子供の頃からRX-7に憧れた兄と、最近までクルマに興味のなかった弟が、RE兄弟になるまでの物語

  • GAZOO愛車取材会の会場である霞ヶ浦緑地公園で取材したマツダ・RX-7(FD3S型)とRX-8(SE3P型)

    マツダ・RX-7(FD3S型)とRX-8(SE3P型)


1967年にデビューしたマツダ・コスモスポーツに搭載されて以降、主にスポーツモデルのパワーユニットとして重用されたロータリーエンジン。1980年代以降は『軽量コンパクトにしてハイパワー』という特徴を最大限に活かしたRX-7を誕生させ、日本国内はもちろん、世界中で多くのファンを魅了してきた。
そんなロータリーエンジンを搭載する平成期生まれのスポーツカーと言えば、3代目RX-7(FD3S型)と、4ドアスポーツカーとなるRX-8(SE3P型)である。

1991年に登場した3代目RX-7は、シーケンシャルツインターボを組み合わせ、最終的には280psというパワーを誇った『13B-REW型』のロータリーエンジンを搭載する、3ドアハッチバッククーペボディのピュアスポーツカー。

いっぽう2003年に発売されたRX-8は、自然吸気の『13B-MSP型』ロータリーエンジンを搭載し、観音開き式の4枚ドアを持つセダン型のスポーツカーである。仕様や年式により最高出力は異なるが、NAながら最大で250psを誇った。

そして、そんな2台のロータリーエンジン搭載車で三重県の出張取材会にご参加いただいたのは「子供の頃からFC3SとFD3Sに憧れていて、いつか乗りたいと思っていた」という兄の『おーたむ』さんと「兄が見ていたFDの動画に出てきた“RX-8”を見て興味を持った」という弟の『あき』さんのご兄弟である。

「我が家は父がクルマ好きで、子供の頃からチューニングカーがあるような家庭だったんです。父もFC3Sに乗っていた時期もあるようですが、自分たちが子供の頃は、チューニングしたスカイラインGT-R(BNR32型)に乗っていましたね」と語るのは、兄のおーたむさん。
そんなお父上のもとで育ったおーたむさんは、しっかりとその影響を受けていたようで、前述の通り、小さい頃からRX-7を愛車にしたいと思う子供であった。

対して、弟のあきさんはというと「クルマが嫌いっていうわけじゃないんですけど、正直、RX-8に乗りたいって思うようになる少し前までは、ぜんぜん興味がなかったんです。運転免許は彼(※注:あきさんが兄のおーたむさんのことを話す時には、子供の頃から『お兄ちゃんと』か『兄貴』ではなく『彼』と呼ぶそうです)が、『家のクルマにMT車があるからMT免許を取れ』というので、MT免許にしましたけど、運転免許取得後4〜5年は、母親のATミッションのスイフトしか運転していませんでした」というように、RX-8に興味を持つまでは、お父上からの影響を微塵も感じさせない息子さんだったようだ。

そんなあきさんが、徐々に変化し始めたという。「急に母親のスイフトに乗るのが楽しいって言うようになって、『MT車にも乗ってみたい』と言い始めたんです」と、当時を振り返っておーたむさんは言う。乗りたくなったのなら練習しようと、当時のおーたむさんの愛車だったというMTミッションのスイフトスポーツで、あきさんはMT車に乗る練習を始めたという。

「夜とか時間の空いている時に、彼が横に乗ってくれて、教習(笑)してくれたんですよ」
MT車の運転ができるようになったことで、あきさんは少しずつクルマに興味を持っていくようになった。

クルマに興味を持つようになって、あきさんは『FRのNAに乗ってみたい』と思うようになったそうだ。なぜFRのNAなのかをお伺いすると「スイフトスポーツがFFのターボだったんで、別のタイプに乗ってみたいと思ったんです」とおっしゃる。

ご自身はそれまでクルマに興味を持っていなかったとはいえ、兄のおーたむさんやお父上は、いわゆる無類のクルマ好き。FRのNAと言えば、それに該当する車種をポンと答えが返ってくるという家庭環境だ、恐らくいつくかの候補車両が挙がったと思われるが、あきさんが興味をもったのはND系のロードスター、しかも当時デビューしたばかりの990Sだったそうだ。しかし「ディーラーに実車を見に行ったりもしたんですが、ロードスターはさすがに実用性がなさ過ぎましたね」という理由で購入するには至らなかったそうだ。

ちょうどその頃、兄のおーたむさんも現在の愛車となるRX-7(FD3S型)に出会う。「いつかはFCかFDに乗りたかったんですが、FCはさすがにもう旧過ぎるんで、FDを探していたんですが、既に車両価格が高騰していて現実的には手が出せなくなっていたんです。しかし、ギリギリ予算内で買えるFDが出てきたんです。お店は広島だったんですけど、即効で『すぐに見に行くから取り置きして!』と電話して、仕事が休みの週末に見に行きました」

ちなみにおーたむさんのそれまでの車歴は、トヨタ・アレックス、スズキ・スイフトスポーツの2台。「初めからFDを買おうとしたんですが、父が『初心者にターボはダメ。NAにしろ』とアレックスを見つけてきたんです」。
2台目のスイフトスポーツは、「アレックスが壊れて急遽乗り替えることになって、急だったんで貯金もあまりなくて、両親に援助してもらう手前、両親からOKが貰える車種しか選べなくて、新車で買えて楽しそうなスイフトスポーツを選んだんですよ」。つまり2台とも、おーたむさんが乗りたくて選んだクルマとは言い切れるものではなかった。「そうは言っても、スイフトスポーツは結構気に入っていて、タービン交換まで考えたりもしてたんですよ」

