親から子、そして孫へ。家族の思い出を乗せて走り続ける6代目クラウン

小学生の頃に父親が購入した1982年式のトヨタクラウン スーパーサルーン エクストラ(MS110)を譲り受けて乗り続けているというオーナーさん。すでに40年以上にわたって加藤家とともに走り続けるクラウンは、いずれ加藤さんのお子さんへ。そんな家族のカーライフ。

トヨタ・クラウン スーパーサルーン エクストラ(MS110)に乗る加藤丈弘さんのクルマ置き場には、何台ものクルマがぎゅうぎゅうに保管されているという。収集癖というやつか、好きなクルマを集めているうちに、いつのまにか駐車スペース用に土地を借りなければいけないほどの数になってしまったのだという。

20代の頃から始まったという加藤さんの “クルマ集め”は気付けば20年以上も続いていて、これからも継続していくつもりだというが、そもそもクルマ好きになったキッカケは、お父様の乗っていた6代目クラウンの影響が大きいという。小学校3年生の時に我が家にやってきたクラウンは、加藤さんにとって自慢のクルマだったそうだ。
「当時のクラウンって、僕の中では偉い人が乗るイメージがあったんですよ。実際のところ、会社の社長さんが乗っているケースが多かったですから。そんなクルマに乗れる親父って、なんか凄いなぁと思っていました。そして、その時に小学校3年生だった僕が大人になった今、そのクルマに乗っているんです」

その話をした時、隣にいたお父様が誇らしげな表情とともに「実はね…」と堰を切ったように話し始めた。
「息子が免許を取って初めて乗ったクルマが、僕の乗っていたクラウンなんですよ。だから、このクルマは41年間現役で走り続けているということになるわけです」
お父様は転勤族で山梨と栃木を行ったり来たりしていたそうだが、引越しの度に荷物を積んだ狭い後席で窓の外を眺めていた少年時代、高校受験の合格発表を見に行く車内で不安そうな面持ちをしていた青年時代など、加藤さんがクラウンの中で過ごしてきたさまざまな場面が、今でも脳裏に焼き付いていると懐かしさを噛み締めていた。
そして、ご自身が通勤に使っていたクラウンに、時を経て息子である加藤さんが乗っている姿を見ると感慨深いものがあると目を細めながら語ってくれたのだった。

ちなみに、加藤さんのクルマ置き場に単管パイプで建てられている車庫は、お父様のお手製なのだとか。自分は専ら集めるだけで、お父様は建てる係だと笑いながら話してくれた。そして車庫を建てるスペースが無くなってしまった現在では、駐車場に訪れてクルマを掃除する係に変わっているそうだ。
「ふらっと来ては『ここちょっと汚れてきたぞ〜』と拭いて帰るんです。親父も僕と一緒でクルマ好きなんでしょうね(笑)」

そんな思い出の塊のようなクラウンは『新しい時代を開く伝統の高級車』をテーマに開発され1979年9月に登場した6代目モデル。
パワーユニットは従来の2.6Lの4M-EU型エンジンから2.8Lに拡大された5M-EUを筆頭に、2000ccEFI(M-EU)、2000cc(M-U)、2200ccディーゼル(L)の4種がラインアップされ、ボディタイプは4ドアのセダンとハードトップ、2ドアハードトップ、ステーションワゴン、バンの5種で構成された。
ギヤボックスや、サスペンションなどの機構は先代から継承され、最上級モデルの2800ロイヤルサルーンには“マイコン"を組み込んだクルーズコンピューターがオプション設定されるなど、先代よりも更に先進的で高級志向に舵を切ったモデルだ。
『鬼クラ』の愛称で親しまれ、ドアガラスを閉めた状態でセンターピラーが隠れて見える4ドアピラードハードトップはその後の世代にも継承される人気のスタイルとして確立された。

そして1980年にはターボチャージャー付きの2000ターボ(M-TEU型)が追加され、1981年にはマイナーチェンジによってフロントグリルやテールランプのデザインが刷新された。加藤さんが乗るクラウンは、そんな後期型のターボモデルだ。

