恋焦がれていたAZ-1との恋愛を成就! 長年連れ添った今でも冒険心は昂ぶり続ける
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マツダ・AZ-1
日本の国土面積は、およそ37万8000㎢。道路の総延長は128万3725.6kmという、地球32周分にもなる途方もない長さの道が張り巡らされている。この国をAZ-1で走破するには、一体どれくらいの時間がかかるのだろうか? もしかすると、地図にはカウントされていない秘境の地が存在するかもしれない。そして道中、ハラハラするようなアクシデントに見舞われるかもしれない。
ただ、どんな道でも、少々な癖のある走りをするAZ-1とならば『それは10倍くらい楽しい旅になりそうだ』と妄想に耽ることがあるのだという。
24年前に初めての愛車としてAZ-1を迎え入れたNaoさん曰く『このクルマは、新たなる出会いや挑戦、想定外の試練をもたらしてくれ、人生のスパイスになっている』という。そんなNaoさんがクルマ好きになるキッカケとなったのは、小学校6年生、やっと自転車に乗れるようになった頃まで遡る。
「小学校2年生の頃に買ってもらった自転車の補助輪を、ずっと取れないまま乗っていたんです。補助輪が付いているものだから、私の自転車はいつもガラガラと耳障りな音を立てていました。当然、クラスメイトが漕ぐ自転車のスピードには着いていけず、行動範囲は校区内が限界でしたね」
『家から少し遠くにある○○公園に遊びに行く』というクラスメイトの話も、Naoさんは特段気にしてはいなかったという。なぜなら、自転車に乗れずとも、駄菓子屋さんで大好きなお菓子を買えたし、待ち時間はあれどバスに乗れば遠くにも行けたため、とくに不自由はないと思っていたからだ。
ところが、それから4年後…お婆様の家がある隣町の中学校に通うことになったため、何としても自転車に乗らなくてはならないという試練が訪れる。
「1時間に数本しかバスが通らないから不便だろうということで、時間的に融通が利く自転車に乗ることになったんです。補助輪なしで乗れるようになるしかなかったから、膝を擦り傷だらけにして、ペダルを漕いで漕いで漕ぎまくりました。例えるなら、生きてきた中で『頑張ったで賞』のベスト3に入るくらい特訓しましたね(笑)」
できてしまったカサブタは、年頃のレディにとっては大きすぎる代償となったが、移動が楽になるどころか、思っていた以上の楽しさがそこにはあったという。行動範囲が校区内から隣町へと伸びたことで、楽しいと噂の運動公園や、到着に2時間は掛かるがブラックバスが釣れるという池。誰も知らない林道など、ペダルを小気味よく回せばどこへでも行けるようになったからだ。
初めて行く場所、景色はNaoさんをワクワクさせてくれ『自転車を漕いでいる時は、冒険の主人公は自分だと思えた』と笑っていた。
そして、自転車の特訓をはじめた当時は最悪だと感じていたそうだが、今考えると、それがクルマに乗りたいと思えるキッカケにもなったと話してくれた。
「高校2年生の頃、友人のアルトワークスの助手席に乗る機会があったんです。今まで、そういう走りを意識したクルマに乗ったことがなかったので、アクセルを踏むとエンジンの唸る音が聞こえてグッと加速するところや、1km、5km、10kmという距離を進んでいくのが新鮮でね。当然のことかもしれないけど、すべてが自転車の倍以上のスピードで(笑)、私も運転してみたいと感じたんです」
そんなNaoさんの気持ちに輪をかけるように、叔父様のファミリアGT-R(BG8Z型)に乗る機会が訪れたそうだ。四駆の走りは背中から押し出されるような衝撃的な感覚を与えてくれ『免許を取ったら走りを楽しめるクルマに乗ろう』という目標を持たせてくれるキッカケになったという。そんな、アルトワークスとファミリアに乗ったためか、小さく丸目で可愛いのに、走りはしっかりしているクルマに自然と興味を持つようになっていたそうだ。
時は『平成』へと年号が変わった頃。愛車を迎え入れたら、まず初めにどこに行こうか? と妄想するのが日課になりはじめていたそんなある日…。クラスの友達が、東京モーターショー特集の組まれた雑誌を読んでいたのだという。チラリ覗いてみると、そこにあったのが『AZ550』のページで、コンセプトモデルとしてA、B、Cの3種類のデザインが掲載されていたそうだ。
「それから数ヶ月後に、一番好きなデザインだった“ニューコンセプトビークル”というコンセプトだった『タイプA』が市販されたと聞いた時は、思わずガッツポーズしてしまいました。まだ免許を持っていなかったから、自転車で片道45分くらいの場所にあるオートザムに行って、外からじっと眺めたものです。きっと、お店の人は不審に思ったかもしれないけど(笑)。買えないのにパンフレットが欲しいと言うのが申し訳なくて、最後までお店に入れなかったのですが…」
