愛機マツダ AZ-1を愛でて20有余年。全日本勝利を目指して共に走り続ける

  • GAZOO愛車取材会の会場である三角西港で取材したマツダ・AZ-1(PG6SA)

    マツダ・AZ-1(PG6SA)



利便性、見た目、車両価格など、クルマを選ぶ理由は人それぞれ。だからこそ、カタログには走行性能だけにとどまらず、荷物がどれだけ積めるのかという情報や、快適な乗り心地を提供するための機構の説明など、そのクルマのストロングポイントが図解を交えながら丁寧に説明されているものだ。

AZ-1(PG6SA)に乗る“いけしさん”の場合は『乗っていて、楽しいと思えるかどうか』がクルマ選びの物差しになっているという。

「例えば、車内が静かで快適だということは、僕の評価としては加点されないんです。それよりも、ハンドルを握った時にどれだけワクワクさせてくれるのかが重要なんです」
そう言いながら、ニコッと笑った。

そういった価値観でいくと、20年前に迎え入れたAZ-1は自分の中で最高得点だと太鼓判を押した。特にジムカーナやサーキットといった場所では、気を付けて運転しないととんでもない方向に飛んでいってしまったり、コーナーではしっかり荷重移動しないと曲がってくれなかったりと、オーナーの腕が試されるくらいの“難しさ”が楽しいのだそうだ。

そんなAZ-1は、大きな荷物は積めない、2人しか乗れない、夏は暑い、一般的には知名度が低く『どこの国のクルマですか?』と聞かれるところも気に入っているポイントだと胸を張った。一見、ネガティブな特徴とも思えるが、万人受けしないちょっと変わった仕様に特別感を感じ、珍しいクルマに乗っていると思うと、このクルマを愛車に迎えて良かったと感じているとのこと。

ちなみに、愛車を選ぶ方程式は昔からずっと変わらぬまま。MR2、セラ、カプチーノと乗り継いできて、友達からは『好きになるクルマが、何か変なんだよね〜』と言われるそうだ。

昔は今ほど走ることが好きというわけではなかったといういけしさん。レギュラーガソリン80円/ℓ台という黄金期に何となく免許を取り、色々な場所にドライブへ出掛けるようになった。あちこち走り回って2年間で走行距離7万kmを差したころ、峠道を綺麗に走ることが楽しくなってきたのだそうだ。友達が助手席に乗った際は、どれだけクルマ酔いをさせずに、安定した運転ができるかを密かに挑戦していたそうだ。

そんな集中力を要するような運転を楽しんでいると、自ずと運転テクニックが身についていった。アクセルペダルの踏み方ひとつにもこだわるようになり、サーキットに行ってみたいと思うようになったそうだ。そして、実際にサーキットを走ってみると、想像していた以上に面白く感じ、次第にハマっていったという。

本格的にサーキット走行にハマったのは、AZ-1を運転するようになってから。
ステアリングを少し回しただけで、クイっと曲がる“スリリング”な走りの虜になってしまったのだ。中古で購入したこのクルマは、前オーナーさんがエンジンをパワーアップさせ、サスペンションをサーキット仕様にしていた。その結果、スリリングを通り越して“少し怖い仕様”になっていたのも、攻略のしがいがあり、好きという気持に拍車がかかったのかも? と、冗談っぽく言ってみせた。

「初めは、レンタルカートやサーキット走行会に参加するくらいだったんです。ところが、遊びの延長で始めたジムカーナが楽しすぎたんです。横置きエンジンのミッドシップ、ターボチャージャー搭載というスペックから繰り出されるキレッキレの走りが、まさに僕の求める“面白いクルマ”だったんです。それと、運転席の後ろにゴムキャップで塞がれている2つの穴があることに気付いたのも大きな理由です」

2つの穴というのは、4点式シートベルトのハーネスを固定する、アンカーボルトを装着するためのネジ穴のことだ。4点式シートベルトを締めるといったカーライフを送るオーナーは少数派となるので、ほとんどのクルマには標準装備がされていない。そのため、アンカーボルトを装着するためにはボディに穴を開けたり、専用のバーを装着するなど、それなりの作業が必要になってくる。

だがAZ-1の場合は、新車状態からシートベルトのアンカーボルトを装着するための雌ネジが切ってあるので、内装を少しカットしてアンカーボルトを締め込んでいくだけでOKという手軽さなのだ。

「ということで、この穴は『そういう使い方をしてくれ』ってことなんだと思ったんです。特に大掛かりな作業をしなくても、ジムカーナを走ることができるんだ。そうかそうかと、妙に納得してしまったのを覚えています」

