上司からの誘いでラリーを知り、愛機RX-8で走る楽しさを味わう

  • GAZOO愛車取材会の会場である宮崎県林業技術センター/森の科学館で取材したマツダ・RX-8(SE3P型)

    マツダ・RX-8(SE3P型)


父親から譲り受けたアルトに始まり、学生時代からコツコツ続けてきた貯金で買ったJB23型ジムニーでマニュアル車を運転することの面白さを知ったというオーナー。しかし、本当に好きな車種は1990年代前後のスポーツカーだった。

「カーレースのゲームをしたり、頭文字Dを読んだりする中で、ランサーエボリューションやインプレッサWRXなど、いつかはそこに出ているクルマに乗りたい! という気持ちがありました。ところが自分が社会人になった時、ネオクラ・旧車ブームの影響から中古車価格が驚くほど高騰していて、手が届かない存在となっていたんです。そこで、せめてクルマを操っている感覚だけでも味わいたいという思いから選んだのが、マニュアルミッションのジムニーでした」

選択の理由は若干消極的だったものの、ジムニーには特に不満があった訳でもなく、林道走行やアウトドアレジャーなど、4駆としての機動力を活かした遊び方を楽しんでいたという。ところが、今を遡ること3年前。会社の上司からの一言で、そのカーライフは大きな転機を迎える。

「上司は『R.10.N(ルート10延岡)』というモータースポーツクラブの部員で『クルマ好きみたいだから、一度ウチのイベントに遊びにおいで』と、声を掛けられたんです。そのイベントとは、クラブが主催する高千穂を舞台としたJAF公認競技“ひむかラリー”でした。せっかくだからと、見るだけでなく色々と裏方のお手伝いをさせて頂きました」

「初めて目にするラリー競技でしたが、マフラーからの音やタイヤの焦げた匂いなど、非日常的な空間にワクワクした気持ちになり、僕はやっぱりクルマが好きだったんだ! と改めて実感しました。それと同時に、飛び込むなら今しかないと思い立ち、上司に相談してクラブに入会しました」

自分が住んでいる地元の町で、こんなすごいイベントが行なわれていたのかと、すっかりラリーの世界に魅了されたオーナーさん。オフィシャルとしてだけでなく、いつかは自分も競技に参加してみたいとB級ライセンスを取得。その後、ベースとなる車両探しを始めようとしていた時に、クラブ員が集まる会議室に貼られていた一枚のポスターが目に留まる。そこにメイン写真として掲載されていたのは熊本のご当地キャラクター、くまモンがボディに描かれた真っ赤なRX-8(SE3P型)だった。

「カッコ良いと思っただけでなく、乗りたい! と、なぜかそのクルマに強く惹かれました。しかもSNS上で競技車両として売りに出されていることを知り、いよいよ運命的なものを感じ、クラブの先輩を通じてクルマの持ち主であるRC大分所属の選手に連絡を取って頂き、購入する運びとなりました」

「納車は2024年の3月。場所は大分のフェリーターミナルでした。船からRX-8が降りて来た瞬間、“ついにこの日が”と感動を覚えると共に、数々の戦歴を持つ正真正銘のラリーカーを、前オーナーから引き継ぐことへの使命感に体が震えたことを今でも覚えています」
車体は、購入後にクラブ員の手助けを得ながら、現在のレッドカラーへと全塗装された。

このように、最初は競技の円滑な進行をサポートするお手伝い役という立場だったはずが、短期のうちに実戦への参加に向けた大きな一歩を踏み出した。デビュー戦となったのは前年に裏方として手伝った、ひむかラリーの2024年ラウンド。と言っても、この時はRX-8のドライバーとしてではなく、ランサーエボリューションを駆る選手のコ・ドライバー(以下:コ・ドラ)という役どころだった。

「とにかくやることが多くて想像の何倍も大変でした。本番前日はレッキといって、実際のコースを2回、試走できます。1回目はドライバーが話す内容をペースノートに落とし込み、2回目はコ・ドラがノートを読み上げながら擦り合わせや修正を加えます。そして本番。コ・ドラはドライバーの言葉を取りこぼさないとか、コマ図をロスト(見落とす)したら、すぐ“ロスト!”と伝えることが大事。あれ? っと悩んでいる数秒間で、3つ4つとコマ図が進んでしまうので、そうならないように集中力が必要ですね」

「そして、コ・ドラには酔い止め薬のアネロンは必需品。これを飲まないと絶対に戻してしまいます。私も最初、戻してしまいました(笑)。ペアを組んだ選手は久しぶりの競技復帰でしたが、私の至らなさでミスを連発しながらも何とか完走。申し訳ない気持ちでいっぱいでしたが、ゴール後に『おかげで20数年ぶりに完走できたよ』と声を掛けて頂き、二人で泣きました」

こうして、ますますラリーの魅力にのめり込み始めたオーナー。その後、2度のコ・ドラを経験した後、昨年10月、大分県豊後大野市で行なわれたモータースポーツクラブRC大分主催のラリー競技『EAST九州2024』で、遂にRX-8のドライバーとして参戦する機会を得た。

車両のセットアップについては、ロータリーエンジンの特性について豊富な知識と実績を持つクラブの同僚が担当。コ・ドラは60代の新人ということで、事前に2人でじっくり話し合いを行ない『おそらく、大半のことが予定通りに運ばないだろうから、とにかく安全に、完走を目指そう!』という目標のもと、本番に臨んだとのこと。

「憧れだったRX-8での実戦ということには、感慨深いものがありました。最初は私に乗りこなすことができるのか不安でしたが、先輩がキッチリ仕上げて下さいました。ちょっと例えが変ですが、このクルマはまるで象が鳴くように走るんですよ。パオーンとかヒューンとか、普通のクルマと違う排気音がして面白いです」

「競技の結果、完走という目標はクリアできましたが、クラス4台中の4位。3位に対し1kmあたり5秒遅れと、内容はお世辞にも誉められたものではありませんでした。とはいえ、参戦1年目でドライバーとコ・ドラの両方を経験できたことは大きな財産になったし、どちらの気持ちも私なりに理解できました」

「ドライバーは運転の技術で勝ちたいと頑張ってくれるし、コ・ドラもペースノートに注意しながらカーブミラーとか、路面に砂が多くて危ない場所を瞬時にチェックしたりと、それぞれに苦労する部分があって、その積み重ねを行ないながら共に勝利を目指していく過程が重要です。ドライバーとコ・ドラ、お互いが二人三脚の気持ちでないとラリーは勝てませんね。そこがこの競技の奥深さであり、面白さなのだと思います」

ラリーには、ひと言では語り尽くせない楽しさや達成感を得られる一方で、エントリー費の他、車両の部品代や宿泊費など、その付帯費用をいかにして捻出するかという現実的な問題があるのも事実。

それでも、まだ26歳という若さのオーナーには、モータースポーツシーンのエントリー層の拡大という点においても、寄せられる期待は大きいはず。RX-8を駆って、より速く、より強く、さらなる高みを目指すオーナーさんに心からの声援を送りたい。

(文: 高橋陽介 / 撮影: 平野 陽)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:宮崎県林業技術センター/森の科学館(宮崎県東臼杵郡美郷町西郷田代1561-1)

[GAZOO編集部]

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