西部警察に憧れた日産車好きが手に入れた元警察車両 日産・ティアナとの日々

  • GAZOO愛車取材会の会場である三角西港で取材した日産・ティアナ

    日産・ティアナ


日本全国を巡って愛車とカーライフを取材しているGAZOO愛車広場では、まさに十人十色といったお話を伺うことになるのだが、そのなかには頻繁に遭遇する話題もいくつか存在する。昭和から平成にかけてテレビで放送された伝説の刑事ドラマ『西部警察』もそんな頻出ワードのひとつであり、『大門軍団』や『ド派手なカーチェイス』といったキーワードもそれに付随して登場比率が増すことになる。

ちなみに今回、熊本県の三角西港で取材させていただいた『せんこう』さんからもそのワードが飛び出し、筆者は思わずクスッと笑ってしまった。というのも、その愛車というのが警察車両として活躍していた日産・ティアナだったからだ。

白黒ツートンのパトロールカーの車種といえば、真っ先にパッと思いつくのはパトカー専用グレードが設定されているトヨタ・クラウンだろう。そして覆面パトカーや捜査車両となるとクラウンの他にトヨタ・マークX、スバルのWRXやレガシィ、スズキ・キザシなどさまざまな車種が使用されているが、日産・ティアナはマニアたちがSNSで『運良くお目にかかれました』といった内容と共に写真をアップするくらい全国的に採用数が少ないそうだ。

そんなティアナに乗って颯爽とやってきたオーナーがサングラスをかけているところを見て、年齢的にも西部警察のワードが飛び出すかも?と予想していたのが見事に的中し、心の中でガッツポーズをしたというわけだ。
「ドラマ終盤になってくると、スカイラインとセドリックがカーチェイスをして、セドリックが爆発しちゃうんです。だから、後半になってくると……まだか!? もうそろそろか!? とワクワクしていました(笑)」
そういう少年だったというせんこうさんは、このドラマの影響で日産車に憧れを抱くようになったと話してくれた。

  • (写真提供:ご本人さま)

初めての愛車は1972年に登場したC130型の2代目ローレルで、このクルマは西部警察の劇中にも登場していたと自慢気に教えてくれた。ローレルを手放した後は、しばらく国産車を離れて輸入車に乗っていたそうだが、経年劣化のタイミングで乗り換えを検討していた時、ふと“自分の青春ど真ん中だった、日産車に再び乗りたい"と思うようになったのだという。

「何のクルマにしようか?と中古車を見ていると、真っ黒なボディのティアナが目に止まったんです。昔、どっかの高速道路でこういう覆面パトカーがいたような…これはもしかして? と思ってクリックすると“機動捜査用車"と表記されていたんですよ。その瞬間に『これはもう買うしかない!』と思いましたよ。僕の青春だった西部警察や日産車の思い出とリンクする、こんなすごいクルマにはもう出会えないだろうと思いましたから」

実車を見ずにクルマを購入するのは初めてだったと目をキラキラさせながら前のめりに説明してくれたが、その様子は差し詰めミニカーを前に興奮する小学生といった感じだった。
奥様に購入を相談した際には「好きにしたら?」と言われたそうだが、確かにこの顔を見てしまうと、そうなるだろうなと納得してしまった。それくらい、せんこうさんはこの宝物の話題になると“良い顔"をするからだ。
そうして2023年に購入したティアナは、さすがは元機動捜査用車という箇所が、外観内装共にたくさん見受けられたのだと、さらに前のめりになって教えてくれた。

日産・ティアナは2003年に発売されたJ31型からはじまって、J32型、J33型と3世代にわたって生産された日産の高級大型セダン。セフィーロやマキシマ、アルティマといった別名で海外市場でも販売された世界戦略車であり、初代から『おもてなし』をコンセプトとした居住性にこだわった設計も特徴のひとつとなっている。
せんこうさんが手に入れたのは3代目モデルとなる2016年式のL33型で、現在の走行距離はわずか1万9000km。この型からエンジンは直列4気筒のQR25DEのみのラインアップとなっており、グレードはもっとも廉価なXEだ。

