腰を据えてジックリ付き合うメカニックとカムリのセカンドストーリー
junさんの通勤路は中・高速のカーブが断続的にあり、例えるならば「群馬サイクルスポーツセンターの序盤」のようだと言う。加えて、ジャリ浮きとツギハギ舗装工事がしてあるボコボコした荒れた路面ばかりで、これを毎日往復で90kmほど走っているそうで、走行距離は15万kmに達したそうだ。
「友達に『あそこは道も悪いし、クネクネ道ばかりじゃないか。毎朝運転するのは疲れないかい?』と言われたことがあります。確かに、通勤路としては最悪かもしれません。でも、テストコースとして考えた時に、あんなにピッタリな道は他にないと思うんです。だって、唯一の直線すら、傾斜10度くらいの下り坂なんですから」
結局のところ、毎日愛車のカムリハイブリットの走行性能テストを行なっているのだ。片道45kmの道程を朝と夕方でじっくり堪能し、気になった箇所を週末に手直しをするという、トライアンドエラーを繰り返しているのである。
そんな自分のカーライフを振り返り、junさんは自動車整備士としてディーラーで働いていた頃よりも、今の方が“自分らしいクルマとの関わり方”ができている気がすると話してくれた。
「もちろん、ディーラーで働いたからこそ今があると思っているし、学ぶことも多くてとても勉強になりました。何より、大好きなクルマと関わる時間は、とても幸せでしたしね。ただ…時間が限られた中でのメンテナンスやノルマなどは、僕には合っていなかったのかもしれません」
そう言うjunさんがクルマ好きになったのは物心がつく前で、自分でも気付けばという感じだったそうだ。家族の中にクルマ好きはひとりもいなかったのに「エスティマ!」と、3歳の頃に急に言い始めるものだから、ご両親はかなり驚いたという話を盆暮正月に必ず聞かされるという。
クルマに関する熱意は高校生になっても変わらず、生まれて一度も本気で勉強をしてこなかったのに、運転免許を取るために何時間も机と向き合ったのには、自分でも呆れるほどだと頭をポリポリかいていた。でも、だからこそ、将来は自動車関係の仕事に就くべきだと感じたのだそうだ。そうして選んだのが、自動車整備士の専門学校に進学する道だったという。
専門学校に入学してからは、積載車を運転しなければいけなくなるだろうと中型免許を取得。リッター6km程度しか走らないトヨタマークⅡ グランデGターボを愛車に迎え入れて、ハイオクガソリン代の恐怖と闘いながらバイト三昧の学生ライフを送ったとのことだ。
junさんは、15系のクラウンやセドリック、グロリア、100系のマークⅡなど、今や絶滅危惧種となっている往年のセダンが好みだったそうだ。
「自分の中で、クルマと言えばこの形というのが“定規で書けるような直線基調のセダン”なんです。それでいくと、トヨタマークⅡは多少丸っこくて当てはまらないんですけど、調べていくとグランデのGターボというグレードがなかなか面白くてですね。どちらかと言うと、外観よりも中身に惹かれて購入してしまったという感じなんです」
トヨタマークⅡグランデGターボに乗ることを専門学校の先生に報告した時に『1JZのターボエンジンは、グランデにラインナップされていなかったはずだ』という回答が返ってきたのだとか。
そんなはずはないとマークⅡの歴史を遡ると、110系前期の約2年間しか販売されていなかったことが判明したという。その事実を知った時、junさんは世間一般の認知度と反比例するように、沸々とGターボに興味が沸いていったそうだ。
「他にも、このマークⅡには僕の興味をそそる“何か”が沢山あったんです。北海道仕様というやつになっていて、雪が詰まらないようにオルガンではなくて吊り下げ式ペダルになっていたり、バックフォグが付いていたり、ワイパーのところに熱線が入っていたりなど、とても面白い装備になっていたんですよ」
