遂に“新車”で手入れたスープラ。何物にも代えがたい尊い時間を刻んでくれる、我が愛車と過ごす大人の時間

  • GAZOO愛車取材会の会場である徳島県の『徳島中央公園』で取材したトヨタ・スープラ(DB42型)

    トヨタ・スープラ(DB42型)


2026年をもって生産終了することが発表された、第5世代目となるトヨタスープラ(DB42型)。先代のJZA80型スープラの生産終了から17年もの歳月を経て、2019年に『Supra is Back.』というキャッチコピーを引っ提げて発売された際には、国内外で非常に大きな話題となった。

正式な型式名は『DB〜型』で、後半の数字は搭載エンジンや前期/後期の違いによって様々な組み合わせが存在する。だが、歴代スープラが『70(ナナマル)スープラ』や『80(ハチマル)スープラ』といったように、二桁の数字の愛称で呼ばれていたこともあって、5世代目スープラも便宜上、『90(キュウマル)スープラ』や『A90(エーキュウマル)スープラ』などと、親しみを込めて呼ばれることも多かった。

そんなA90スープラの誕生(=スープラの復活)を、首を長くして待ち続け、念願叶ってオーナーとなったのが『トモ』さんである。

「私が20代前半の頃、最初にクルマの面白さ、走らせる楽しさを教えてくれたのはトヨタ・セリカ(ST202型)でした。実は今も所有しているんですけど、当時はセリカをチューニングしてサーキットを走ることにのめり込んでいました。仲間との貴重な時間を作ってくれたり、結婚式の前撮りを一緒に撮ったり、とても思い出の多いクルマです。その一方で、スープラ(JZA80型)にも強い憧れがあったんですけど、当時の私には手が届くクルマではありませんでした。そうこうしているうちに生産終了を迎えてしまい、新車でスープラを手に入れる夢は失われてしまいました」

『いつかスープラが復活したら、その時は必ず所有しよう』
トモさんがそう心に誓ってから10余年。期せずして、その願いは叶えられた。
まずは2013年にトヨタとBMWの間で“スポーツカーの共同開発”を含む協業が正式に決まり、2014年のデトロイトショーではデザインコンセプト『TOYOTA FT-1』が登場。連日メディアを通して伝えられるスープラ復活の機運に、トモさんは興奮を抑えきれなかったそうだ。

「その後のジュネーブショーで“GRスープラ・レーシング・コンセプト”が出てきて、市販モデルも正式に発表された時には『よしっ! 絶対に買ったる!』と、ガッツポーズしました(笑)」

復活を期待されながらも実現していないクルマは数多くあるが、スープラが復活できた陰には、トモさんのような純粋なファンから送られた『念』も働いたのではないだろうか。
“一念岩をも通す”とは、よく言ったものである。

ちなみにA90スープラが登場した際には、BMWとの共同開発に対する賛否両論もあったが、トモさんはその辺りをどう捉えていたのだろうか?

「今の時代は自動車メーカー同士の協業で成り立っていることが多いですし、私は前向きに捉えていました。コンセプトモデルのデザインもカッコ良かったですし、期待の方が大きかったですね。市販モデルの情報も出てくるようになって、直列6気筒ターボと直列4気筒ターボが設定されることが分かってからも、私は最初から直6一択。やっぱりスープラと言えば直6のイメージですし、4気筒のセリカでは味わえなかったパワーやフィーリングを味わってみたかったんです」

そうしてトモさんが購入した念願のスープラは、最高出力340psを発揮する直列6気筒ターボ搭載の『RZ』グレード。日常のお買い物や、お子さんの送迎といった普段使いもするが、もともとGTとしての素質に惚れ込んだクルマだけに、出張などで遠出をする時の走りが最も気に入っているそうだ。

「若い頃は、クルマはカスタマイズしてなんぼと思っていましたが、今はノーマルの良さを楽しんでいます。唯一変わっているのは、カーボン製のトランクスポイラーですかね。あ、そうそう、トランクと言えばもうひとつ面白いものがあるんですよ(笑)」

そういってトモさんが我々に見せてくれたのが、トランクルームに忍ばせた金属製のトレー。なんとゴルフバッグを縦にすっきりと収納するために、ワンオフで製作したものだそうだ。

「スピーカーボードの真ん中が窪んでいて、いかにもゴルフバッグを置きやすそうに作られてはいるんですけど、手前に段差があるのでどうしてもゴルフバッグが斜めになっちゃうんですよね。それだと載せ下ろしするときに苦労するので、自分で図面を引いて、うちの職人さんに作ってもらいました(笑)」

工場などの製造現場で使われる機械を製作する会社を経営しているトモさん。金属の板を切ったり溶接したりする作業は日常茶飯事ということで、自分が理想とするA90スープラ車種専用ゴルフバッグ収納トレー(?)を、社長権限で作ってしまったのである。

「走るためだけに存在しているようなフォルムだったり、走りのために居住スペースや視認性を犠牲にしている点は、ピュアスポーツとしてむしろ好ましいと思っています。ただ、サーキットを走ることだけが目的だったら既にセリカを持っていますし、スープラでは“走り”と“ホビー”をバランス良く楽しみたいんですよね」

「トランクにトレーをつけたことで、ゴルフ場でもスマートにゴルフバッグを出し入れできるようになりましたし、我ながらよくやったなと(笑)。あとはスロットルコントローラーのように、見た目に影響することなく、レスポンスやフィーリングだけを自分好みに調整できるようなカスタマイズを、今後は取り入れていきたいなと思っています」

かつてはTIサーキット(現・岡山国際サーキット)で、シビックのN1レースに参戦した経験もあるトモさん。乗り方を変えたらクルマの動きがどう変わるか、パーツを変えたら走りがどう変わるかなど、自分なりのやり方でクルマやコースを攻略していく楽しみ方も心得ている。

走りに関した経験をバックボーンとしているからこそ、スープラに関しては分別のある大人として、ノーマルでも十分に楽しめる特性を味わい尽くす。そして、時には目立たない範囲でカスタマイズを楽しむこともヨシとしているわけだ。

「セリカもスープラも、私にとってはエターナルな存在です。時代ごとの流行に関係なく、これはこれというスタイルがあって、やっぱりイイな! って思うんですよね。子供が3人いるんですけど、もう少しで長男が運転免許を取る予定なんです。現在はひとり暮らしをしていて、帰省してくると一緒にクルマに乗って出掛けたがるんですよね。いつかは“愛車の鍵を子供に譲る”というのも夢のひとつだったので、それも近々叶うかもしれません(笑)」

トモさん自身も子供の頃、お父さんやお祖父さんのクルマに乗せてもらったことがきっかけでクルマ好きになったという。
そんな今。自分も子供たちにクルマ好きのDNAを引き継いでいけることに、最大の喜びを実感している。

(文: 小林秀雄 / 撮影: 平野 陽)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:徳島中央公園 (徳島県徳島市徳島町城内1-番外)

[GAZOO編集部]