父から自分、そして娘へ。新車から40年乗り継ぐ「鉄仮面」、ことスカイラインRSターボ

  • GAZOO愛車取材会東京の会場であるトヨタ東京自動車大学校で取材した1985年式日産・スカイラインRS-TURBO X(DR30改)

    1985年式日産・スカイラインRS-TURBO X(DR30改)

「古いクルマは壊れやすい」とか「高額な修理代が必要」といった印象が強く、旧車に乗り続けることはハードルが高いと考えられている。もちろんそういった情報はあながち間違いではなく、手がかからないと言えば嘘になってしまうし、場合によっては修理代が高額だったり部品探しに苦労することもある。
しかし、実際には長く乗り続けているオーナーさんもたくさん存在する。『ケンメリ』さんの1985年式日産スカイラインRS-TURBO X(DR30改)もまた、長く乗り続けるという強い意志を持ち、家族に愛されるファミリーカーとして走り続けている1台なのである。

  • GAZOO愛車取材会東京の会場であるトヨタ東京自動車大学校で取材した1985年式日産・スカイラインRS-TURBO X(DR30改)

DR30型は1981年にデビューしたスカイラインの6代目。中でもケンメリさんが乗るのは“鉄仮面”の愛称で親しまれる後期モデルだ。前期モデルは当時のグループ5に出場した『スカイライン・スーパーシルエット』がグラチャンレースに出場し、その強烈なワイドフォルムから大きな話題を呼んだ。このレースでの活躍とともに、後期モデルでは薄型のヘッドライトに変更して目力の強めな切れ長フェイスを採用したことで、若者を中心に絶大な人気を集めていたのだ。

「自分が実質的にオーナーになったのはハタチの時なんですが、実はこの鉄仮面は自分が高校3年生の夏に、父親がクルマを買い替える際に説得して購入したクルマなんですよ。当時はスカイラインが7代目にモデルチェンジするって発表されたタイミングで、今を逃してはファーストオーナーとしてDR30を手に入れることはできなくなってしまうと考えたんですね。ちょうどファミリーカーだったケンメリが雨漏りしはじめていて買い替えが必要なタイミングだったので『絶好の機会を逃すわけにはいかない!!』と思って、拝み倒して購入まで漕ぎ着けたんですよ」

当時、お父さまが乗っていたケンメリも気に入っていたものの、クルマに興味を持った若者らしく先鋭的なフォルムやターボという響に心を鷲掴みされてしまったという。
「高校生だった自分にとって鉄仮面のカッコよさは刺さるものがあったんですよね。ちょうど近所の同級生の家もR31へのモデルチェンジ直前にDR30に買い替えたんですが、僕と同じように父親を説得して鉄仮面にしてもらったって言っていましたよ(笑)。ただ、自分がクルマ好きになったキッカケは父のケンメリが家にあったからなんです。だから今でも鉄仮面とともにケンメリは好きなクルマの1台ですね」

大学に入って免許を取ったタイミングで、本来のオーナーであるお父さまが長期で海外赴任することになってしまったのを機に、自由に鉄仮面を乗り回すことができるようになったケンメリさんは自分の思い描く鉄仮面へとカスタムをはじめていったという。
その後、正式にお父さまから鉄仮面を譲ってもらい、以来現在までずっと乗り続けていることを示す貴重な2桁ナンバーは、長い歴史を鉄仮面とともに歩み続けてきた証拠であり、その愛情の深さは計り知れない。

「最近では娘も免許を取ってこの鉄仮面に乗るようになったんです。ウチの親父から自分、そして娘へと3世代に渡ってハンドルを握っているというのは、なんだか嬉しくなっちゃいますね」
娘さんはもちろんのこと、実は奥さんもこの鉄仮面を日常的に使用しているとか。お子さんの送り迎えや買い物など、普段の生活でも使っているというだけに、ケンメリさんファミリーにとって鉄仮面はもはや欠かすことのできない存在となっているのだ。

