まるでフィクションのようなノンフィクション。マツダ・ロードスターが紡いだ恋愛物語
人と人との出会いは、思いもよらぬタイミングで訪れるモノ。なんてハナシはTVドラマの中のことだけかと思いきや、ここに紹介するなぎすけさんは、ロードスターというクルマによってドラマの主人公さながらに、劇的なめぐり逢いの場面を経験することに。
彼女がロードスターを好きになったのは、20代半ばで運転免許を取得した直後のことだった。
「当時はND型のロードスターが発売されたばかりの頃で、とても話題になっていました。でも私は初代のNAロードスターが持っている、イマドキのクルマには無い独特の丸みを帯びたデザインや、ポコっと飛び出してくるリトラクタブルライトの可愛らしさが気に入っていて、本気で欲しいと思うようになっていたんです」
その後、知り合いの紹介でロードスターをメインに取り扱う地元のカーショップを単身訪問。そこには金額的な条件に近いNA型とNB型のロードスター2台が展示されており、しばらく悩んだものの、最大のチャームポイントであるリトラクタブルライトが決め手となり、NA(1600cc版のNA6C)を選択。
それまで特にクルマに興味は持っていなかったというなぎすけさん。運転免許を取得したのも、社会人としての生活を行なう上で、無いよりあった方が何かと便利かも? という程度の意識だった。それだけに、ロードスターに乗って自宅に帰ったところ、父親はビックリしたという。
「本気で驚いていましたし、年式が私の年齢より古いクルマということで“ちゃんと動くの?”と心配されました。私はおっとり型に見られているようで、周りの友達からも『意外!』『スゴイね!』とよく言われました。友達を横に乗せてオープンにすると、みんな喜んでくれましたね。なかなか日常でオープンカー的な感覚を味わうことって無いですからね」
ちなみに最初の頃は『音がうるさい、乗り心地が悪い』と、助手席で文句を言っていた父親も、徐々にオープンの爽快感にハマりはじめ、今ではすっかりロードスターのファンになっているとか。
そんななぎすけさんの趣味は、マンドラという楽器(なぎすけさん曰く、バイオリンとビオラの中間のような楽器とのこと)の演奏だという。とある週末、ロードスターの助手席に楽器を載せてオーケストラの練習会に出掛けていた時に思わぬハプニングが。
その日の練習会場はいつもとは異なる初めての場所。到着してみると駐車場はほぼ満車で、端の方に狭いながらも1台分のスペースが残されていたため、フロント側から突っ込む形で何とか駐車して練習へ…。ところが、練習を終えバックでクルマを出そうとしたところ、クランク状に切り返す場所でステアリングの操作を誤ってしまい身動きが取れない状態に。さらに周りには出庫の順番を待つ人々が集まり始め、絶体絶命のピンチ!
とその時、窓をコンコンと叩く音が。
「その人が今の主人です。『大丈夫ですか?』って声をかけてくれただけでなく、焦ってパニック状態になっていた私を気遣って、運転を代わって無事に駐車場からクルマを出してくれたんです」
おなじくオーケストラの練習に参加していたというご主人は、当時からNDロードスターを所有していたものの、この出来事の瞬間まで、なぎすけさんがNAロードスターのオーナーであることはまったく知らなかったという。
「たまたま通りかかったんです。それまで彼女は同じオーケストラ仲間というくらいで、存在を意識することも無かったけど、なんか困っているみたいだったし(笑)、リヤのパネル脇に僕が知ってるクルマ屋さんのステッカーも貼られていたので、声をかけようと思いました」
まさに偶然に次ぐ偶然の展開。もし駐車スペースに十分な余裕があって、なぎすけさんが普段通りにロードスターを出庫させていたら? 御主人よりも前に、誰かが通り掛かって助けてあげていたら? そして、お互いロードスター好きでは無かったら?
今振り返ると、二人がすれ違っていた可能性はいくつも考えられるが…運命というのは奇跡と偶然の積み重ねである。
このドラマのワンシーンのような出会いをきっかけに交際が始まって、2020年に見事ゴールイン! 文字通り、“ロードスター婚”とも言える新生活のスタートを華々しく切った二人だが、話はここからが本番である。
結婚によりオープン2シーターという実用性に乏しいクルマが2台揃うことになるため、『どちらか一台を手放して、人や荷物を多く載せられるクルマを別に購入する』という話になりそうなところだが、二人とも自分のロードスターを溺愛しており手放す気はゼロ。
それどころかウェディングフォトでは2台の愛車を山口県の秋吉台に持ち込んで撮影した他、新婚旅行もなぎすけさんのNAで九州一周ツーリングを果たすなど、ロードスターへの愛着は高まるばかり。
「コロナ時期だったこともあり、コンパクトにクルマで行ける場所ということで九州を選びました。長距離運転が続いてお尻が痛くなったり、帰りに関門橋を走っている時にマフラーの劣化が原因で爆音仕様(笑)になったりと、色々苦労もありました。それでも阿蘇の雄大な風景を見ることができたし、各地のおいしい名物を食べたり、めちゃくちゃ楽しかったですヨ」
クルマの状態は写真からも分かるように、お二人ともスタイルは基本ノーマルを重視。ただ、なぎすけさんのNAは経年劣化による傷みが進行していたビニールレザーのトップ部分を、クルマを購入した年のボーナスをすべて注ぎ込んで、タンカラーのキャンバス地に張り替えた。また、クラシカルな雰囲気を演出するためにクローム仕上げのロールバーや丸型のドアミラーを装着とするなど、ディテール部分に自分らしさをさりげなく採り入れている。
最近の休日のお楽しみは、トイプードルのまめすけクンを連れて出掛ける日帰りドライブだと語るご夫婦。
実はロードスターの2台体制という環境を、なぎすけさん以上に喜んでいるのがご主人の方だった。かつては一人でNAとNDを所有するほどのロードスターファンだったが、新卒当時の経済状態で2台を維持して行くことは厳しく、泣く泣くNA(グリーンのSRリミテッド)を手放したという経緯があったのだ。
「まさかNA乗りの嫁サンと出会うことになるとは、自分でもオドロキです。実はNAを手放したことをずっと後悔していたんですよね。それだけに、気分によってNA、NDを乗り分けられる生活が再び訪れるなんて本当にラッキーだと思っています。ものスゴイ偶然だったとはいえ、彼女には感謝ですネ。新婚旅行で九州は走破したので、次の目標は北海道遠征かな? なんて話を二人でしています。どちらのクルマで行くかは、まだ決めていませんが(笑)」
ちなみに補足を加えておくと、結婚後、一家の実用車にはマツダMX30が導入されている。しかも購入の決め手は『ロードスターの輸出用車名がMX-5なので、同じMXつながりということで選びました』と、ここでもロードスター愛は全開である。
衝撃的とも言えるプロローグを経て、いよいよ本編へ。2台のロードスターが織りなす二人のハートフルな物語は、まだまだ始まったばかりだ。
(文: 高橋陽介 / 撮影: 西野キヨシ)
許可を得て取材を行っています
取材場所:呉ポートピアパーク(広島県呉市天応大浜3丁目2-3)
[GAZOO編集部]
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