別れから20年の時を経て…S110型シルビアを“永久動態保存”すると決めたオーナーの情熱と息子へのバトン
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日産・シルビア(KS110型)
初めての愛車には、特別な感情を抱き続ける人が多い。そして、自身が年を重ねてから再び、想い出深いかつての愛車にもう一度乗ってみたいと考える方も一定数いらっしゃることと思う。しかしながら、それなりの旧車となっている以上、維持や保存などを考えるとそれ相応の覚悟がいるものである。
今回ご紹介するオーナーの『うえ』さんは、初めての愛車だったシルビア(S110型)との別れから20年の時を経て、再び巡り合い、オーナーとなることを決意した御仁だ。
その決意とは、『永久動体保存』すること。昭和のクルマに平成と令和の技術を投入し、唯一無二の一台として復活させることに成功。そして製造から40年近く経った今でも、イベントやミーティングで元気に活躍しているという。
うえさんが運転免許を取得した当時、クルマはただの“足”に過ぎなかったという。そのため吹奏楽で使っていた楽器のチューバを運べる実用的なハッチバック車を探していたそうで、候補はカリーナ、セリカ、シルビアと、その姉妹車であるガゼールだったそうだ。
「色々と探し回って、ようやく中古車店で見つけたのが1.8リットルターボ仕様の白いS110型シルビアでした。メーターがデジパネだったので、アナログ好きな自分の好みではなかったのですが『これなら値引きしますよ』との店員さんの一言で購入を決めたんです」
そして、この白いシルビアに乗っていた頃にカスタマイズを楽しむ仲間達と出会い、マフラー交換によるサウンドの違いを体感したことがきっかけで、徐々にクルマのカスタマイズにも興味を持つようになったという。
ところが20歳の頃、街中で事故に遭ってしまいクルマは全損。フロント部分は完全に潰れてしまったが、リヤ周りは無傷という現況だった。「大好きなクルマだったので、どうしても手放せませんでした」と、残されたリヤガーニッシュとテールランプを取り外し、大切に保管することにしたそうだ。
しかし、長い年月が経っても、そのシルビアの記憶は消えなかった。
その後はS13型のシルビアに6年乗り、結婚や子育てを経て、生活の中心はレガシィやエルグランド、ハイエースなどのファミリーカーへと移っていったものの、心の片隅にはいつもS110シルビアへの想いが残っていたという。
「それから20年以上経った頃、街中で偶然S110シルビアを見かけまして。今では絶滅危惧種だし、なぜか“助けなきゃ”と思ったんですね。そこでインターネットで検索して、オークションに出品されていた25万円ほどのハードトップのS110を見つけて購入したんです。けれど、保管していたハッチバック用のリヤガーニッシュやテールランプは互換性がなくて、装着できなかったのですごく残念で…。そのときに、やっぱり僕はハッチバックの方が好きで、大事に保管していた想い出のパーツを装着して走りたかったんだなと気付かされました」
こうして、ハードトップタイプに違和感を抱えながらも110型のオーナーズクラブに入会するなど愛車ライフの充実を図っていたところ、再びインターネット上で所望していたハッチバックのS110型シルビアを発見。しかし、すぐに売れてしまい諦めていたところ、なんともう一度、中古車市場に現れたのだ。かつての記憶と重なるその姿を再び目にした彼は、今度こそ“これは運命だ”と感じ、即購入を決意したという。
「実はこのクルマ、オーナーズクラブの会長がレストアしたクルマで、購入した前オーナーがエアコンレスということで乗り切れずに再びお店に売りに出されたところを僕が見つけたという形でした」
こうして2002年購入したのは、1981年式の3代目シルビア(KS110型)。1.8リッターターボのZ18ETエンジンを搭載したハッチバック車で「初代から持っていたリヤガーニッシュが似合うのは、やっぱりこの形のシルビアだけ。出会えて本当に良かったです」とニコリ。
ちなみに、元々乗っていたハードトップ仕様は、欲しいという方が現れて譲ることになったという。
それからというもの、積極的にイベントやミーティングに参加してシルビアライフを満喫していた。しかし購入した翌年、エンジンに異変が起こってしまう。
「旧車イベントに参加した帰り道に、水温計の異常に気付いたんです。原因はヘッドガスケット抜けでした。10万円くらいかけてシリンダーヘッドを降ろして、そのまま修理するだけではちょっとつまらないから、別のエンジンをスワップ(換装)できないかと考えていまして。そんな時、近所の日産ディーラーが開催していたイベントで、フェアレディZ(Z33型)に、スカイラインGT-R用のエンジン、RB26DETTがスワップされている車両が展示されていたんです。これを製作したのは、そのディーラーの工場長だと分かったんです。そしてS110のエンジンスワップについて相談してみたところ、なんと、ディーラーなのに『やりましょう』と言ってくれたんです。本当に驚きましたね」
