クルマに興味がなかった女子をドップリと沼らせてしまったハチロクとの出会い

  • GAZOO愛車取材会の会場である霞ヶ浦緑地公園で取材したトヨタ・86 GTリミテッド(ZN6型)

    トヨタ・86 GTリミテッド(ZN6型)



新車販売される国産スポーツカーが激減した2000年代後半、そんな状況に一石を投じたのが、トヨタとスバルが共同で作り上げた86/BRZだった。
メーカーの垣根を超えて、共同で開発されたそのスポーツカーは、水平対向4気筒エンジンだからこそ可能な低いノーズが特徴的で、誰が見ても「カッコいい」と思えるスポーツカーらしいスタイリングと、そのビジュアルに相応しい走る楽しさを備えていた。
そんな86/BRZは、既存のクルマ好きから好評を得るだけではなく、それまでクルマに興味を持たなかった新たなユーザー層からも注目を集め、手頃な価格の中古車が数多く流通するようになった現在では、デビュー当初よりもさらにその裾野は広がり、特に若い世代のオーナーも増えてきた。

そんなトヨタ・86をキッカケに、クルマ趣味にドップリとハマったというのが、まだ20代で自動車免許歴8年ながら、これまでになんと4台もの86を乗り継いできたという『ハチ子』さんだ。
現在所有する86は、2017年式のGTリミテッド。エンジンにはスーパーチャージャーが組み合わされるなど、大掛かりなカスタマイズが施された車両で、乗り始めてからもう少しで1年半を迎えるという。
本来であれば、この86とのエピソードを紹介させていただくべきかもしれないが、この86に至るまでの、クルマ趣味にドップリとハマっていくまでのエピソードが“濃すぎる”ので、そちらを中心に紹介させていただきたい。

そもそもハチ子さんが86に興味を持ったのは大学生になった頃、部活の先輩と共に劇場版『頭文字D』を観に行ったのがキッカケだったという。映画の入場者特典としてもらったというサイン色紙を今でも大切にしていらっしゃる。
「当時はスポーツカーにはまったく興味なかったんですけど、映画を観にいく前に、しっかり予習したので楽しめましたよ。とは言っても、車名とかは分らないまま観ていたんですけどね(笑)。でも、主人公の拓海が乗るAE86がすごくカッコよくて、映画を観終わった頃には『私もスポーツカーに乗ってみたい』ってなっていましたね」

「『拓海のAE86は旧車だけど、最後の方でちょっとだけ出てきた86なら今でも新車で手に入るよ』って、一緒に映画を観た先輩が教えてくれたんです」
当時は86と言われてもそのスタイルをすぐに思い浮かべることはできなかったが、ウェブサイトなどで検索して、改めてその姿を認識するようになると、そのカッコよさに惹かれていったそうだ。
「その後は、それこそ寝ても覚めても、86が頭から離れなくて『86を愛車にしたい』って思うようになっていました」と、当時の心持ちを振り返ってくれたハチ子さんだが、この後の行動力がスゴかった。

「86のことをもっと知りたくて、まずはクルマ関係のアルバイトを始めたんです。ガソリンスタンド、自動車オークション会場、それからトヨタのディーラーでも働きました」と、仕事としてクルマに触れながら、知識をどんどん蓄えていったそうだ。
そして、そんなアルバイト先で、ハチ子さんにとって1台目となる86に出会うことになるのだが…実はその前に、初めての愛車、それもスポーツカーを手に入れたという。

「オークション会場は、クルマ通勤が必須な場所だったこともあってマツダのRX-8を買ったんです。なぜRX-8にしたのかというと、安かったからというのと、クルマに詳しい友人が『86に乗るための練習にもなる』と勧めてくれたからです。RX-8を購入する1年前には自動車免許を取得していたけれど、その頃は完全なるペーパードライバーだったので」

ちなみに、はじめての愛車となったRX-8に心移りすることはなかったのかと伺ってみると「それはなかったです。でも、確かにRX-8も好きになっちゃいまして、今でもナンバーを切って所有していますよ」というお答えが返ってきた。

話を86に戻そう。RX-8で運転の練習を続けていたハチ子さんは、バイト先のトヨタディーラーで、自身にとって1台目となる86と出会った。
「前期型GTリミテッドのオレンジが下取りで入ってきて、それを売ってもらったんです」

こうして晴れて憧れの86オーナーとなったハチ子さんだが、ただ所有するだけで満足することはなかった。
「サーキットへ走りに行ったんです。初めて走った時は、本当に上手く走れなかったんですが、SNSで知り合った方達も参加していたので、走り方を教わって、帰るころには随分ラップタイムも縮まっていたんです!」
初めてのサーキット走行で、86を走らせることだけではなく、運転が上手くなる喜びを知ってしまったハチ子さんは、その後も足繁くサーキットに通うようになり、86の走りを満喫するようになっていく。