「スーパーサルーン エクストラ ターボというグレードに乗っているんですけど、ターボの力強い走りが良いんですよ〜。古いクルマだから、ステアリングの反応が遅いと感じる時はあるものの、高速も現代のクルマと変わらないくらいスピードが出るから普通に使えますよ。加えて、ターボなのに雲の上を空飛ぶ絨毯で飛んでいるかのようなフワフワ感があるんです。クラウンはターボが付くと乗り味が硬くなっちゃう傾向なんだけど、6代目クラウンはターボの力強さと柔らかい乗り心地のどちらも楽しめるから、7台あるクラウンの中で1番好きです」

“7台のクラウン”という言葉に驚きつつ伺ってみると、お父様の乗っていた6代目クラウンを皮切りに、2代目、7代目、9代目、11代目、初代、8代目の順番でクラウンを集めていったという加藤さん。なぜクラウンばかりをコレクションしたかと問うと答えは明確で『いろいろなクラウンに乗ってみたくなったから』だそうだ。

すべてのクラウンに其々の良さや思い出が詰まっているそうだが、ヒヨ子の刷り込みのようなものなのか、結局は小さい頃に父親が乗っていた6代目クラウンが1番好きなのだと話してくれた。

「2代目も妻との思い出が詰まった特別なクラウンだから、そっちで取材会に応募しようかとも思ったんですけど、車検が切れていて…」
結婚式のフラワーシャワーは定番とも言える演出だが、加藤さんが挙式をあげた式場は教会から式場までの距離があったため、クラウンに乗って移動したのだそうだ。もちろん、前が見えないくらいのフラワーシャワーを浴びながら。

アメリカで流行っていた4灯式ライト、ボンネットやトランク面にフラットデッキスタイルを採用したアメ車っぽい2代目クラウンが1番好きと言っていた奥さんは、かなり喜んでくれたと満面の笑みを見せた。
「結婚式の日のために車検をとったんですが、最後の方は間に合うのかとヒヤッとしたシーンもありました(笑)」
そんな心温まるエピソードを話して頂いたが、7台の中には苦労させられた記憶しかない個体もあると空笑いした。

「思い起こせば初代クラウンは最初から大変だったんですよ。手に入れるのもそうですし、動かないどころが部品も取り外されていたんですから。サビは言ってしまえばアルアルだし、目で見て直ぐに分かるじゃないですか。覚悟はしていたけど状態が悪いな〜と思いながらボンネットを開けると…燃料タンクが物自体が無いんですよ。あれは衝撃的でしたね(笑)」

そんな状態からでもなんとかエンジンがかかる状態まで復帰させたというから驚かされるが、そうまでして乗ろうと思ったのは、その個体のバンパー部分に宇都宮市の指標があり、加藤さんが調べてみたところ、このクラウンは宇都宮市の公用車として登録されていたことから『市長が乗っていたクルマでは?』というプレミア感を感じたからだという。
「手がかかるには間違いありませんが、個性的なところが嫌いになれないんですよね」と、それぞれのクラウンにまつわる思い出話は尽きない。

さて、今回はクラウンの話ばかりだったが、最後に少しだけ、この取材会にクラウンと一緒にお父さまが乗ってきたスバル360の紹介もしておこうと思う。
当日、2人のお子さんとお父さまを合わせてもクラウン1台に乗れないことはないけれど、わざわざ2台で会場に乗ってきたのは『クラウンが動かなくなってしまった時のため』だという。
それを聞いて、スバル360は故障することはないのだろうなと思っていると「まぁ、どっちも古いクルマだから、どっちも故障しちゃうっていうことはありますけどね」と加藤さん。

古いクルマを持つというのは、こういうことなのかもしれない。走行性能どうこうではなく、その日、その時、思い出を乗せて走ることに意味があるのだ。

加藤家のクルマたちは、これからどんな時間を誰と過ごしていくのだろうか?

取材協力:
カンセキスタジアムとちぎ 栃木県宇都宮市西川田二丁目1-1
栃木県フィルムコミッション

(⽂:矢田部明子 / 撮影:土屋勇人、富澤さん / 編集:GAZOO編集部)