幼い頃に恋した“わたスキ”セリカ。憧れをカタチにした、36歳オーナーの情熱
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トヨタ・セリカGT-FOUR(ST165型)
時代や流行を映すクルマたちは、映画やドラマといった映像作品の中で象徴的な役割を果たすことが多い。なかには、作品の人気に後押しされて爆発的なセールスを記録したり、劇中車を忠実に再現するファンが現れたりすることもある。
今回紹介するのは、1987年式トヨタ・セリカGT-FOUR(ST165型)を“劇中車”として完全再現したオーナー・SALLOTさんだ。
1987年公開の映画『私をスキーに連れてって』といえば、セリカGT-FOURの登場があまりにも印象的だ。
バブル前夜の軽快な空気感とおしゃれな映像、そして雪道を豪快に走るセリカの姿。壁にぶつかりながらUターンを決め、大ジャンプを披露するシーンは、今なお多くのクルマ好きの心を掴んで離さない。
そんな映画をキッカケに、SALLOTさんがセリカを手に入れたのは5年ほど前のこと。ちなみに、SALLOTさんは2025年現在36歳というから、『私をスキーに連れてって』は生まれる前の映画となる。それにも関わらず、幼い頃からお気に入りの作品だったという。
「親から聞いた話ですが、4歳の頃には『わたスキ』を見るためにビデオの再生方法を熟知していたそうです。だから勝手に『わたスキ』を何度も見て、自然とセリカが好きなクルマになりましたね。運転免許を取って愛車を手に入れようと考えた時は、さすがに古いからと諦めていたんですが、同い年の知人がセリカに乗っているのを見て長年の憧れに火が点いてしまい、購入を決意したんです」
もちろんターゲットは劇中車として登場していたST165前期型のGT-FOUR。しかもボディカラーはホワイトで、サンルーフ付きという超ピンポイントな条件で探していたため、見つけるのは至難の業だったという。
「ST165前期のGT-FOURは1年も販売されていなかったので、それ自体を見つけ出すだけでも大変でした。しかし、狙い通りのクルマが島根県の中古車屋さんにあると知って、即購入を決めたのが5年くらい前のことです。当時はコロナ禍で、人に会うのも制限されていた時期だったので、現車確認ナシでの購入でした。でも、これと同じ仕様のクルマが次に出てくるって保証はありませんから、このチャンスを逃しちゃダメだと思ったんですよ」
GT-FOURは3S-GTEエンジンを搭載したフルタイム4WD。グループA車両のホモロゲーション用として発売されたモデルでもあり、エンジンの仕様などは違うものの1990年にはWRCタイトルに輝くなど、日本の自動車メーカーとして初の栄誉を手に入れている。この歴史的快挙は、往年のラリーファンにとって特別なモデルとして語り継がれているのだ。
購入後、SALLOTさんは長く乗り続けるための予防整備として4年前にエンジンをオーバーホール。ボディも純正カラーにリペイントし、細部まで美しい状態を保っている。
「オーバーホール時にエンジンを開けてもらったところ、ショップからは“オイル管理も良好で特に悪いところは見られなかった”と言われました。けれど、現車を確認せずに買ったクルマなので、メンテナンス歴とか状態の把握ができていなかったので、オーバーホールしてリフレッシュすることで、これから先の管理がしやすくなったかな。同時にボディも純正カラーで塗り直したので、気持ち良く乗れるようになりましたね」
SALLOTさんが前期モデルにこだわったのは、前期/後期の違いで各部のデザインが劇中車と大きく異なってしまうから。特にテールランプは後期モデルになると上下で分割された形状となるし、グリルなどにも差異があるため、完全トレースを考えるなら当然前期モデルがベストな選択肢となる。
また、スキー好きの家庭で育ったSALLOTさんにとって、映画の記憶は“家族との冬の思い出”とも重なるという。そのため今もスキーシーズンになると、もう1台の愛車・レガシィで雪山へ向かうという。
ボディサイドに貼られたステッカーは、マグネットによって取り外しできるように工夫されている。細かい部分のデザインなどは、同様に『わたスキ』セリカのレプリカを作っている知人からベースのデザインを提供してもらっている。とはいっても、まだまだ完璧とは言えず、足りない部分などもいくつか存在しているのだとか。