こうしてディーラー仕事としては異例とも思われるエンジンスワップ作業が始まった。
ドナーとなったのは、お店にあった180SX(RPS13型)の事故車に搭載されていたSR20DETエンジンとミッション。併せて、クラッチなどの駆動系やECUもRPS13用に変更。フロントバンパー開口部のセンターにはインタークーラーも追加し、オイルクーラーやラジエターなどの冷却系、吸排気系のパーツも汎用品やワンオフで対応していった。そして、最後の仕上げとなる公認車検を経て、見事にエンジンスワップ車両が仕上がった。
「実際には、各所の加工や部品製作などで相当大変な作業だったようで、工場長もエンジンスワップを引き受けたことを後悔していたかもしれません(笑)。そしてその後も、ディーラーの工場長が次々に変わっていく中、こちらが集めてきた情報をベースに、仕上がり時の要望を伝えて、様々な追加パーツやワンオフ加工の依頼をさせていただきました」
彼のシルビアのコンセプトは、“飾るより動かしてこそ意味がある”という信念が込められた『永年動態保存』。そのため、いつでも快適にシルビアの走行が可能となるように、必要となる各種パーツは次々と交換、追加がされていった。
サーキット走行で剛性不足を指摘された足まわりは、知人から集めた情報を基に、複数のモデルから理想的な組み合わせで独自構成したものを装着。またブレーキキャリパーの大型化に伴って、ホイールはオフセットを特注設定したサンプル品を送ってもらい、実車合わせをしてから発注したRSワタナベ製に。
さらにフェンダーミラーからドアミラーへの変更や、各種追加メーターや排気温度センサーの追加など、ここでは書ききれないほど手が入れられている。
「保管していたリヤガーニッシュやテールランプは、このクルマに無事取り付けることができました。特に“200SX”と入ったmade in USAのリヤガーニッシュは、高額でなかなか手が出なかった当時に、値下げされたものを見つけてなんとか購入できたというお気に入りパーツですからね。北米仕様に憧れがあったので “DATSUN 200SX”のエンブレムや、サイドマーカーも追加で装着しました」
「当時からガゼールも好きだったので、本当はピラーやフロントグリルはガゼール用を装着したかったのですが、シルビアという個体も大事にしたかったんです」
うえさんは、カーイベントやミーティングに行く際には、純正カタログや雑誌を積み込んでいき、来場者さんに“シルビアとガゼールの違い”を正確に説明できるように、万全の態勢を整えて出向くそうだ。そんな思惑もあって、運転席側だけ、縦スリットデザインのガゼール用“サイドピラーガーニッシュ”を装着し、横スリットであるシルビアとのデザインの違いを見てもらいながら、解説することもあるそうだ。
「当時世代の方にとって、このクルマはハコスカや30Zと比べると身近に感じてくれる人が多いみたいなんです。そんな方たちにも喜んでもらえる説明をしたいし、旧車を知らない方にも楽しんでもらいたい。僕にとってこのクルマは、知識を伝える教材のような存在なんです」
サーキット走行は10年前に卒業し、現在はイベントやミーティングで活躍中のシルビア。長く維持していくために洗車は水拭きのみで、それ以外にできる限り水に濡らさない様に気を遣っているそうだ。
また、旧車オーナーはパーツのストックをしている方が多いが“自分がどれだけ生きられるかわからないので”と、敢えてストックせずに、必要になった際はS110を何台か所有するオーナーズクラブの会長を頼ることにしているという。
そして最近は、整備士の資格を持ちチューニングショップにも出入りしていて、さらにカスタムの知識も豊富という、うえさんの息子さんがこのシルビアの整備を担当。
もともとはRPS13純正ECUからTOMEI製に交換してあったECUも、息子さんが「フルコンでのセッティングにチャレンジしたい」とLINK製に変更されているという。
彼には、もう一つの決意がある。「このクルマは僕の人生のNo.1。人との縁を与えてくれたし、息子とも深く繋げてくれた。だからこのクルマは、いつか長男に譲りたいと思っています」
古いクルマを維持するのは一人では難しい。仲間がいて、家族がいてこそ続けられるものだとうえさんは言う。59歳のオーナーが選んだのは“保存”ではなく“動態”。S110シルビアは今日も軽やかなエンジンサウンドを奏でながら、世代を超えて走り続けている。
(文: 西本尚恵 / 撮影: 中村レオ)
※許可を得て取材を行っています
取材場所: 千葉みなと さんばしひろば(千葉県千葉市中央区中央港)
[GAZOO編集部]
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