車検のたびに交換して、全部コレクションとして取ってあるんです。本数を数えると、どれだけの年数所有してきたか何となくわかるじゃないですか(笑)。整備を受けた時の明細とかも全部取ってあるので、いつ何を交換したとか、履歴を振り返れるようにしてあります」とのことだ。

2シーターのMR2だと普段使いは大変では?と伺ってみると「そうでもないですよ。自分はむしろ買い物とかの普段使いの方がメインなんです。トランクスペースが前後についていて意外と荷物も載りますし、後ろは18ロールのトイレットペーパーも2個は入りますよ(笑)。サーキットに行く時は、交換用のタイヤやらジャッキやら簡易テントやら積んで行くと、周りの人に『コレ全部持って来たんですか?』って聞かれるくらいで。痩せ我慢とかじゃなく、本当に実用性で不便さを感じたことはないですね」

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「たまに、今だったらどんなクルマに乗りたいかな〜って思いを巡らせることはあるんですけど、頭の中であれこれ条件を出して考えが一周すると、結局今のMR2に戻ってくるんですよね(笑)」
最近は部品の入手が難しくなってきているのが悩みの種だそうだが、だからといって別のクルマに乗り換える気は、さらさらないのだと言う。

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「エッジの効いたデザインとか、じつは吸気ダクトが車体の右側にしかついていないので左右非対称になってるところとか、いろいろ気に入っている部分はあるんですが、やっぱり一番の魅力はパワーと車重のトータルバランスかな。どれだけパイロンに近づけられるか全集中してきめたサイドターンって、本当に気持ちいいんですよ。ミッドシップって、重たいエンジンがクルマの後ろにあるので、振り回し過ぎるとあっさりスピンしちゃうわけです。それをわかった上で操作することに醍醐味があるって言うのかな。もはや体の一部ですね。やっぱり、僕にとっては他に変えられないクルマなんです、MR2って」
満面の笑みで言い切る川島さんの横で、エーダブがニヤリと笑った気がした。

取材協力:大磯ロングビーチ(神奈川県中郡大磯町国府本郷546)

(⽂:小林秀雄 / 撮影:平野 陽 / 編集:GAZOO編集部)