家族で育んだラリー愛が導いた憧れの一台。ランエボXと兄弟の物語

  • GAZOO愛車取材会の会場である西京極総合運動公園で取材した三菱・ランサーエボリューションX GSR(CZ4A型)

    三菱・ランサーエボリューションX GSR(CZ4A型)


2023年2月、京都にある三菱の中古車ディーラーに展示されていた1台のランサーエボリューションX GSR(以下、ランエボ)。その前に立った兄弟は、そのコンディションのよさに引き込まれていた。
ボディカラーはシルバー、走行距離は7〜8万km台。コンディションも申し分なく「このクルマを逃したら、もう二度とおなじような程度のクルマは手に入れられないかもしれない」。そう思わせる一台だった。
そしてふたりは、家族とも相談の上でこのクルマの購入を決めたという。

兄弟揃って“ラリー好き”という『yu32x』さんと『ドリチャオ』さん。
2歳差のおふたりは幼い頃からとても仲が良く、アニメやゲームなどの趣味もよく似ていた。
そんな彼らがクルマに興味を持つキッカケとなったのは、両親に連れられて遊びに行った大阪・箕面市のバイクショップ『ボスコ・モト』に展示されていたランチア・デルタHFインテグラーレだった。

「ボクが2歳くらいで、弟はまだ10ヵ月とか。物心もついていない頃でしたが、うっすらとそのラリーカーのシートに座らせてもらった記憶が残っているんですよ」とyu32xさん。なんとそのクルマは、ディディエ・オリオール選手がラリー・モンテカルロで勝利した実車だったという。

中学生時代には、三菱ディーラーでの職業体験を通じてクルマの仕事にも触れることができた。
「洗車とかをする課外授業で3日間くらい行っていたのですが、スタッフの方に見積もりの作り方を勉強しようと言われて『じゃあ、ギャランのラリーアートで!』なんて答えていましたね。当時は、まさか将来ランエボに乗れるなんて考えてもいませんでした」

実は兄の『yu32x』さんは、はじめての愛車として日産・ノートを買った直後にランサーエボリューションⅦ GT-Aの出モノと遭遇し『ノートを購入するのがあと1週間遅かったら、ランエボを選んでいたのに…』と、悔しい思いをずっと胸の奥に秘めていたという。
そんな経緯もあったからこそ、今回のチャンスは逃すまいという気持ちは大きかったに違いない。

ランサーエボリューションと言えば、三菱が誇るハイパワー4WD車として知られ、WRCでの活躍をはじめ今でも世界中のフリークを虜にしている日本を代表する名車。なかでもランサーエボリューションX(CZ4A型)はその登場当初、2ペダル式MTのTC-SST(ツインクラッチSST)モデルが用意されたことでも話題となった。

そして、この個体がマニュアル車ではなく、AT感覚で乗れる2ペダルのTC-SST車だったという点も、家族みんなで使うことを考えた際にプラスに働いたようだ。
「自分も父もマニュアル免許を持っているのですが、父はかれこれ20年以上、AT車しか運転していなかったので」と、兄のyu32xさん。

購入前には、父と兄弟の3人で下見に訪れ、クルマの程度が良いことを確認して一旦自宅に帰り、改めて母を連れ出してリヤシートの座り心地などもしっかりとチェック。家族みんなでの入念な下見を経て、購入することを決めたという。

ランエボを初めて運転して驚いたのは、意外にも以前所有していた『i(アイ)』とよく似た乗り味だったことだったという。
三菱の軽自動車でもあるアイは、小さなボディながらも走行性能や居住性に優れ、家族全員が気に入っていたそうで「4WDのターボだからか、走っている感じがよく似ていました。サイズは大きくなっているけど、運転しやすさなどは通じる部分がありましたね。ランエボを買ったことで、なぜかアイの評価が一家の中で爆上がりだったんですよ!」と楽しそうに語ってくれた。

ふたりにとって、新しい愛車が納車された際の恒例行事になっているのが、京都の景色が一望できる大きなショッピングセンター屋上での記念撮影。ここであれば、美しい景色と愛車をファインダーに収めることができるからだ。
しかし、そこに向かおうとして住所をナビに入力したところ、行き先が旧店名で表示されたのも忘れられないエピソードだという。
「あれ? 地図データがめちゃくちゃ古いぞって。そこが旧店舗の名称だったのって何年前なんだよ! って話になりまして。データ更新しようとカー用品の量販店に行っても『三菱独自のMMCSナビシステムは非対応です』って言われて…。最終的にはディーラーに行って、最新の地図ソフトをインストールしてもらいました」

