86から乗り換えたGR86と再び歩み始める濃密なカーライフ

  • GAZOO愛車取材会の会場である福島県福島市四季の里で取材したトヨタ・GR86(ZN8型)

    トヨタ・GR86(ZN8型)



2023年の8月6日、ハチロクの日にトヨタ・GR86(ZN8型)を購入したオーナー。ピカピカの新車、しかも誰もが羨むスポーツカーを手に入れたのだから、とてもおめでたい話のはずなのだが、そこに至る経緯には少し複雑な事情が絡んでいた。

実はそれまで11年に渡って乗ってきた前の愛車、トヨタ86(ZN6型)をゲリラ豪雨による不運な水没事故で手放さざるを得なくなり、結果的に『悩む暇もなく』乗り換えることになったのだという。
禍福は糾える縄の如し。オーナーが辿った数奇な物語を、順に紐解いていこう。

「私がクルマを好きになった最初のキッカケは、高校生の頃に街でスープラ(JZA80)を見かけて、なんてカッコ良いクルマなんだろうと思ったことでした。それから、やっぱり世代的に『頭文字D』の影響も大きかったですね」

そう語るオーナーが、人生で最初に購入した愛車はカローラレビン(AE111型)。やはりトヨタ製の2ドアスポーツクーペに、並々ならぬ興味を惹かれた結果の選択だった。そのカローラレビンにも15年乗ることとなったのだが、時代が2000年代に突入してからしばらくすると、オーナーの元に衝撃的なニュースが届けられた。
2008年4月、トヨタと富士重工業(現SUBARU)が小型FRスポーツ車を共同開発し、両社で市場展開することが正式発表されたのである。

AE86を祖先に持つAE111のオーナーにとっては、新型の86が登場するというのは青天の霹靂。発表から間もなく立て続けにコンセプトカーも発表され、そのカッコ良さに胸を躍らせた。

「東京モーターショーに出展されたコンセプトカー(FT-86 Concept)も、東京オートサロンで発表されたコンセプトカー(FT-86 G Sports Concept)も見に行きました。当時池袋にあったアムラックス(トヨタオートサロンアムラックス東京)にも一時期展示されていたので、そっちにも通いましたね(笑)。もうこれは絶対に買おうと心に決めていたので、トヨタ86が発売された2012年の2月に予約を入れて、6月に納車されました。本当にうれしかったです」

念願叶ってトヨタ86を手に入れ、毎日がハッピーだったと語るオーナー。通勤をはじめ、旅行やサーキットにも出かけ、各地で様々な思い出を刻んでいったそうだ。

「日本全国いろいろ回りましたけど、運転していて全然疲れなかったですね。それくらい、何もかもが楽しかったんです。カスタマイズも楽しみましたし、本当に気に入っていたので、走行距離が20万kmに差し掛かる手前で、一度大幅なリフレッシュも済ませたんです。それでまだまだ乗り続けるつもりでいたんですけど、その矢先に水没事故に遭ってしまいました…」

2023年の8月1日、福島県は夜明け前から局地的な豪雨に見舞われ、その日オーナーは職場に早番で出勤しなければならなかった。通勤経路の下り坂を下った先の排水が間に合っておらず、視界も悪い中、冠水した路面に運悪く侵入してしまったのだという。

「それで自走できない状態になってしまって、そのままディーラーに運ばれたんですけど、パイプやエアクリーナーから水がドバドバ落ちてきました。フロアも水浸しでしたし、もう手の施しようがなかったですね」

大掛かりなリフレッシュを済ませ、20万kmまであと少しというところだったトヨタ86とは、もうそこでお別れせざるを得なくなってしまった。すっかり意気消沈してしまったオーナーだったが、そこに助けの手を差し伸べるようにディーラーの担当者から、ZN8のGR86への乗り換えを提案されたというのである。

タイミング良く、と言っていいかどうかは難しいところだが、ちょうどその時GR86の一部改良を目前に控えており、担当者曰く予約ができる状況なのだという。しかもオプションのブレンボ製ブレーキとザックス製のサスペンションが最初から装着されている仕様を、納期もそれ程かからず届けられるという、またとない魅力的な提案。どのみちZN6は廃車にせざるを得ない状況なので、オーナーは『悩む暇もなく』目の前に現れた新しい縄を掴んだのであった。

「ZN6から乗り換えると、やっぱりZN8の走りは別物です。乗り心地も、ハンドリングも断然いいですね。ブレンボ製のブレーキもアフターパーツを手に入れようと思うと手が出せない値段なので、お得感はすごく感じています(笑)」

納車されてから取材時まで、まだ9ヶ月ほどしか経っていなかったため、オーナー自身もGR86の魅力を味わっていくのはまさにこれから。走行距離は9,656kmを数え、ようやく身体に馴染んできた、といったところのようだった。

だが、一方でZN6の時と同じようにカスタマイズも着々と進行中で、ホイールは「黒のボディにはやっぱりブロンズが映えると思うので」と、ヨコハマのADVAN Racing RZIIを装着。マフラーも純正より重低音が効いているサード製のSu-Zステンレスマフラーを装着し、チタンテールエンドでドレスアップ効果も高めた。

フューエルリッドと室内のセンターコンソールには、AE86生誕40周年を記念したロゴが描かれているのだが、それは東京オートサロンのトヨタブースにて100個限定で販売されていたものだそう。各部スイッチ回りにはカーボンパネルも装着し、自分好みのワンポイントを演出している。

「これはどちらも自分で作ったものなんですけど」と見せてくれたのは、オリジナルのイラストが描かれているトートバッグと、競走馬の鞍に取り付けられるゼッケンのようなもの。トートバッグのイラストは、当時トヨタでZN6のデザインを担当した古川高保さんに描いてもらったそうで、ZN6とZN8が仲良くバトンタッチしている様子に、古川さんのサインも添えられている。

競馬のゼッケンの方は、好きな数字と名前が入れられるグッズをオーダーしたものだそうで、2018年に富士スピードウェイで開催されたイベント『FUJI 86/BRZ STYLE』で、ZN6のチーフエンジニアを務めた多田哲哉さんと、レーシングドライバーの土屋圭市さんにサインを書いてもらったという。

「新しい愛車であるGR86では、前の愛車である86で成し遂げられなかった、15年20万kmの夢を叶えたいと思っています。これまで北海道には自走で3回ほど行っているんですけど、最北端の稚内まではまだ行ったことがないんですよね。最後の北海道遠征! と思って、ぜひ実現させたいです(笑)」

ひとつの不幸をきっかけに、新しい幸福を手に入れたオーナー。叶えてあげられなかった前愛車との夢を、ひとつずつ叶えて行って欲しい。先代のZN6も、きっとそう思ってくれているに違いない。

(文: 小林秀雄 / 撮影: 中村レオ)

許可を得て取材を行っています
取材場所: 四季の里(福島県福島市荒井字上鷺西1-1)

[GAZOO編集部]