20年間をともにした、独自のスタイルに強心臓を搭載した日産パルサー『オーテックバージョン』

  • GAZOO愛車出張取材会で取材した日産・パルサーセリエ オーテックバージョン(HN15改)

1996年式の日産パルサーセリエ オーテックバージョン(HN15改)に乗って、撮影会場の大磯ロングビーチに颯爽とあらわれた滝沢さん。実はこの愛車紹介コーナーに登場していただくのは2度目で、以前はもう1台の愛車であるホンダ・CR-X(EF6)とのストーリーについて伺っている。

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CR-Xは1992年式なので、1990年代のクルマを2台持ちしていることになる滝沢さん。どちらも維持するにはそれなりの苦労があるものの、当時のクルマしか持ち得ないデザイン性やエンジンから伝わるビート感は、他に変えがたい魅力なのだという。

「パルサーを買ったキッカケは、以前に所有していたCR-Xを事故で廃車にしてしまったことでした。結局は後でCR-Xも買い直すことになった訳ですけど、パルサーに関しては最初は必要に迫られて選んだ側面もありましたね。そもそも、その時もCR-Xを買い直すつもりで探してはいたんですが、どうにも条件に合うクルマが見つからなくて…」

必要に迫られて買ったという割には、パルサーセリエのオーテックバージョンを選択するところが、なかなかというか、かなり個性的。だが、もちろんそこにも滝沢さんなりのこだわりがあったのである。

  • GAZOO愛車出張取材会で取材した日産・パルサーセリエ オーテックバージョン(HN15改)のエンジンルーム

「CR-Xが見つからなくて、他の選択肢もアリかなと思いはじめた時、クルマ好きの友人に相談してみたんです。そうしたら、長く乗るならエンジンが壊れないモデルがいいよと勧められまして。その時に例として出たのが日産のSR20型エンジンだったんです。歴史の長いエンジンなのでトラブルも出尽くしているし、タイミングチェーンを使っているからベルトほど劣化の心配もないと。それでSR20を搭載しているモデルから、次の愛車候補を絞っていくことにしました」
エンジンありきのクルマ選びは、滝沢さんが濃度高めのクルマ好きであることの証明と言えるだろう。しかもチューニングのベースとしても人気が高く、さまざまなノウハウが蓄積されているSR20に目をつけるところが、さすがという感じである。

SR20とは、かつて日産が展開していた2.0Lの直列4気筒DOHCエンジン。自然吸気のSR20DE、ターボのSR20DETなど、いくつかのバリエーションが存在する。SR20搭載モデルで最も有名なクルマといえば、縦置きFRレイアウトを採用したシルビア(S13型〜S15型)だろう。だが、実はプリメーラやアベニールなど、横置きFFレイアウトの車種にも搭載実績が数多くあり、1.6LのSR16、1.8LのSR18にまで幅を広げれば、モデルの選択肢もさらに増してくる。

  • GAZOO愛車出張取材会で取材した日産・パルサーセリエ オーテックバージョン(HN15改)

そんな中から滝沢さんが導き出した答えが、現在の愛車であるパルサーセリエ オーテックバージョン。たまたま近所の中古車屋さんで見つけることができたのも大きかったが、やはり決め手は当初の狙いだったSR20を搭載していることだったという。
「親の介護もあったので、荷物をたくさん積めるようにセダンやクーペではなく、ワゴンかハッチバックにしようという考えが最初からありました。それでパルサーセリエがいいかなと思っていたところ、今のオーテックバージョンと、SR16VEエンジンを搭載したVZ-Rというグレードが同じタイミングで見つかったんです。どっちにしようか悩んだんですけど、やはり専用チューンのSR20を搭載していて、しかも色が黒でMTというところが前のCR-Xと似ていたので、最終的にオーテックバージョンを買うことに決めました」

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ここで、あらためて振り返っておくと、パルサーは1978年に初代モデルが登場したコンパクトカーで、当初からセダンやハッチバックなど複数のボディバリエーションが展開されていた。
滝沢さんが所有するN15型は5世代目にあたるモデルで、1995年に発売。3ドアハッチバックには『セリエ』というサブネームが付け加えられ、スポーティグレードである『GTI』には1.8LのSR18DEが搭載されていた。

  • GAZOO愛車出張取材会で取材した日産・パルサーセリエ オーテックバージョン(HN15改)

