幼少期からカー雑誌を読み漁っていた青年が手に入れた『あの頃夢見たアコードユーロRとの愛車ライフ』
入院生活が長く、幼稚園に通えなかった『K-た』さんの愛読書は“ベストカー”だった。読めない漢字は沢山あったが『○月販売予定!?』といった見出しがついたページを開くと、おそらくこんな感じのデザインになるのでは? というイラストが載っていて、それを眺めるのが大好きだったという。幼稚園に通えるようになったらこのクルマとすれ違うかもしれないと思うとワクワクし、それが長い入院生活の励みにもなっていたということだ。
「もちろん今もなんですが、幼少期の頃からクルマは僕にとって、う〜ん、ちょっと照れくさいですが…心の支えでした」
同じ病棟にいる友達との遊びの定番は、クルマ屋さんごっこ。K-たさんは専ら自動車ディーラーの店員役で“車両本体価格”、“オプション価格”、“値引き価格”などの項目を細かく見積もり書に起こし、お客さん(お友達)にクルマを売っていたのだという。この当時は、エルグランドやステップワゴンといったラインナップのファミリーカーが好きだったそうで、何台売ったか覚えていないと自慢気に頷いていた。
体調が良くなり、毎日小学校に通えるようになったのは2年生くらいで、その頃にハマったのは改造車をメインに掲載する自動車雑誌“オプション”だったとのこと。教室でもクルマ好きの友達がいたため、車高を低くしたシーマやセルシオといった高級車や、定番のスカイラインGT-Rについて熱く語り合っていたという。中でも影響を受けたのは“S14シルビアDIY”という連載企画だったらしい。クルマ屋さんでなくとも、自分で何とか走れるように修理できるということが衝撃的で、それが現在の自動車部に入ろうと思ったキッカケになっているそうだ。
「愛車を自分でどうにかできるって、すごく楽しそうだなぁ〜と思ったんです。この頃から、クルマも持っていないのに、ネットオークションで部品を検索するようになりました(笑)。“TO4Z”というタービンがすごいらしいと雑誌に載っていたのを見て、ちょっとネットオークションで探してみようか? なんてしょっちゅうやってましたね(笑)」
そんなK-たさんは、小学校6年生になりスマホを買ってもらう。そこからハマったのが“みんカラ”や“Twitter”などのSNSだ。雑誌と違ってSNS面白いところは、試行錯誤しながら素人が自分なりに整備をしているところだったという。
しばらくは見ているだけだったそうだが、そのうち自分も何かを発信したいと思うようになり、中学校3年生の頃にお母様のステップワゴンでみんカラに登録をしたそうだ。最初の投稿は『アクセサリーランプ・スモールランプのLED化』についてだった。その投稿に“いいね!”が6もついたと、嬉しそうに話してくれた。
「つい最近、みんカラから“6年記念”というメールが届いていました。あれからもうそんなに時が経ったのかというのと、ついに、母のステップワゴンでもなく、祖父のプレサージュでもなく、自分の愛車であるアコード ユーロR(CL7型)で投稿できるようになったんだなと、嬉しくなりました」
アコード ユーロRを愛車として選んだのは、このクルマが幼い頃から慣れ親しんだホンダ車で、実用性のみならず、走りも楽しめるクルマだったからとのこと。正直なところ、走行性能だけを見るとS2000が欲しかったそうだが、車両価格がとんでもなく高価だったのと、2シーターという尖りすぎたパッケージが、K-たさんがこれから送りたかったカーライフに合わなかったのだという。
というのも、自分の愛車を迎え入れたら、友達とワイワイしながらドライブに行ったり、着替えや車中泊セットを積んで日本全国制覇を目指して走り回ったりしたいと考えていたからだ。加えて自動車部に入るならば、ある程度サーキットを走れるクルマじゃないと…となると、アコードしか考えられなかったと話してくれた。
「このアコードを探していた時に困ったことは、中古車市場にタマ数がほとんど無かったことです。あってもかなり値が張るし、安いと思ったら極端に状態が良くなかったりで…。どうしたものかと頭を抱えていましたね」
そんなK-たさんに転機が訪れたのは、大学の自動車部に入部し、3回目のミーティングが行なわれた時だった。突然先輩から呼び止められ『キミ、アコードユーロRを探しているらしいね?』と声をかけられたのだ。どこからその情報が漏れたのかは分からないが、聞くところによると、走行距離22万kmの個体を、自動車部のOBが3万円で譲ってくれるという話だったそうだ。
