「人生を楽しまなくちゃ」と教えてくれた可愛い三男坊 シルビア ヴァリエッタ

  • GAZOO愛車取材会の会場である霞ヶ浦緑地公園で取材した日産・シルビア ヴァリエッタ(S15型)

    日産・シルビア ヴァリエッタ(S15型)



「ほんの10分前まで他愛もない話をしていた主人が、この世から急にいなくなってしまったんです。悲しいとかそういうことの前に、何が起こったのか分からなくて、まったく受け入れられない…というよりも、自分の置かれた状況を理解できない日々が続きました」

お二人が出会ったのは16歳の頃で、お互いクルマ好きということもあってすぐに意気投合し、そのまま結婚に至ったそうだ。
ご主人の初めての愛車はクラウン、今回取材させて頂いた『みいりん』さんは「上手いかどうかは別として、シフトレバーを変えながらクルマを走らせるということに憧れがあり、乗るなら絶対にMT車!!」と決めていたそうで、5MTのミラターボを選んだのだと照れくさそうに話してくれた。

2人のお子様が生まれてからは大人数が乗れるファミリーカーに乗っていたそうだが、ご主人は「いつかはスポーツカーに乗りたい!!」が口癖だったと笑っていた。
「オートバイも好きだったので、次男には『自分が大型免許を取るからお前は中型免許を取って一緒にツーリングに行こう』と話していました。生前はカワサキのゼファー400で、息子を中学校までお迎えに行ったりもしていたんですよ」

このようにご主人との思い出には、いつもそばにクルマやオートバイがあり、ドライブの行き先や、次に乗ってみたいクルマについてなどの話題が多かったと、昔のことを手繰り寄せるように話してくださった。
そして今でもその様子を昨日のことのように思い出せるというみいりんさんは、当時はご主人の急死を自分の中でなかなか消化することができず、ただただ時間だけが過ぎていったという。その一方で、2人の息子さんは高校3年生と中学3年生で受験を控えており、自分の思いとは裏腹に周りの環境は目まぐるしく変わっていくというアンバランスさに、心が追いつかない状態の日々が続いたそうだ。

「最愛の2人の息子がいるから、母としてしっかりしなくてはいけないと強くなれたんですよ。そのために、まずは楽しいことをしようと思い、このヴァリエッタを購入したんです」

2000年にオーテックジャパンから発売されたシルビア ヴァリエッタ (S15型)は、国産車初となるフルオープンタイプの電動メタルルーフを採用することで、オープンカーとスポーツクーペの魅力を両立したモデルだ。

みいりんさんが一歩を踏み出したキッカケは、クルマ好きの次男が呟いた「免許を取ったら5速MTに乗ろうかな〜」という一言だったという。

「その言葉で『そういえば私もそうだった』と思い出し、久しぶりに運転してみたいとワクワクしたんです。それと、息子にもMT車を運転させてあげたいと思いましてね」

まず候補に上がったのは、大好きな『頭文字D』に登場するクルマたちだったが、いざ中古車市場を探してみると、改造されている個体が多く、人気車種なだけに車両価格もお高めで、これは予算オーバーだと諦めたそうだ。

「他に乗りたいスポーツカーは?」と悩んでいると、オープンカーという選択肢があると閃いたのだという。それまで自分には一生無縁だと思っていたジャンルだったそうだが『人生を楽しまなくちゃ』と決めたみいりんさんは、利用していた中古車サイトに“オープンカー"が登録されるとお知らせがくるように設定して、探し始めたのだと嬉しそうに教えてくれた。
そして3ヶ月後、お財布事情と走行距離の合致した個体が見つかったため、早速クルマ好きの次男と実車を見にクルマを走らせたそうだ。

「次男は、その当時から自動車の整備士学校に通うと言っているくらいクルマ好きだったんです。だから、プロというわけではないけど、それなりに詳しかったので、一緒に付いてきてくれて心強かったなぁ。道中は『走行距離が少なくて良いよね♪』とか『どノーマルだからちょっといじってみたら?』とか、まだ購入してもいないのに、タラレバ話で盛り上がりました(笑)」

そうこうしているうちにショップに到着し、早速お店の周りをぐるりと試乗させてもらえることになったのだそうだ。
試乗当日は、いかにも初夏らしく澄みわたる空で、オープンカーで走るには最適の日。風が心地良く、久しぶりのMTはやっぱり楽しくて「買う以外の選択は考えられなかった」と、みいりんさんは言いきった。
そして、すぐに手続きを行って購入したまでは良かったのだが、まさか納車日にさっそく後悔してしまうことになろうとは思いもしなかったと大笑いしていた。