その他、原因不明のチェックランプ点灯などのトラブルはあったものの、購入して約2年が経った現在も、調子はすこぶる良好。やはりこのクルマを購入して正解だったと振り返る。
そして、走りの満足度はもちろん、ちょっとしたカスタムにもこだわりが光っていた。

「実は、ギャランフォルティス用のラリーアートエンブレムを、フロントとリヤに装着しているんです。納車前にディーラーにお願いして、正確な位置に取り付けてもらいました。これを見た三菱車ツウの人に、“あれ? ランエボじゃなくてギャランフォルティスなの?”って思わせたくて」とニヤリ。

さらに、純正オプションのLEDイルミネーションが夜間に独特の光を放ち、エンジンルームには海外製のエアクリーナーダクトも装備。どちらも以前のオーナーによるもので購入後に気づいたというが、予想外の“おまけ”に満足している様子だ。

「ちょっと離れてしゃがんだ姿勢でランエボを見て、なんかカッコ良いなって。漫画の『頭文字D』では、登場人物のイツキがAE85を買って初めて峠に遊びに行った時、こうやって愛車を見惚れているシーンがあるんです。そんなにウキウキするもんかな〜と思ってたんですけど…確かにホンマにあるわって(笑)」

とはいえ、これまで“普通のクルマ”ばかり乗り継いできたこともあって、ランエボに乗り換えるとなると、ご近所さんの目が少々気になっていたそうだ。
「マフラーの音とか迷惑になるんじゃないかと心配していました。でも、近くに引っ越してきたご家庭のお子さんがクルマ好きで。このランエボのおかげですっかり仲良くなりました。その子も頭文字Dにハマっているらしく、会話のノリも一緒だったんです。僕らも『ハイパワーターボ+4WD。この条件にあらずんばクルマにあらずだ』とかアニメの登場人物のセリフを言ったりしながら遊んでいますよ」

そんなランエボが納車されて、最初のロングドライブとなったのは、家族で訪れた鈴鹿サーキットのモータースポーツファン感謝祭。
「高速道路での安定性が凄かったですね。馬力もあって、今まで乗ってきたクルマとは段違いでした。助手席に乗っていても、ラクに走っているのがよく分かりました」と、弟のドリチャオさん。

実はドリチャオさんは、まだ運転免許を持っていない。仕事が忙しくて、運転免許取得のタイミングを逃してしまっているそうで「いつかは自分でもランエボを運転してみたいですね」と話す。今は兄と相談しながら、様々な場所へ出かけるのが楽しみなのだという。

その行き先のひとつが、愛知県・岡崎市にある『三菱オートギャラリー』であった。ふたりとも有給を取って平日に訪れ、無事にランエボの“里帰り”を果たした。
クルマを通じて、家族との繋がりが深まり、日常が少し特別な日になる。アニメやゲームの中でしか見たことがなかった憧れのランエボは、いまや日々の生活の一部へとなっているわけだ。

「実はこの前、セレナe-POWERで、富士スピードウェイの体験走行に行ってきたんです。先導車付きだったのですが、それでも前のクルマにめちゃくちゃ離されてしまって…。今度は絶対にランエボでこよう! ってリベンジを誓いました」

ちなみに、父が乗るセレナe-POWERは、取材の前日に乗り換えることが決まったとのこと。代わりにやって来るのは三菱のデリカD:5だというから、三菱自動車の2台が自宅ガレージに並ぶことになり、クルマ好きとしてはニンマリせずにはいられない風景となること必至だろう。

三菱車への愛、ラリーへの情熱、そして家族の絆が詰まったこの愛車は、彼らにとって単なる移動手段を超えた“人生の相棒”となる存在。
精悍な顔つきをしたランエボXと兄弟の物語は、まだまだ走り出したばかりだ。

(文: 石川大輔 / 撮影: 清水良太郎)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:西京極総合運動公園 (京都府京都市右京区西京極新明町32)

[GAZOO編集部]