「願ってもないチャンスだと、すぐに先輩の家に現車確認に行きました。そしたら、僕が欲しかった黒のボディカラーで、車内の居住性も充分。条件に全て合致していたので買うしかないと思ったんです。一応、親に報告しようとラインをすると…そこからが少し大変でしたね」
まずは“物価が高騰しているこのご時世に、クルマが3万円とはどういうことなのか?”というところから、やり取りが始まったそうだ。その後、走行距離22万kmのクルマに乗るとなると、メンテナンスがかなり大変になるということや、それならシビック(FK7型)が良いのでは? という提案もお父様からあったという。
「クルマに関するお金は『バイトをしながら全部自分で』というルールを作っていたので、FK7を買うとなると貯金するのに時間が掛かると思ったんです。時間は有限で、僕は学生のうちにクルマを目一杯楽しみたいから、ユーロRからは揺らぎませんでした。それに、もう一目惚れしていましたから。角張っていて、リヤをスパッと切り落としたような、あのデザインが頭から離れなかったんです」
こうして、ご両親の反対を押し切って購入したユーロRだが、K-たさんには維持する自信があったという。というのも、小学生の頃から見ていた“みんカラ”で、大体どこが壊れやすいかを把握していたし、ネットオークションでユーロRに使えそうな部品をコンスタントに売りに出す出品者の目星までもついていたからだ。カスタムは、自動車部の仲間や先輩に知恵をもらいながら試行錯誤すれば良いし、何とかなるという自信が身体中に満ち溢れていたのだという。
「走行距離に関しては、ユーロRで70万km走っている方をTwitterで知っていたんです。エンジンを何機も載せ替えて走っているという方なんですけど、それを考えたら僕の20万kmなんてまだまだ大丈夫だなと。むしろ、安心すらしていました」
そう話すK-たさんは、ユーロRでサーキットデビューも果たしている。それまで乗ってきたのが教習車のカローラ、お母様のステップワゴンだけだったため、ユーロRのあまりの本格的な走りに自分の愛車ながらに驚いてしまったと笑っていた。
ただ、自動車部の先輩が乗っている先代アコードユーロR(CL1型)の走りと比べると、同じユーロRなのに!? と疑ってしまうほどタイム差が開いてしまったそうだ。そこで今後の目標は『自分の腕を磨くことと、アコードのパッケージングを壊さないようにカスタマイズしていくことです!』と、元気に答えてくれた。
「夏場のサーキット走行の熱からエンジンを守りたいと、ホンダツインカム製のオールアルミ2層ラジエターを装着しました。また、J'sレーシング製の調整式フロントアッパーアームも取り入れてみたりと、色々なことに挑戦しています。今、僕は確かに、小学生の頃に憧れたカーライフを送れていると感じています。決して完璧ではないけれど、パソコンの前で、自分も免許を取ったらやってみたいと思っていたことに近づけているのかなと思うんです」
今後の目標は、できるだけ長くユーロRに乗れるようにメンテナンスしていくことと、実用性もありつつ、走れるスポーツカーを世に送り出す仕事に就くことだという。
「そういったクルマを作って採算が取れるのか? という話になるかもしれませんが、僕のように“実用性もあるスポーツカー”を必要としている人って沢山いるんじゃないかと思うんです。乗って楽しいクルマが登場すると、クルマ好きも増えるだろうし、何よりクルマの良さを知ってもらえるキッカケが増えるんじゃないかなって」
ちょうど2年前に手に入れたユーロRは、色々な景色と夢をK-たさんに与えてくれたという。それはユーロRに限らず、思い返せばクルマは幼少期から傍にいてくれたと優しい顔をした。
「これからは、僕が頑張ります」
希望に溢れたその表情が眩しく、ハンドルを握る姿が頼もしく感じた。
(文: 矢田部明子 / 撮影: 平野 陽)
許可を得て取材を行っています
取材場所: 四季の里(福島県福島市荒井字上鷺西1-1)
[GAZOO編集部]
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