「納車日は大雨だったので『残念だけどオープンにはできないね〜』なんて言いながらお店のすぐ前にある大通りに出ようと段差を降りたら“ガタガタピシッ”という音がしたんです。“ガタッ"じゃないですよ?“ガタガタピシィッ!!"って感じの、何かが壊れたんじゃないかと思うような音がしたんですよ(笑)」
もしかして、この個体はハズレだったんじゃないか?という一言が怖くて言えず、車内に重い空気が流れるなか、みいりんさんと息子さんは、その後も響き渡るガタピシ音に耳を澄ませていたという。
気にしたらダメだ、もしかしたら自分の勘違いかもしれないと言い聞かせながらヴァリエッタを走らせてはいたものの、その思いとは裏腹に…内張を外して緩衝材を入れたくなるくらいのガタピシ音は、これでもかといわんばかりに雨の音を遮って主張してきたのだと豪快に笑った。

「新車しか乗ったことがなかったから、こんなことって初めてでね〜(笑)。ダメなクルマを買ってしまったのかもしれないと焦ってすぐに調べたら、これが“ヴァリエッタあるある”だと分かったんです。安堵しましたよ。良かったぁ!!って」

そんなわけで、納車日は『やったぁ!』とか『ついにスポーツカーに乗ったぞ!』というような感動よりも『大丈夫なのか?』という不安の方が勝っていたと、呵呵大笑しながら教えてくれた。

そんなみいりんさんの次なる課題は、オープンにしたくても、恥ずかしくてそれができないことだったという。
自分の中でオープンカーに乗っている女性というのは、髪が長くてサラサラで、ツバの広い真っ白な帽子を被っているようなイメージがあったため、自分がそれに当てはまらないという思いから“あと一歩"が踏み出せなかったのだとか。
「オープンカーが良くて購入したのに、これじゃあ本末転倒だと、意を決してオープンにして走っていたときに、すれ違った外国の方から『NICE!』と言われたんです。単純かもしれないけど、それが気持ちよくて(笑)。今では“人生は楽しまなくちゃ"とオープンが常になっています」

月日が経つにつれ、ヴァリエッタは みいりんさんの日常に華を添えてくれたという。加速は想像していたほどではなかったそうだが、逆にそれがみいりんさんの肌には合ったし、前から見るとカッコいいのに、後ろからだとトランクが長くてちょっぴり愛嬌のあるスタイリングも愛らしく、我が家の三男坊として可愛がったと優しい表情をしていた。

また、このクルマを愛車として迎え入れたことにより、ヴァリエッタオーナーズクラブで沢山の人と出会えたこと、富士スピードウェイなど今まで行ったことのない場所に足を運べたこと、次男を迎えに自動車整備士学校に行くと窓からいろんな生徒が身を乗り出し注目を集めたことなど、これまでの人生で体験することのなかったことをたくさん経験させてくれたということだ。

「そのヴァリエッタを、次男がメンテナンスしてくれているんです。そろそろタイヤ交換だとか、クラッチがどうこうとか、私は詳しいことは分からないので任せているんですけどね」と、隠しようがないほど嬉しそうな表情で教えてくれた。その甲斐あってか、今まで大きな故障は一度もないという。

「あの時、あの状況で、ヴァリエッタを購入して本当に良かったと思っています。もしもこのクルマに乗っていなかったら、こんなに楽しい人生は送れていなかったかもしれないから。最愛の息子が2人から3人に増えて、そりゃあ生きる希望が持てるってわけですよ(笑)」

ヴァリエッタは、ゆくゆくは「もう少し大人になったら自分が乗るから」と言っている次男に譲るのだという。みいりんさんが クフフと笑みを溢しながら教えてくれるものだから、筆者までつられて笑ってしまう。まさに、幸せのお裾分けというやつだ。

ヴァリエッタは、これからも三男坊としてみいりんさんを支えていってくれることだろう。

(文: 矢田部明子 / 撮影: 清水良太郎)

※許可を得て取材を行っています
取材場所: 霞ヶ浦緑地(三重県四日市市大字羽津甲)

[GAZOO編集部]

GAZOO愛車広場 出張取材会 in 香川、徳島
参加者追加募集中! 6/15 20:00まで