そしてついに子供の頃から憧れていたRX-7を手に入れるチャンスが訪れたのだが、おーたむさんはこの時期にはご結婚されていて、さらに言えば、奥様との住まいとなるご自宅を購入することが決まったばかりだったという。

大きな買い物をする間際に、趣味のクルマを買うとなれば、奥様から反対されそうだが「高校からの付き合いで、ずっとRX-7に乗りたいって話はしていたんで、快諾ってワケじゃないですけど、買うことを許してくれました。理解のあるいい嫁さんです(笑)」

ついに購入できることになったFD3Sは、1996年式のフルノーマル。「整備点検記録簿の他に、前のオーナーさんがエクセルで細かなメンテナンス記録を付けていた車両で、かなり良い状態の個体でした」

兄・おーたむさんがRX-7の購入を決めた頃、兄弟でRX-7の動画を観ていたそうだが、そこでたまたま登場したRX-8に興味を持ったのが弟のあきさんだ。

「RX-8なら人も4人乗れて、荷物も積めるんで実用性があって、しかもスポーツカーですからスタイリングも良いと興味を持ったので、クルマを探し始めたんです。当初は後期型のタイプRSで探していたんですが、調べて行くうちに程度の良いものだったらタイプRSもスピリットRも、値段はそんなに変わらないことに気づいて、それならばとスピリットRに狙いを絞って探すようになりました」

お父上やおーたむさんという目の肥えたご家族がいるだけに、車両のチェックも厳しかったのかもしれない。10ヵ月かけた後にようやく、希望に叶うスピリットRを隣県で発見し、実車を見に行ったそうだ。

「見に行ったクルマが、まさにこのスピリットRなんですが、その場で即決はせずに、一度家に帰ってジックリ考えることにしたんです。けど最終的には、『買っちまえ!』って感じで決めたんですけどね(笑)」

スピリットRを手に入れて、再び兄・おーたむさんを教官とする、夜のMT車の教習が復活する。
「スイフトスポーツの時は、低回転域のトルクもしっかりあったので、クラッチをミートするだけでクルマは問題なく動き出してくれましたが、低回転域のトルクが細いRX-8で同じことをしたら、すぐにエンストです…」。再び教官となったおーたむさんは「RX-8をちゃんと乗れるようになるコースを考えて、自分が横に乗れる時は一緒に、乗れない時はひとりでも、可能な限り毎日コースを走るようにさせたんですよ」

運転免許を取得する時には、「MT車なんて面倒なだけ。どうしてもクルマに乗らなきゃならないならAT車でいいじゃん」なんて思っていたというあきさんだが、自らの意志で選んだMTミッションのRX-8となれば『運転の練習をするのが楽しかった』と、当時を振り返る。
そして、詳しくお話を伺ってみると、あきさんが練習を楽しく感じたのは、どうやらおーたむさんの教え方の巧さがあったようだ。

まだ運転が下手なドライバーの助手席に乗った上級者の中には『あれはダメ、それもダメ』と、やたらダメ出しをする人がいる。これは運転している方にしてみれば、プレッシャー以外の何ものでもなく、教えてもらうのが苦痛になってしまうものだからだ。

おーたむさんは、「よっぽど危険なことでもない限り、横に乗ってるだけでしたね」と、あきさんの運転を隣で見守るだけという教習をしたようだ。
「彼は知りたいことだけ教えてくれて、あとは運転とは関係ない話をしてました」
そんなおーたむさんの教習のお陰で、乗り始めて3ヵ月ぐらいは運転中に緊張することもあったそうだが、半年を過ぎたころには、街乗りはもちろんサーキット走行でも通用するようなスムーズなシフトチェンジを体得し、RX-8をREスポーツらしく走らせることができるようになったという。

そんなお二人の愛車を見せてもらうと、どちらもオリジナルに近い状態を保っている。今でも愛車の素のパワーを楽しんでいるという、チューニング好きなお父上に育てられたご兄弟なので、この点は意外だったりもする。

「親父の影響で、自分もチューニングは好きです。でもこのFDはオリジナルに近いまま乗られてきた個体のようなので、自分もアチコチくたびれた部分をリフレッシュしつつ、オリジナルを保って乗っていきたいですね」と、兄のおーたむさん。

弟のあきさんも「せっかくノーマルで手に入れたので、僕もこの状態を保って乗っていきたいです。けれど、実は昨日、東京の東雲でRX-8にチューニングパーツを付けたクルマの試乗イベントがあったので、行ってみたんです。試乗してみたら乗り味が随分違ったんで、ちょっとチューニングしてみたくなりましたね」と、今まで興味を持たなかったチューニングの世界に、ちょっとだけ楽しみを見出しはじめた様子だ。

今回の取材の合間にも、カスタムに詳しい兄のおーたむさんに、昨日体験したパーツの役割などを早速、しかも熱心に聞いていたあきさん。

二人のRX-7とRX-8が、今後どのように乗り続けられていくのかはわからない。しかし、ロータリーエンジンを搭載する平成生まれの2台のスポーツカーが、二人の会話から消えることは当分なさそうだ。

(文: 坪内英樹 / 撮影: 土屋勇人)

※許可を得て取材を行っています
取材場所: 霞ヶ浦緑地(三重県四日市市大字羽津甲)

[GAZOO編集部]