還暦の節目に手に入れた“赤いちゃんちゃんこ”ならぬ 真っ赤なコペンGRスポーツ

  • GAZOO愛車取材会の会場である島根大学 松江キャンパスで取材したコペンGRスポーツ(LA400K型)

    コペンGRスポーツ(LA400K型)


1970年代後半に国内を席巻したスーパーカーブームや、漫画『サーキットの狼』などの影響を受け、クルマ好きになったという『おきあきお』さん。18歳で運転免許を取得した後は、パルサークーペ(N10型)に始まりスターレット(EP71型)、カローラレビン(AE101型)、ミラージュ・アスティ(CJ4A型)など、マニュアルミッションの国産スポーツモデルを乗り継いできた。

「若い頃、モータースポーツにハマっていたんです。本当は漫画みたいに、サーキットでのレースがしたかったけど、お金が掛かりすぎるのでダートトライアルでレースデビューしました。ところが、これもクルマへの負担が大きくて“このままだとクルマが壊れちゃうな”と思って、途中からジムカーナに転向。主に島根、鳥取のローカル戦に出ていました」

「ジムカーナでの成績は、改めて振り返るほど大したことありません(笑)。ミラージュの後、インプレッサWRX(GDB型)に乗り換えた辺りから、仕事がとても忙しくなってしまい、競技に出る時間が取りにくくなりまして…家族も増えたことだし、そろそろ落ち着く時期なのかなと、レガシィ(BL5型)を購入しました」

インプレッサは『プロドライブスタイル』、『スペックC』と、特別バージョンを2台乗り継ぎ、レガシィの走りにも好印象を覚えるなど、一時はスバル車ファンになっていたという。しかし、それから数年後にはスバル車がほとんどミッションをCVT化させてしまったため、アウディ・A3へと乗り換えることに。購入の決め手は、キレの良い変速を可能とした、デュアルクラッチ機構を備えたトランスミッション、DSG(ダイレクト・シフト・ギヤボックス)にあった。

「DSGがどんなものなのか、興味があったんです。最初は試乗するだけのつもりだったのですが、アクセルを踏み込んだままギヤがポンポン上がって行く感覚を体感して、これは気持ちが良いなと思って、そのまま購入することになりました」

かつては15年以上もの間、ジムカーナ競技に参加し続けてきた氏にとって、クルマ選びを行う上での重要なポイントのひとつが『ドライビングの楽しさ』であった。それはファミリーカーといえどもハズすことのできない条件で、アウディ・A3はオールラウンドに使える一家のメインカーとして、現在、所有から7年目を迎えているとのことだ。
そんな中、昨年還暦を迎え、ひとつの心境の変化が訪れる。

「無事に60歳を迎えることができましたが、赤いちゃんちゃんこを着るくらいなら、赤いスポーツカーに乗ってみたいなと。それも、これまで乗ってきたようなタイプとは異なった種類のモデルが良いということで、オープンカーが欲しくなったんです。候補として挙げたのは『ロードスターRF(NDERC型)』と『コペンGRスポーツ(LA400K型)』でした。電動だとルーフをサッと開閉できると思って。それからあちこち探し始めて、出会ったのがこのクルマでした」

昨年の春、おきあきおさんの手元にやって来たのは、青空に映える鮮烈なマタドールレッドパールに彩られたコペンGRスポーツ。以前はディーラーの展示用として使用されていた車両ということで、令和元年式ながら走行距離は3000km台と少なく、内外装ともにピカピカ。本当はマニュアルミッション車が希望であったが、あまりの状態の良さに購入を決断したという。

「家族からは特に反対もなく『しょうがないネ』という反応でした。ロードスターRFも気にはなっていたけど、排気量が2000ccなので、アウディとの2台所有を考えると維持費的な部分においてもコペンを選んで正解だったと思います。乗ってみた感想ですか? そうですね、やっぱりオープンカーは気持ちが良いですね」

「購入から1年と数ヵ月が経過していますが、なかなかまとまった休暇が取れず、長距離ツーリングは今のところ未経験なんです。中海(なかうみ)や宍道湖(しんじこ)など、地元界隈のドライブコースに何度か行ったという程度ですね。このクルマで不満というか、もう少しどうにかなれば良いなと思うのは、やはり車体のサイズです。シートを一番後ろまで下げても足元がやや窮屈で、乗り降りもちょっと大変。とはいっても車体は広げられないので、こればかりは人間側が慣れるしかありませんが」

写真を見ても分かるように、おきあきおさんは180cm近い長身で、ルーフをオープンにした際にはウインドシールドのトップ部分から、頭が若干はみ出てしまう状態に。そこでシートのバックレストを倒すと、今度はステアリングまでの距離が遠くなってしまうのだそうだ。

ドライビングポジションの最適化に向け、現時点では暫定策となっているそうだが、ヘッドレスト部にクッションパッドを使うことで対処。今後は、適切なドライビングポジションが取れるように、社外品の延長ステアリングボスを試してみる予定とのことである。

その他、GRスポーツ専用バンパーやBBS製アルミホイール、レカロ製シートなど内外装についてはほぼノーマルの状態が保たれているが、唯一、明確な変更点として目を引いたのは、エンジンルーム内に設置されたDスポーツ製のマスターシリンダーストッパーであった。

「コペンGRスポーツは、標準でフロア周りを補強するブレースが入っているので、ボディ剛性はそれなりにしっかりしているけど、純正ブレーキのヌルっとした初期タッチが気になって、マスターシリンダーの動きを規制するストッパーを付けました。エンジンルーム内に適当な固定場所がなかったのか、少々大袈裟な作りになっていますがフィーリングはかなり変わりましたね」

ドレスアップ的なアイテムではなく、ドライバビリティに影響を与える部分について、入念な対策を施すアプローチは、さすがモータースポーツ経験者と感じさせられる。さらにこの先々は、エンジンパフォーマンス面に関するアップグレードを図るべく、ECUの書き換えによるチューニングも検討されているようである。

「乗りはじめて気付いたことですが、コペンって本当に幅広い世代の方々から支持されているクルマなんですね。自動車系のSNSや動画を検索すると、メンテナンスやトラブル対策に関する様々な情報が山のように出ていて驚きました。その中には、ルーフの接合部からのガタつき音の調整方法など、実際に参考にさせていただいたものもあります」

「今のところ整備関係はディーラーさんにお任せしていますし、オフ会やミーティングといった集まりに参加したこともなかったけど、いつか足を運んで、実用面や長く乗り続けていく上で役立つ注意点などについて意見交換をしてみたいですね。他にも気になる部分はいくつかあるものの、総じて満足しています。もし手頃な条件でロードスターが出てきたら? もう何とも思わないですよ」

さすがに夏場のオープンは厳しいため、今年の秋頃か来年の春あたりには中国地方一周や、山口県の角島(つのしま)への長距離ツーリングにも出掛けてみたいという。

『その時は、まぁ嫁さんも一緒に、ということになるでしょうね』と、少し照れながら語った表情がとても印象的だった。

(文: 高橋陽介 / 撮影: 平野 陽)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:島根大学 松江キャンパス(島根県松江市西川津町1060)

[GAZOO編集部]