しかし、同じ86に乗る仲間の横に乗せてもらった際に、あることに気づいたという。
「私の86と同じ、ほぼノーマルの86の助手席に同乗させてもらったんですが、動きがまったく違ったんです! 86を買った時は、ATとかMTとか、サーキット走行で違いがあるなんて知識もなかったので『86なら何でもいい』って買ってしまったんですよね」
そう、ハチ子さんの86はAT車で、同乗させてもらった86はMT車だったのだ。

この経験によってMTとATの走りの違いを痛感したハチ子さん。早速、MT車に乗り換えるべく同じグレードで内外装も同色という条件で探したところ、関東で該当車両が見つかったという。
こうして手に入れたMTの86は、ハチ子さんの期待を裏切ることなくますます走りを楽しむ世界に引きずり込んでいったのだが…走りを楽しむことに熱中し過ぎたのか「1年も乗らない内に、全損させてしまったんです」という悲しい別れを経験することに。
「86を通して知り合っていったクルマ仲間から『一度、86から離れて、すこし冷静になれ』って言われまして…それならばと、中学生の頃に推しグループがCMに登場していて、それがキッカケでディーラーにカタログをもらいに行き『免許を取ったらこれに乗ろう!』と思っていたこともあったスズキ・ソリオに乗り換えたんです」

しかし、86で運転の楽しさを知ってしまっていたハチ子さんは「1年は86から離れるつもりでいたんですが、半年ぐらいで『やっぱりスポーツカーに乗りたい!』ってなって、86を探し始めました」と笑う。
そして見つけたのが自身3台目となる86。3台目もこれまでと同じグレード、同じ内外装色となるが「当時は金欠だったので、86に乗るのはサーキットだけにして、維持費を安くするためにナンバーを切って、サーキットまではレンタカーの積載車で運んでいました」と、走ることを最優先した割り切った乗り方を選んだそうだ。

ちなみに積載車を運転するには、ひと昔前とは違って準中型や中型免許以上が必要となるのだが、ちょうどその頃に仕事でも積載車に乗るからと大型免許を取得していたそうで「免許があるから、積載車で運べばいいじゃん」となったそうである。
その後、懐事情も落ち着いてきたので、86の車検を取得することにしたものの「整備工場から『オイル漏れが酷くて、このままじゃ車検を通せません』と言われてしまったんです。その修理費用も安くなくて…」とのことで、3台目の86とお別れすることに。

というわけで、再び懲りずに(笑)、86探しを始めたハチ子さん。もちろん今回も同じグレード、同じ内外装色という条件で探したところ関西に気になる個体を発見し、足を伸ばしたものの残念ながらハチ子さんのお眼鏡にかなう車両ではなかったという。
しかし見に行った先が86専門店のようなお店で、他にも86の在庫が多数あり「見せてもらった中の1台に、この86があったんです」と当時を思い出したかのように目を輝かせた。

この86は、スーパーチャージャーが装着されていたほか、排気系、駆動系、さらには外装にも手が加えられたカスタム車両。しかもハチ子さんが決めていた予算より高かったのだ。
「私は自分好みにカスタムしたいので、できるだけノーマルの車両にこだわって探していたので、この個体は現車を見るまでターゲットから外れていたんです。でも現車を見たら『過給機が付いていて、これまでの86とは違う乗り味を楽しめるかも?』と気になってしまって、そのあと1ヶ月経っても頭から離れなかったので、購入することにしたんです(笑)」

こうして4台目となった86を満喫しているハチ子さん。1台目の86に乗っている頃に、「『86のカスタマイズの参考して』と友達がくれたんです」という手書きのパーツリストは、今でもカスタムマイズする時に参考にしているという。
そして、現在の愛車である86の特徴とも言えるブルーの差し色は「ソリオのCMに出ていた推しのメンバーカラーなんで(笑)」とのこと。ホイールやミラーはもちろん、インテリアのワンポイントや、自身の爪なども含めてコーディネイトしている様子から、愛情の大きさが伝わってくる。

ちなみに、現在は86のほかにRX-8とソリオ、さらにはなんとロードスターRFの4台を所有し、目的や行き先に合わせて愛車を使い分けるというクルマ趣味生活を送っているそうだ。ちなみに、ロードスターの入手エピソードもとても面白いのだが、長くなり過ぎるので、ここでは割愛させていただいた。

複数のクルマを所有すれば、当然維持費もバカにはならない。RX-8は登録しない状態で所有しているとのことなので、例えばご実家にスペースがあるなど、置く場所に困らないのかと思いきや「4台とも月極駐車場を借りて置いています」というお答えが…。
「もう、クルマのことでお金が掛かるなら『その分、働けばいいや』って開き直りました(笑)。お給料はほとんどがクルマに消えていってます」

目標は『クルマに“私を選んでよかった”と思ってもらえるオーナーになること』だというハチ子さん。86をはじめとする愛車たちに囲まれた幸せ満点の生活は、まだまだ続く。

(文: 坪内英樹 / 撮影: 土屋勇人)

※許可を得て取材を行っています
取材場所: 霞ヶ浦緑地(三重県四日市市大字羽津甲)

[GAZOO編集部]

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