「パッと見て胸が高鳴ったのは、やはり車内の様子がまったく見えないリアのスモークガラスでしょうか。ボディと同色かと思うほど真っ黒だったので、道路交通法的に大丈夫なのかと心配しましたけど、元オーナーさんのことを考えると“絶対に大丈夫"だと杞憂に終わりました(笑)」
撮影場所が『法の館(旧三角簡易裁判所)』だったため、取材をしながら「後席に事件に関係する重要人物が座っていそうだ」などといった話題で盛り上がり、通りかかった人からも「この場所に、このクルマは合いますね」と言っていただいたくらいだ。

さらに付け加えると、撮影ということでピカピカに磨き上げられていたということも重なり、鏡かと思うほど光を反射するのも特徴の1つである。真っ黒というボディカラーが、the警察車両っぽくて萌えるということだった。
「ただね…購入して分かったんですけど、真っ黒のボディーカラーってかなり汚れが目立つんですよ。なんですけど、テレビの中に登場する警察車両のように、ピッカピカにしておきたくてねぇ。乗るのは週末だけなのに、気付けばしょっちゅう洗車していますよ。よく、テレビドラマで下っ端が洗車しているシーンが映っていたんですけど、今となってはその理由を身に染みて感じています(笑)」
綺麗な状態を維持するのは険しい道のりだと、じっと眺めながら後ろ頭をポリポリかいていた。

ならば、どうしてシルバーや白といったボディカラーを選ばなかったのかと尋ねると、黒い車両に乗っているのは、西部警察でいう“大門"のような部長クラスと相場が決まっていたからだとのことだった。
「この車両は、おそらくですけど……事件現場に向かうというよりは、それなりの方を送迎するのに使っていたんじゃないかと推測しているんです。例えば、この白いレースはメーカー純正品なんですけど、覆面パトカーにはわざわざ装備しないと思うんですよ。ダッシュボードを開けると貼ってある、読書灯というシールを見て下さい。きっと、刑事部長クラスの人が何かの資料を確認するために取り付けたんですよ!」と、さながら刑事のような推理を見せてくれたせんこうさんの内装のお気に入りポイントは読書灯だという。
嬉しそうな顔を眺めていると、後席にわけもなく座り、読書灯のスイッチをONにしている姿が頭に浮かぶ。

ほかのお気に入りポイントも尋ねると、ハンドル右側に付いているメタルコンセントの形跡もということだ。これは、赤色灯やフラットビームといった電装品の電源用として装着されているコンセントで、端子を差し込んでネジで締めるのが特徴となっている。この機構だと、足を引っ掛けて抜けてしまうという事態を防ぐことができるそうで、これが付いているいるのは機動捜査用車の証のひとつなのだとか。
「ほかにも、運転席に座ると警察署でちゃんと働いていたんだなという証が沢山あるんです。センターコンソール部分には無線が取り付けてあったであろう穴があったりとか、今は手を加えちゃったけどハンドルやシフトノブはもともとウレタン素材だったんですよ」

というのも、警察車両は税金を使って購入するため、用途によっては費用を抑えるために最廉価グレードが選ばれることが多いのだ。購入時はハンドルは皮の方が高級感があって良いのにと感じていたそうだが、今となってはそこも“らしさ"なのかと良さが分かってきたとのことだった。

そして、もっとも重要なのは“子供の頃に憧れたクルマに乗っている"ということなのだ、とせんこうさんは言う。
速い、豪華、最新の装備を搭載している…愛車に求めるものは人それぞれだが、自分はどうかと言われれば、運転していると”楽しい”や”嬉しい”といったように、心を動かしてくれることを求めているのだと、ティアナに乗って改めて感じたのだという。
だからこそ、週末は少し遠くまで足を伸ばしてみたくなるそうだ。そして、これまでは市民の安全を守るために走ってきたティアナと、今度はゆっくりドライブする“第二の人生”を歩んでいけたらということだった。

せんこうさんとティアナは、これからどんなカーライフを過ごしていくのだろうか? 走り続けていったその先に、きっと答えは見つかるはずだ。

(文:矢田部明子 / 撮影:西野キヨシ)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:三角西港(熊本県宇城市三角町三角浦)

[GAZOO編集部]