そして、そのパルサーセリエGTIをベースに、当時のオーテックジャパン(現 日産モータースポーツ&カスタマイズ)が独自のカスタマイズを施したコンプリートモデルが『オーテックバージョン』である。
エンジンがSR18DEからSR20DEに載せ替えられ、型式は『HN15改』に変更。専用カムシャフトなどで性能アップされたSR20エンジンを搭載し、FUJITSUBO製マフラーや専用コントロールユニットなども採用したことで、最高出力は175psを発揮する。
また、ホワイトメーターやシート&ドアトリムなど内装も特別仕様となっている。

大型フォグランプを組み込んだフロントエアロバンパーをはじめ、サイドシルプロテクターや大型ルーフスポイラーなどの専用エアロパーツも装備。ヘッドライトのコーナーにアンバーレンズのフロントターンシグナルライトが備わっていたのも見た目上のアイコンになっていた。

滝沢さんは、そういったオーテックバージョンの基本スタイルを保ちながら、ディテールは自分流のカスタマイズも楽しんでいるという。まず、フロントの丸型フォグランプは本来クリアレンズなのだが、同じ日産のテラノ用だと思われるイエローフォグに交換。同じ日産だからか径もぴったり同じだったそうで、手軽に効果的なイメチェンを実現している。
また、ヘッドライトも滝沢さんの好みで後期型用のマルチリフレクター仕様に交換。ガラスレンズになるので耐久性も高く、レンズカットも無くなってクリア感が増すことからお気に入りだという。

そしてホイールは白の6本スポークが黒いボディに映えるだろうと、SSRのタイプCを装着。N15型パルサーは欧州では「アルメーラ」という車名で販売され、当時のFIAラリーカー規定のひとつであるF2(フォーミュラ2)のキットカーとしても活躍していたモデル。滝沢さんは6本スポークを履かせた自分のオーテックバージョンが、少しアルメーラのキットカーを彷彿させる雰囲気もあるのではと満足しているという。

  • GAZOO愛車出張取材会で取材した日産・パルサーセリエ オーテックバージョン(HN15改)

「今回の撮影会場である大磯ロングビーチは、オーテックジャパンが開催している『オーテックオーナーズグループ湘南里帰りミーティング』の会場でもあるんですよ。ここ数年はちょっと参加できていないんですけど、やっぱりそうした場で同じオーテックオーナーと交流するのは楽しいですね。パルサーはパルサーで全国ミーティングがあって、型式を問わず50台くらい集まるんですが、オーテックバージョンはいても1〜2台でレア度高めなんです(笑)」
そういった場を利用して部品やトラブルシューティングに関する情報を集めるのも、滝沢さんのライフワークのひとつ。タコメーターやワイパースイッチが不動となるのが“パルサーあるある”だそうで、今ではその対処法もしっかりと身につけている。

「すごく細かいですけど、パルサーの給油口には本来キャップを引っ掛けておくホルダーって付いてないんですよ。でも日産の他車種用として出ている純正部品がパルサーの給油フラップにもぴったり付くんですよね(笑)。そういう純正で流用が効く便利な部品の情報は、やっぱり他のオーナーさんの経験談から得るのが一番。教えたり、教えられたりの関係がとても貴重です」

滝沢さんがパルサーセリエオーテックバージョンを購入して、かれこれ20年が経つそうだが、これまで大きなトラブルはなし。マイナートラブルもそれほど苦労とは感じていないそうだ。
「不安があるとしたら、エアロパーツを破損してしまわないかどうかだけですかね。さすがにもう外装パーツは出てこないので、今のスタイリングを失ってしまわないよう、大事にしていきたいです」

「よく、古いクルマに乗っていて大変そうだねと言われることもありますけど、僕にとっては今のクルマは静かすぎて物足りない。本当にエンジン掛かってる?と心配になってしまいます。僕はパルサーに乗っている時の方が、エンジンの鼓動を感じられて好きですね。アクセルを踏めば回転数が上がって、シフトレバーを操れば変速する。その方が自分で運転している実感が湧きます。そんな感覚も、もはや得難い時代になっていくのかもしれませんから、なおさら大切に乗っていきたいです」

とても自然体で、1990年代に誕生した2台の愛車との生活を満喫している滝沢さん。その1日1日が実り多いことを、屈託のない笑顔が物語っていた。

取材協力:大磯ロングビーチ(神奈川県中郡大磯町国府本郷546)

(⽂:小林秀雄 / 撮影:平野 陽 / GAZOO編集部)