「現在14万km、目標は走行30万km」高校生の頃から憧れたチェイサーTRDスポーツといつまでも
1994年から1998年まで開催されたJTCC(全日本ツーリングカー選手権)は、4ドアセダンが戦うツーリングカーレースとして人気を集めていた。参戦するレーシングカーはシビックやアコード、プリメーラなど普段街中を走っている車両とほぼ同じスタイリングということもあり、多くのクルマ好きたちが関心を寄せ、推しのマシンやドライバーに声援を送っていたのだ。
そんなツーリングカーレースに高校生の頃から魅了され、愛車を選ぶ段階で迷わずJTCCマシンの中でも特に印象が強かったトヨタ・チェイサーを愛車に選んだのが『クハ189-501』さんである。
チェイサーといっても数多くのモデルやグレードが存在するが、彼が現在所有している愛車は1999年式のトヨタ・チェイサー TRDスポーツ ツアラーS(JZX100)。
JTCC参戦記念車両としてTRDから発売されたコンプリートカー『TRDスポーツ』。わずか2924台のみ生産されなかったという希少車で、しかもその多くがターボモデルのツアラーVという記録が残っているだけに、クハ189-501さんが所有するNAのツアラーSは輪をかけて希少な存在といえる。サンルーフ付きの寒冷地仕様となれば、おなじ仕様はいったい何台存在するだろうか。
「JTCCマシンの中でも、ラストイヤーの98年にチャンピオンを獲得した37号車『ESSO TOM'Sチェイサー』が一番記憶に残っていますね。あの時にTVで見たチェイサーがカッコよくて、いつか自分で運転したいって思ったんですよ。家のクルマがトヨタ・マークⅡ(GX71)だったこともあり、兄弟車であるチェイサーに親近感が湧いたのも理由かもしれません」
当時JTCCはBSでダイジェストを放映していたため、高校生だったクハ189-501さんも画面越しにJTCCの戦いに見入っていたという。しかも免許が取れるようになるまであと少しのタイミングということもあり、どんどん憧れが強くなっていったそうだ。
社会人になってすぐに標準モデルのチェイサー・ツアラーSを購入して乗っていたというクハ189-501さんが、現在の愛車であるTRDスポーツと出会ったのは2019年の梅雨時期。
「インターネットの中古車サイトをチェックしていたところ、ずっと探していたTRDスポーツをやっと見つけることができたんです。販売店を確認したら比較的近い埼玉県のお店だったので何度か見に行きました。年配の方のワンオーナー車だったんですが、内装などコンディションは今ひとつというのが正直な感想でしたが、このチャンスを逃したら見つからないと思って購入を決意したんです」
すでにチェイサーを所有していながら、新たな愛車として選んだのはまたしてもチェイサーというわけだ。この買い物には家族や友人たちも「なぜ?」と首を傾げていたというが、かつてJTCCに熱中したファンならばこの希少モデルに惹かれる気持ちは理解していただけるのではないだろうか。
搭載されるエンジンは2.5LのNAながらも200psの出力を発揮し、さらに耐久性に定評がある1JZ-GE。各地のドライビングスポットをめぐるのが趣味だというオーナーにとっては気を遣わず安心してドライブが楽しめる理想的なユニットと言えるだろう。
実際に定期的なメンテナンスを行っている以外に大きなトラブルは起こったことなく、約25年経った現在でもその乗り味はまったく衰えることがないという。
エクステリアはフロントバンパーやフロントグリル、サイドマッドガード、リヤバンパーに大型リアスポイラーなどTRD製アイテムが標準装備されているのが特徴。
「社外品のエアローパーツを付けた改造車ではなく、ノーマルでこの姿っていう点はTRDスポーツを選んだ大きな理由でもあります。特にチェイサーは改造しているクルマがほとんどだと思うんですが、改造車ではなく、でも標準車でもない絶妙な存在感はTRDスポーツだからこその満足感に繋がっているんですよね」