もちろん長く乗り続けていると楽しい思い出ばかりではない、というか苦労する場面に出くわしてしまうのも当然の話。そのひとつが、ファミリーカーとして必須のチャイルドシート問題だ。
「この鉄仮面は2点式シートベルトなので、結婚して子供が産まれた時にチャイルドシート選びには苦労しましたよ。ほとんどのタイプが3点式留めだったため、対応する製品が見つかった時は『これで安心してファミリーカーとして乗り続けられる』と胸を撫で下ろしました」

苦労といえば、2012年には家族で旅行に出かけた際にエンジンブローに見舞われたのも思い出深い出来事のひとつだという。
こういった時に頼りになるのが、専門店を営む学生時代からの友人なのだとか。
「昨年のゴールデンウィークにも点火系にトラブルを抱えエンジンが始動しなくなってしまったんですが、その時はもう直らないかもって話になっちゃったんです。でも家族も愛着を持っていてくれたので、家族会議の結果、直らなくても残しておいてほしいって言われちゃって。そこまで言ってもらえるほど大切なクルマならって、友人のショップが頑張ってくれて、なんとか路上復帰を果たすことができたんです]

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「そういえば、追突された時はリアスポを取り外すかどうかって議題で家族会議が開かれましたね。その時は妻も娘もリアスポを取り外すのは反対していました。結局は取り外しちゃったんですが、そのときには『家族それぞれが理想の鉄仮面像を持っているんだな』って改めて知ることができましたね」

「ATはトラブルで3回ほどミッションを修理しましたが、どうしても壊れてしまうんです。そのため、これからも乗り続けるための対策として、壊れるところが少ないMTに載せ替えを行いました」
MTへの換装は重大な作業だが、鉄仮面以外に乗りたいと思えるクルマがないケンメリさんは買い替えなど想定していなかったし、コストの問題ではなく乗り続けるための対策が完了したことが重要な意味合いを持っているというわけだ。

ボディは追突などによって何度か補修ペイントが行われていて、新車当時からのペイントが唯一残っているのはボンネットのみとはいうが、ずっと大切にガレージ保管してきた甲斐あってツヤもしっかりと残っている。洗いすぎてプレスライン部のペイントが薄くなってしまうほど磨き続けてきたのだ。
また、この鉄仮面は純正エンブレムが外され、エンブレムを模したオリジナルのデカールが貼られているのも特徴だ。これは絶版品の純正エンブレムが盗難に遭ってしまうため、外して保管しながらパッと見では純正に見えるように工夫が施されているのだ。過去にはコジられてボディに傷が入ってしまったこともあるというだけに、重要な防犯対策とえるだろう。

そして、晴れてオーナーになった学生時代から今も変わらないのがホイールだという。履かせているRSワタナベの8スポークは、大学生の頃に買ったスカイラインRS専用サイズというレア品で、当時からこの組み合わせがお気に入りだったため、30年以上経過した今も色褪せることなく自然にマッチしている。

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免許を取って以来、愛車は鉄仮面のみというケンメリさん。お父さまから譲り受けた時は1万キロだった走行距離は、すでに26万キロをオーバーしている。オーナーになった学生時代から結婚、そして子供の誕生とすべてのライフイベントをこの鉄仮面とともに過ごし、家族でのドライブはいつも一緒だったという。

「家族旅行の時にエンジンブローや追突なんてトラブルもありましたが、今となっては自分にとって思い出のひとつになっていますね。そんな思い出が詰まったクルマだからこそ、家族も愛してくれて、もう手放すことはできなくなっています。だからこれからは死ぬまで乗続けられるようにしっかりとメンテナンスを行うことが目標です」
確かに旧車を乗り続けることはハードルが高いのかもしれない。しかし、乗り続ける意志と覚悟を持っていれば不可能なことではない。そんな覚悟を持たせてくれる一生涯の相棒と出会えたことは、ケンメリさんにとって幸運であったにちがいない。

取材協力:トヨタ東京自動車大学校(東京都八王子市館町2193)
(⽂: 渡辺大輔 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]