その時々に合わせたカスタムを楽しみつつ29年間乗り続けてきたR32スカイライン

  • GAZOO愛車取材会の会場である群馬県群馬大学 桐生キャンパスで取材した日産・スカイライン GTS-tタイプM(HCR32)

    日産・スカイライン GTS-tタイプM(HCR32)



群馬県桐生市『群馬大学 桐生キャンパス』で行われた取材会に、日産スカイライン GTS-tタイプM(HCR32)でご参加いただいたKentaさん。なんと、このキャンパスで大学生活を送ったOBであり、しかもこのスカイラインは当時から乗り続けている愛車なのだという。
そんなご縁もあって『目立つのが好きなタイプではないけれど、これは行かねば!』とエントリーしてくれたそうで「現在は長野県に住んでいるので、朝6時に出発して、途中で洗車をしてから来ました」と、爽やかにこたえてくれた。

20歳の時に購入した前期型のスカイラインGTS-tタイプM(HCR32)を、街乗り車からドリフト仕様、そして美しい後期仕様へのリフレッシュといった具合に変化を楽しみながら、30年近くも現役で乗り続けているというKentaさん。
「自分でもなぜこんなに長く乗り続けているかがわからないんですよ」と、他人事のように不思議がりつつも、その愛車からは随所に散りばめられたこだわりや、深い愛情が垣間見える。

子供の頃からクルマが好きだったKentaさんがR32スカイラインに興味を持ったのは、中学生の頃。まだデビューしたばかりのR32を友達の父親が購入し、そのクルマに乗せてもらったことがキッカケだったという。

「これまで直6エンジンのクルマに乗ったことがなかったけれど、音はもちろん吹け上がりのスムーズさなど、経験したことのない世界の走りに感動しました。それで、いつかは乗りたいなと思っていたんです。けれど、免許を取得した大学生の時は、とにかく早くクルマに乗りたいという気持ちから、クーペでカッコよくて値段的にも手頃なプレリュードのAT車を購入したんです」

ところが、友人達が乗っているいろいろなクルマを見ているうちに『マニュアルの直6エンジン車に乗りたい』という嗜好が固まってきたそうだ。となると、狙いは当然憧れのR32スカイラインとなる。

「乗り換えを検討し始めた当時は、R31が手頃な値段で売られていてR33もすでに発売されていたけれど、形も好きだったR32が良いと思っていました。そこでクルマを探し始めたところ、実家の父から『お前の言っていたクルマがあって、値段も安そうだったぞ』と連絡をくれたので、早速見にいったんです」

「でもそのクルマの横に回った瞬間に『ドアが2枚多いぞ!?』って…。本当は2ドアが良かったのでかなり迷ったんですけど、直6エンジンのマニュアル車でR32型のスカイラインだったし、予算的なものもあったので4ドアでも良いかなと思いコレに決めました。まあ当時は希望の2ドアではなかったし、正直こんなに長く乗り続けることになるとは思っていなかったですけどね(笑)」

そうして1996年、Kentaさんが20歳の時に1990年式のスカイラインGTS-tタイプM(HCR32)を購入するに至った。
搭載されるエンジンはRB20DET。排気量2リッターの直列6気筒でターボ付き、ミッションも念願だった5速MT車が選ばれた。ちなみにKentaさんで2オーナー目となる個体だったという。

そして、現在の素晴らしいコンディションから想像すると、きっと純正を維持して大切に乗り続けてきたのだろうと勝手に推察してしまったが「学生時代は大学院までの5年間、コツコツとイジりつつ乗っていました。

そして社会人になりたての頃はエビスサーキットに通ってドリフトをしていて、外装の状態なんか気にしていませんでしたし、車高も今よりずっと低くて、ステッカーもベタベタ貼っていましたね」と、この美しい姿からは想像できないほどの状態だったそうだ。

そんな彼の意識が"綺麗に維持する”方向へと変わる大きなキッカケとなったのが、15年前におこなった全塗装だったという。

「内装まで全部はずして元色と同色のオールペンで綺麗にしちゃったら、それからはもう綺麗に乗りたくなってしまって(笑)、一気に後期仕様に仕上げました」

「外装のヘッドライトやウインカーレンズ、フェンダーエンブレムなどは一時期持っていたR32のGTS-4から移植して、テールレンズや内装は2ドアと4ドアでは異なるのでインターネットオークションなどで買い集めました」