ボディサイドに貼られたステッカーやエンブレム類もTRDスポーツに採用された専用意匠。と言っても購入時にはフロントグリル内のエンブレムが欠品していたため、同タイプのものを購入して取り付けているそうで、今後はオリジナルに戻すためにインターネットオークションなどで本物を探し続けているのだとか。
前述の通り、このTRDスポーツの前に所有していたのもチェイサー・ツアラーSだったので、購入前の現車確認にはチェイサーに乗りながらチェイサーを見に行くという状況で「お店の人も、まさか同じクルマに乗っている人が見に来るなんて思っていなかったようで驚いていました。しかもその時に乗っていたツアラーSはコンディションも良く、いろいろ修理していたので絶好調だったんですよ。コンディションの劣るTRDスポーツと比べたら、乗り換える理由がわからないって言われたくらいです(笑)。でもやっぱりTRDスポーツに乗ろうと決意して、購入時に2台を並べてコンディションのいい部品をすべて移植してもらいました。エアコンなど新品部品で組み替えたばかりの部品が多かったので、それこそ2台ともバラバラの状態にして組み上げてもらったんですよ」
部品のコンディションを見極めて2台から1台を作り上げたことが功を奏し、その後は大きく手がかかることもなく、年式を感じさせない美しい状態を保っている。
特にコンディションが悪かったのはダッシュボードで、紫外線に当たり続けていたためか歪みやめくれが起こった重症状態。そのためもともと乗っていたツアラーSのダッシュボードを移植するという大手術まで行われているのだ。
いっぽうでTRDスポーツ標準のステアリングやシフトノブはそのまま利用。標準車と違いのない部品は入れ替えても、TRDスポーツである証はしっかりと残されているのである。
手に入れてから唯一の変更点は足まわりとホイール。このホイールはスーパーGTの19号車『ウェッズスポーツ アドバンGRスープラ』をイメージしてチョイスしているという。TRDスポーツのスタイルにこだわりつつも、自分好みのアイテムを加えることで愛情も増しているというわけだ。
今後も長く乗り続けるにはメンテナンスも重要。そのため現在はスポーツカーを得意とするGRガレージ ネッツシュポルト千葉にお世話になっているという。
「自宅から最寄りのGRガレージは西にも東にも距離があって、どうせ遠くのお店にお願いするならスポーツカーに力を入れているところがいいかなと思ったんです。メンテナンスは5000km走行ごとオイル交換をしたり、ATFやデフオイルも走行距離を区切って交換してもらったりしています。購入時に状態の良い部品で組み上げてもらったということもありますが、今のところはオイル交換くらいしか手がかかっていないんですよ。でも今後は何が起こるかわからないので、信頼できるお店があるのは心強いですね」
さらに、こういった作業記録はしっかりファイリングして保管していて、状態チェック体制も万全だ。
7万5000km程度の走行距離で購入して4年。スーパーGTを観戦しに行ったり、各地のドライビングスポットを訪れたりすることでオドメーターが示す距離は14万5000kmにまで伸びている。それでもまだまだ劣化を感じることはなく、ひとまずは30万km走破が今現在の目標になっているとのこと。
JTCCでその勇姿を目にして高校生の頃から憧れていたチェイサーを手に入れ、愛情を注ぎ続けているクハ189-501さん。
ひとまずの目標でもある30万kmまでは折り返し地点を回ったところだが、その目標も通過点のひとつに過ぎず、これからも50万km、100万kmと長く付き合い続けていきたいと考えているという。その理由は「TRDスポーツにはそれだけの価値があるのだから」と実に単純明快だ。
その愛情を一身に受け、TRDスポーツはこれからも走り続ける。
取材協力:大磯ロングビーチ(神奈川県中郡大磯町国府本郷546)
(⽂: 渡辺大輔 撮影: 中村レオ 編集:GAZOO編集部)
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