また、劇中車で貼られていたフロントウインドウ上のステッカーは、イベントスペシャルとして脱着可能な透明シートを活用して貼り付けている。もちろん、公道で走らせる際にはボディサイドのマグネットと同様に、簡単に剥がすことができるのだという。
こだわりはベース車両やステッカーといった装飾だけでなく、搭載するスキーキャリアにも熱い思いが込められている。というのも、劇中車で使用されているものと同様のスキーキャリアは、高校生の頃から探し求めていたもの。苦節15年にしてやっと手に入れることができたというSALLOTさんにとってはお宝なのだ。
「映画の中ではコレだっていう明確な製品名などは見当たらないんですよね。だから映像から形状などを吟味して、それに見合う製品を調べていったんですが、やっぱりこれも中古市場ではなかなか見つけることができなかったんです。でも、3年ほど前にようやくネットで見つけることができ、やっと理想として思い描いていたカタチが完成しました」
劇中車の完全再現と合わせ、スキー板やブーツも劇中で使用されたものをトレース。板に関しては劇中で使用されたものと同様に、ブランド名のSALLOTのシートを貼って自作。さらにストップウォッチなどの小物は、デジタルリマスターによって映像が綺麗になったブルーレイを購入し、コマ送りで同じ製品を見つけ出したという執念の逸品だ。
センターコンソールに収まるオーディオは、ソニーが初の車載デッキとしてリリースしたアイテム。さらに下段にはパーソナル無線を搭載するのも劇中車同様。こういったアイテムも同じものを見つけ出し、なおかつ実際に使える状態で装着しているのは、幼い頃から憧れていた『わたスキ』セリカに近づけるためのこだわり。
あとは、1986年製造のウィランズ製4点式シートベルトが手に入れば、室内はさらに完璧度を増すのだとか。将来的にはさらに再現度を極め『私をスキーに連れてって』の原作、監督を務めたホイチョイ・プロダクションのお眼鏡に適えば…なんてことも想像しているという。
ダッシュマットやキーホルダーに関しては、劇中車にはないものの、SALLOTのブランドロゴを自作して取り付けている。この辺りは『わたスキ』愛が溢れ出してしまい、オリジナルのアレンジになっているが、必要に応じて取り外すことができる範囲にとどめている。
「自分が知っている『わたスキ』セリカのレプリカは5台ほどで、その中で前期モデルをベースにしているのは自分と友人の2台、さらにサンルーフ付きとなるとこれ1台なんですよ。すごく細かいことになっちゃうんですが、ゲレンデを走り回ったあのセリカの再現度で言えばかなりリアルにできているのかなって思います。ちなみに、今日は街乗りシーンで装着されていたノーマルホイールをセットしていますが、雪道を爆走していたシーンで使用した同じホイールもストックしていますので、抜かりはないです(笑)」
実は、今年の2月には苗場で行なわれたTOYOTA GAZOO Racingのイベントで雪上デモランを披露したというSALLOTさんのセリカ。スキー場で主役を張ることができたのは大切な思い出となったことは間違いないだろう。
「このセリカを手に入れてから、いろんな出会いがありました。同じ思いで『わたスキ』セリカを作っている人や、懐かしんで声をかけてくれる人など、これまで出会うことのない人とも接することができました。その結果、苗場のイベントにも繋がったのは思いもよらなかったですね。でも、こうした出会いを導いてくれるセリカに巡り合うキッカケとなった『わたスキ』は、自分にとって人生最高の映画と言えますね」
この一台には、時代を超えて受け継がれる“憧れ”と“情熱”が詰まっている。
幼い日の記憶と夢を、いま現実のカタチにした愛車。それが、SALLOTさんの“わたスキ・セリカ”だ。
(文: 渡辺大輔 / 撮影: 堤 晋一)
※許可を得て取材を行っています
取材場所: 埼玉スタジアム2002(埼玉県さいたま市緑区美園2-1)
[GAZOO編集部]
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