こうして美しくカッコイイ現在の愛車が仕上がったのだが、細かい仕様を聞けば聞くほど、Kentaさんの愛車への妥協なきこだわりが見えてくる。

「エアロはGT-R純正のフロントバンパー、ヴェルテックスのサイドステップを装着しています。リヤのマッドガードはモリっとした感じの形が好きな2ドア用を装着していて、ちょっと寸足らずですけど気に入っています。ホイールは深リムメッシュや他の社外ホイールなども色々と試したんですが、最終的にはこのR33GT-Rの純正ホイールが一番シンプルでカッコいいかなって。足まわりもいろいろ試したけど、これが一番自分に合っているようで、圭オフィス製の車高調を使っています。これですでに3セット目ですね」

「レブリミットに貼ってある三角形は、実はコンビニのおにぎりのフィルムなんです。学生の頃ふざけて貼ったんですけど、気に入っているので今でもそのまま(笑)。それから運転席側のシートは、当初はレカロのセミバケットタイプだったんですけど、ドリフトをしているうちにフルバケットタイプにしたくなって、20年くらい前にブリッド製に交換しました。ステアリングは一度メーカーへ送って革を巻き直してもらっているんですよ」

ちなみにエンジン関係は、ドリフトをしていた頃から比べるとデチューンにもなるノーマル仕様に近づけているところがポイントだ。

「エアクリーナーは、ガンガン走っている頃は剥き出しタイプに交換していて、純正はもう使わないと思ってガレージに転がしていたんです。けれど、クルマの耐久性を重視するようになってからは純正に戻しました。過給圧もブーストアップしていましたが、今は純正状態に戻してあります」

ちなみに、タイミングベルトは2回交換済みだが、エンジン本体はまだ一度もオーバーホールをしていないのだという。それもあって、急なトラブルに備えてトランクには工具一式と合わせて、盛り沢山の非常用セットがぎっしり。

「エアフロセンサーにパワートランジスター、イグニッションコイルとクランク角センサーの予備は1セット積んでいます。ちなみに、この取材会に向かってくる時、6気筒のうちの1発が不調気味になってしまって…。万が一復活しなければ、このまま学生時代からお世話になっている群馬県の主治医のショップに預けて新幹線で帰りますヨ(笑)」

「そのショップさんには、学生の時は工場の隅っこを借りて、デフ交換なんかをしたりと入り浸っていました。今は当時の社長から代替わりしているのですが、今の社長は僕と同い年で、昔から知っているので安心してお任せできます」

「車検の時などは点検も兼ねて数ヶ月預けてしっかり整備してもらっています。一度RB25エンジンへの載せ換えを考えたこともあったんですけど、エンジンの圧縮を測ってもらったらまったく問題がなくて、RB20のままで乗り続けることにしたんです」

それにしても、30年近くも乗り続けてきた間に、買い替えを検討する機会はなかったのだろうか。

「う~ん、結婚して子供が生まれた時も、思い入れが強かったし、乗り換える選択肢もなかったので、ファミリーカーを増車することにしちゃいましたね。その後も15年くらい前までは通勤にも使っていたんですが、ガレージ付きの家を建ててからは基本的にしまっておいて大事に乗る方向に切り替えました」

Kentaさんにとってこのスカイラインは、学生時代からたくさんの思い出が詰まった相棒的な存在。だからこそ、ライフスタイルが変化するタイミングでも、手放すという選択肢からは外れていたのかもしれない。

ちなみに、Kentaさんが現在所有するクルマはファミリーカーのWRX STIと通勤用のGR86、奥様用のBMWのE90と、なんと4台体制なのだが全部がMTミッション車。『運転することが楽しいクルマが好き』とのことだ。

そんな彼の今一番の楽しみが、このクルマでの早朝ドライブなのだという。

「週末の朝に、天気の良い日を狙って早起きして、一時間くらい早朝ドライブをしているんです。いくら維持する方向とはいえ、やっぱりクルマは動かしてナンボな気がしますし、定期的に乗ってやりたい気持ちもあるので。まぁ、部品が手に入らないとか、車検の度に結構なお金が掛かることもありますが、今後もちゃんと動く状態をキープできたら良いなと思っています!」

取材時の走行距離は23万7500km。姿形を変えながら乗り換えずに30年近くの時を一緒に過ごしたKentaさんのタイプM。これからもかけがえのない相棒であり続けるに違いない。

(文: 西本尚恵 / 撮影: 平野 陽)

許可を得て取材を行っています
取材場所:群馬大学 桐生キャンパス(群馬県桐生市天神町1-5-1)

[GAZOO編集部]

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