現車を見てjunさんがさらに惹かれたのは、内外装はお爺ちゃんが乗るようなただのノーマルっぽいグランデなのに、エンジンが1JZ-GTEで280psもあるところだったという。試乗すると、ターボが効き始めてからは自然吸気の2.0リッターエンジンとは比べ物にならないくらい速かったのに、見た目が普通というのが堪らなくカッコよく感じたのだという。
「カムリの外観を一切いじっていないのは、マークⅡに乗っていた時に、シンプルで機能的なのに速いという“美学”を知ったからなんです。あとは、学校で色々勉強していくうちに、クルマの外観は整備士の僕がやるよりも、デザイナーさんが一生懸命仕上げたデザインが1番なのでは? と思うようになったからです。だから、中身のみをいじるようになりました」
そういった理由から、現在の愛車であるカムリは見えないところで勝負しているのだという。
「今日は撮影のみですが、本当は皆さんに、このクルマに乗ってほしいくらいなんです。というのも、中身を知ってもらいたいので」
カムリに乗り始めたのは、お父様から譲り受けたことがキッカケだったという。まったく興味のないクルマだったが、いざ走らせてみると走行距離が10万kmで明らかにガタがきはじめているのがハンドルから伝わってきたそうだ。
普通だったら『とりあえず次の車検くらいまでは乗ろうか』と妥協するくらいの状態だったが、junさんはこのクルマを自分好みに20万kmまで走らせてみたいと、久しぶりにワクワクしたと笑みを溢した。
「ディーラーを辞めてしばらくは、自分のクルマすら見るのも嫌でした(笑)。でも、やっぱりクルマが好きだから、カムリに延命作業を施して、できるだけ最高の状態で走らせてあげたくなってしまったんです」
そうと決まれば、まずは工具集めだと、フロアジャッキとリジットラックを4つ、それに電動インパクトレンチや溶接機まで購入したそうだ。すると、どこらともなく噂を聞きつけたクルマ好きの友達がjunさんの自宅に集まるようになったのだとか。
友人達のクルマは、クラウン、マークX、エスティマ等々で“今の自分は整備士でも何でもないぞ”と言いながらも、車高調整式サスペンションの装着やスプリングの交換など手助けをしているうちに、現在進行形で工具や設備等がどんどん増えているということだ。もちろん、友人のためというのもあるが、やっぱりイジるのが楽しいからついついやってしまうのだという。
「なかでもダントツで面白いのはカムリです。なぜなら、イジった次の日に、どこがどう変わったのかを体感することができますからね。それで気に入らなければちょっとずつ手直ししていくわけですけど、それがクルマと対話しているというか、しっかりクルマと向き合っている気持ちになれて好きなんです」
目下、60〜100km/h間の乗り心地と運動性能を上げるのがテーマで、純正のアッパーマウントが使用できるラルグス製車高調、ターンバックル式のスタビライザーリンク、車高変化に伴うヘッドライトの光軸調整のためのオートレベライザーアジャストロッドなどを装着しているという。今後はボディの補強と予防整備を常に行ない、自分の体に合ったクルマにするために、必要最小限のパーツは取り付け、無駄なものは外すようにしていくのだという。
「車高を落とし過ぎていないのは、サスペンションのストロークを確保しておきたいからなんです。もう少し落とせば? と言われることもあるけど、走りを考えるとこの辺りの車高が一番なんです。今後の目標は、アメリカのイジり方であるスリーパー(日本風に言うと“羊の皮を被った狼”仕様)をカムリに落とし込むことですね」
紆余曲折があって、一時期はクルマが嫌いになりそうな時もあったが、こうしてまたクルマイジりをしているのは好きだからに尽きるという。そして、これからも自分なりに、クルマと一緒に生きていきたいと話してくれた。
(文: 矢田部明子 / 撮影: 平野 陽)
許可を得て取材を行っています
取材場所:四季の里(福島県福島市荒井字上鷺西1-1)
[GAZOO編集部]
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