実際にコースを走ってみると、車格が小さいぶん細いコースでも余裕をもって通れ、戦略次第では良いタイムを狙えたとフロントフェンダー貼られたステッカーに優しく触れた。

初めての公式戦となった2013年九州ジュニアシリーズは初戦こそ惨敗したものの、残りは全勝。翌年から九州地区戦B1クラスにステップアップし、2015年に初優勝。そのまま連勝してB1クラスのシリーズチャンピオンを獲得。これを機に、2017年JAFカップオールスタージムカーナに併設されるB-Kクラスに挑戦して念願の初勝利。勢いに乗って2018年全日本ジムカーナの併設であるB1クラスでも初勝利するなど、戦績を積み上げてきた。

JAFカップや全日本ジムカーナの併設クラスでも『勝利を手に!』と思っていたそうだが、大学の自動車部に所属し、バリバリに走っていた人や、整備士で自分のクルマをイジれるという専門的な知識を持った猛者ばかりの中では、なかなか満足のいく結果は残せていないと腕を組んだ。それでも、今年も九州地区の8戦に挑戦するというのは、単純に楽しいからだという。

「もうね、走ることをやめられないんですよ(笑)。それこそ、免許取り立ての僕からしたら、まさか全日本で競うなんて想像もしてなかったでしょう。でも、こうして走り続けたからこそ各方面の“濃い方々”と出会い、1人で参加していたジムカーナ走行会から、仲間と走るサーキット走行会まで楽しめているんです。そうしていくうちに、AZ-1・ビート・カプチーノという平成のABCトリオのオーナーの方々と、いつの間にやらチームとなって耐久レースにも参加するようになりました。周りからクルマの趣味が変だと言われた僕に(笑)、新しく仲間ができたんです。それがね、何よりも嬉しいんです」

好きなことを一緒に共有し合えるというのもまた、カーライフの楽しみだという。濃い仲間について伺うと、待ってました! と堰を切ったように話し始めた。まるで、自慢の宝物を紹介するように。

「ボンネットが緑なのは、仲間から譲り受けたからなんです。ジムカーナの競技中にアクセルが戻らなくて、土手に当たってしまいフロント周りが潰れてしまったんです。純正部品が出にくいから、どうしたものかと路頭に迷っていた時、『AZ-半がウチにあるよ』と声を掛けてもらったんです」

なんでも、ご縁があって雪国に住んでいたであろうオーナーから譲り受けたという仲間のAZ-1は、半分から後ろが融雪剤で錆びてしまっていたのだという。不幸中の幸いで、いけしさんが損傷した前半分は状態が良かったため、そのまま活用させてもらったのだそうだ。現存台数が少なく、維持するのが難しいと言われているAZ-1だが、実のところはそこまで大変ではないと優しい顔つきで教えてくれた。

「オーナー同時の繋がりが強いんです。前半分が大破してしまった時も、AZ-1オーナーだけではなく、ビートやカプチーノオーナーも色々方にあたってくれました。だからこそ今でも乗れていますしね」

取材当日はクリスマスが近かったため、近くにあるカフェのドアにはリースが飾られ、訪れる人はどこか浮き足だっている。そんな時期ということもあって、赤色のボディに緑色のボンネット、ゴールドホイールの“THEクリスマスカラー”なAZ-1は一際目立っていた。
寒いなか、三角西港名物のソフトクリームを手にした幼稚園くらいの女の子が「なんかあのクルマ可愛いね」と話しながらこちらを見ている。

その会話がいけしさんに聞こえたのかどうかは分からないが、ここぞとばかりにガルウィングドアをぐいっと開けた。「わぁー、上に開いた! 羽みたい!」と興奮した女の子はソフトクリームを上下に振ってしまい、お母さんに注意されている。

いけしさんは、ボディに貼られたステッカーや傷跡、緑色のボンネットなど、その箇所ごとに色々なことを思い出すそうだ。それは自分が辿ってきた軌跡であり、幸せの証なのだと言う。

「クルマも人も少々歳を取ってしまいましたが、楽しんで走るジムカーナ走行会から勝負の世界へと身を置いて、どれだけいけるか挑戦したいんです。だからこそ、これからも走り続けます」そう言いながら、走り去っていった。

時にクルマはその人の人生までも変えてしまうほど、人の心を掴んで離さない。いけしさんを見ていると、そう思わずにはいられなかった。

(文: 矢田部明子 / 撮影: 西野キヨシ)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:三角西港(浦島屋、旧三角簡易裁判所ほか)(熊本県宇城市三角町三角浦)

[GAZOO編集部]

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