「最初の1台はただの移動手段だったけど…」人生2台目のチェイサーはかけがえのない『家族の愛車』に
親や兄弟の影響、漫画や映画で活躍したクルマへの憧れなど、クルマ好きになるキッカケは人それぞれ。そんな中、今回紹介するtakashi09さんの場合はちょっと珍しいケースを辿る。運転免許を取得した18歳の頃はクルマに対する興味はまったくと言っていいほど無かったそうなのだ。
「正直、単なる移動用の手段としか思っていませんでした。初めての愛車は親戚のお姉さんから譲り受けた100系のチェイサー。その時の印象も、タダでクルマが手に入ってラッキー! という程度。もちろんスポーティな“ツアラー”グレードではなく、オートマチックの“アバンテ”でした。10年ほど使われていたので塗装もくたびれていたし、乗り味が云々といったクルマ好き的な感覚は意識していなかったですね」
その後ハタチを過ぎた頃、周りの友人がエアロパーツやアルミホイールを付け替えた“VIPカー仕様”のセダンに乗り始めるようになった。そんな流れもあって、takashi09さんはなんとなく見た目で選んだセルシオ(30系後期)を購入。エアサスで車高をローダウンさせた他、ボディカラーを純正のパールホワイトから、キラキラのラメ入りレッドに全塗装するなど、自己流にカスタマイズを楽しんでいたという。
「クルマが好きというよりも、あちこちパーツを交換してみたり、友達とワイワイ走りに出掛けることを面白がっていたような気がします。トロフィーを狙うためのイベントに参加することも無かったし、自分が理想とするカタチに作れたら満足という感じでした。今思えば、独身時代だからこそできた“若気の至り”ですネ」
この時の経験を機に『クルマが好き』という想いが徐々に芽生え始めたtakashi09さん。ふと、自分にはクルマを飾り立てることより、運転そのものを楽しむ方が性に合っているのではないか? と思い立ち、路線をガラリと変更。2シーター・ミッドシップオープンスポーツのMR-Sを購入する。
初めてのマニュアルミッション車ということで、最初のうちはギクシャクしたものの、すぐに乗りこなせるようになった。軽快なドライビングを存分に満喫したtakashi09さんだったが、7年前のある日、一台のクルマの存在を思い出す。それは親戚から譲り受けた初めての愛車、100系のチェイサーだった。
「今考えても理由は分かりませんが、本当に突然、もう一度チェイサーに乗りたいと思ったんです。確かに当時はただの移動手段という存在だったけど、顔つきとか全体のカタチはそれなり気に入っていたような気がします。そこで今度は、パワーのある1JZターボを積んだツアラーVにしようとネットで物件を探し初めました。すると北九州で希望にピッタリの1台が見つかったので、すぐに商談の予約を入れました」
ほぼノーマル状態で、走行距離7万kmの純正5速ミッション車。そして純正オプションのエアロパーツが装着されているという貴重な個体を保有していたお店は、1984年創業という老舗のチューニングショップ、HKS九州サービスであった。
試乗した時の感触も良く、takashi09さんの後にも数名の試乗希望が控えていると聞き、その場で手付金を支払って購入を即断した。
下見に行ったその日に購入と、スピード婚を決めたtakashi09さんだったが、実は自身もその翌年に結婚が予定されていた。新生活のスタート直前の大きな出費は何かと論争の火種(笑)にもなりかねないところだが、念願のチェイサーを手にした喜びはそんな不安を忘れさせるほど大きかったそうだ。
「1JZのターボエンジンは最高ですね! 購入前にも周りから『いいぞ、いいぞ』という話はよく聞いていましたが、これほどまでに素晴らしいとは。コォォ〜ンという独特のサウンドを響かせながら、ゆるいカーブが続く秋吉台のカルストロードを走らせると、”あの時、購入を即断して良かった“と改めて実感します。あまりにも気に入り過ぎて、結婚式の時は会場側にお願いして入り口に飾らせてもらいました。その時はメッセージボード代わりに白いボンネットに付け替えて、皆さんから寄せ書きをしてもらったんですよ」
かつてセルシオでは純正のホワイトからレッドにオールペイントした他、社外エアロパーツへの交換など内外装に手を加えていたtakashi09さん。
しかし、このチェイサーについてはアルミホイールをエンケイ製に交換した程度で、全体の雰囲気はノーマル+αに留められている。
「クルマについては妻にはワガママを聞いてもらっているので、家計の負担にならない範囲で楽しんでいます。エンジンルーム内のインテークダクトやヘッドカバーの一部、ブレーキキャリパーの塗装はDIYです。セルシオは赤、MR-Sも赤。赤色が好きなんですネ。チェイサーを赤に塗り替え? 正直、ちょっと興味はあるけど、それは無いと思います。ミニカーで十分です。強いて欲を言えば、シフトのストロークがショート化された110系用ミッションに載せ替えたいなァ、とは思っていますが、それは先々の懸案事項ということで」
普段の街乗りに加え、時折サーキット走行も楽しんでいるというtakashi09さん。現在オドメーターは13万kmと、7年間で約6万kmを走破。エンジンのコンディションは基本的に良好だが、経年劣化の影響からラジエターをブリッツのアルミ製に変更した他、マフラーからの排気漏れを修理した。
メンテナンスについては、1台目のチェイサーを診てもらっていた地元のディーラーに依頼していた。しかし最近になって、担当の腕利きメカニックが異動となってしまったのが、今後の心配の種となっているそうだ。
「点検に出すと、他にトラブルが起きそうなところを事前に知らせてくれたり、親身になってアドバイスをして下さっていた方でした。異動先のお店も分かっているけど、自宅から一時間くらい掛かる場所なのでちょっと悩んでいます。ウォーターポンプやセンサー類など、車検の度に交換部品が増えているのは旧車の宿命ですね。妻には『ここでまた何百万円も出して新しいクルマに買い換えることを考えたら、修理代なんて安いモンだよ』と、よく分からない言い訳をしていますが、最近は諦めているみたいです(笑)。そもそも、他に目移りするようなクルマも無いので、この先も買い換えることは考えてはいません」
そんなtakashi09さんの愛車に対する一途な想いに、奥様は「まぁ、好きでやっているならイイんじゃないですか」と温かい理解を見せる。そして、後部座席に設置されたチャイルドシートにお行儀よく座ったお子さん達も、チェイサーがお気に入りの様子だ。
最初は単なる『もらいモノの移動手段』だったはずのチェイサーだが、今ではtakashi09さん一家にとって無くてはならない大切な存在に。この思いもよらぬ展開を誰が予想できただろうか? 十人十色、それぞれにドラマがある『クルマ趣味』の世界はヤッパリ面白い!
(文: 高橋陽介 / 撮影: 平野 陽)
許可を得て取材を行っています
取材場所:秋吉台展望台(山口県美祢市秋芳町秋吉秋吉台)
取材協力:美祢市観光協会/秋吉台観光交流センター
[GAZOO編集部]
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