ショーウィンドウから見えたのは、平べったくて小さな体と、丸いライトだった。デザインはNaoさんの好みど真ん中。気になる走行性能は、軽自動車でありながらもエンジンは横置きのミッドシップ、スケルトンモノコックフレーム、ターボチャージャーという、何だか凄そうな文字が並んでいた。『愛車にするにはコレしかない!』と、自転車のハンドルをギュッと握って帰路についたそうだ。
「いつか私は、あのオートザムでAZ-1(PG6SA型)を買うんだ! と決めていました。
でも、私が運転免許を取った頃には、販売終了になってしまったんです。中古車市場にも良い個体が流通していなくて、欲しいクルマも特になかったので、それから暫くは原動機付自転車で移動していました」
ところが、それから7年後、何気なく中古車屋さんの前を通るとAZ-1が置いてあったそうだ。その出会いが『運命かもしれない』と思えたのは、ちょうどその頃、自分を取り巻く環境が変わったタイミングでもあったからだという。今こそ自分を変えるチャンスなのかもしれない、もしくは『人生を楽しんで』という神様からのメッセージなのかもしれないと感じ、中古車屋さんの扉を勢いよく開けたそうだ。
「直ぐに試乗させてもらったら、グイグイ曲がっていくハンドリングがとても面白くて、やっぱり楽しいクルマだったんだ! って、その魅力に引き込まれてしまいましてね。普通のクルマの半分ほどステアリングを回しただけで、鼻先がくっと内に入って曲がっていく独特の操作感がクセになってしまったんです。まぁ、あまりに曲がるもんだから、スリルもありましたけどね(笑)」
想定外だったのは、車両価格が新車時よりも10万円ほど値上がりしていたことだった。予算オーバーの車両価格に加えて、普段使いするにはハードルの高いAZ-1を愛車として迎え入れるのに迷いが生じ、1週間ほどジックリと考えることにしたそうだ。
その結果『自分のやりたいことをやるべきだ』という結論に至り、判子を持って中古車屋さんに足を運んだと話してくれた。
「浮き足だって扉を開けたのに、少し前に売れてしまったと営業マンが申し訳なさそうに言ってきたんです。高校2年生の時に一目惚れしてから、11年間片思いをしていた初恋は呆気なく砕け散ってしまいました」
トボトボと家に帰っている途中『そう言えば、隣に赤いスズキのカプチーノが置いてあったな』と思い出したそうだ。AZ-1とはご縁が無かったのだと言い聞かせ、半ばヤケになって1週間後にカプチーノを購入しようと、再び中古車屋さんを訪れると…。
そこには、また別のAZ-1が置いてあった! と、満面の笑みで“もちろん即決したに決まっています”と言わんばかりの、目線をこちらに向けた。
「カプチーノを見に行くと言って家を出たから、親は暫くの間、AZ-1のことをカプチーノだと思っていました(笑)。実際に納車され運転してみたら、AZ-1はそりゃあ、色んな意味でジャジャ馬だから、大変だったエピソードは山ほどありますよ!」
納車されたその日に起きた足まわりトラブルにはじまり、エアコンの故障、そしてエアコン修理が終わってテスト走行中に起こったのがエンジン不調だったという。しかも、エンジンの修理に1年半という時間を要し、戻ってきたときにはまたエアコンが効かなくなっていたとのこと。
折れかけた心をなんとか誤魔化し、再々度のエアコン修理…。そして、気分転換と称して立ち寄った、ハンバーガー屋さんの駐車場で、他のクルマにぶつけられフロントバンパーとボンネットを割られてしまったと、豪快に笑っていた。
そんな激しいストーリー。漫画であっても“しつこ過ぎる”という無茶苦茶な展開だが、それが現実であったというから、『本当にお疲れ様でした』という以外、掛けられる言葉が見当たらなかった。
「友達から、よく諦めずに乗ってるね〜!なんて、からかわれる事もあります。けれど、それでも乗り換えないのは、それ以上の魅力がこのクルマにはあるからなんです。命懸けで挑戦した(笑)オートポリスでのサーキット走行、クルマを通じて色々な人に出会うことができたこと、何より…片思いから始まり32年間ですよ、32年間! やっと実った恋なのに、ちょっとやそっとじゃ諦めきれませんからネ!」
そう語ってくれたNaoさん。新たなる試みとして、現在はキャンプに挑戦中だそうだ。荷物をパンパンに積み込んで、ソロキャンプに出かける道中は、初めて自転車に乗った時と同じくらいのワクワク感があるという。
もしかすると、妄想通りに秘境の地に辿り着けるかも? という淡い期待と共に、いつまでも忘れない冒険心を抱きながら優しく微笑んだ。
(文: 矢田部明子 / 撮影:平野 陽)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:三池炭鉱 万田坑(熊本県荒尾市原万田200-2)
[GAZOO編集部]
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