父から子へ、そして次の世代へ。家族の記憶を乗せて走り続けるパジェロは『家族の一員』
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三菱・パジェロ(V45W型)
1980年代から1990年代のクルマを『ネオクラ』や『ヤングタイマー』と呼び、当時を知らない若い世代にも人気が高まっている昨今。28歳という若さで、95年式の三菱の2代目パジェロ(V45W型)に乗っている『dすけ』さんも、一般的にはそんな流行に乗った若者のひとりに見えるかもしれない。
だが、じっくり腰を据えて話を伺うと、むしろそんな見方をしてしまうと申し訳ないと思ってしまうほど、深くて濃い“パジェロ愛”に満ちた、生粋のパジェロファンであることがわかった。
dすけさんがパジェロにハマったキッカケは、現在50代前半というお父さんの影響。お父さんは、dすけさんが今乗っている3.5リッターのV6ガソリンエンジンを搭載したV45W型パジェロを、当時新車で購入した筋金入りのパジェロ好きだそうだ。
「物心ついたときから家のクルマがパジェロでしたし、家族で河原へバーベキューに出掛けたりとか、昔の記憶には必ずパジェロも想い出の一部として残っていますね。ミニカーとかラジコンとか、買い与えられるオモチャも全部パジェロでしたから、好きになるのはごく自然な成り行きだったと思います(笑)」
そんな風にパジェロとの出会いを説明してくれたdすけさん。学生の頃に運転免許を取得して、最初に運転したクルマもお父さんから譲ってもらったパジェロジュニアだったそうだ。パジェロ好きの息子だからパジェロジュニアというのは至極真っ当な流れではあったのだが、成長過程の男の子というのは多かれ少なかれ親に反抗したくなるもの。その後、社会に出たdすけさんが初めて通勤用に自分で購入したクルマは、こともあろうにパジェロ最大のライバルである、トヨタのランドクルーザー(80系)であった。
「世間的にはパジェロよりもランクル80の方が人気でしたし、僕も若かったから、素直にパジェロに行けないところがあったんですよね(笑)。それからランクル80には3年くらい乗ったんですけど、故障も増えて維持が大変になってきたのを機に買い替えを意識するようになりました。それでやっぱり大好きなパジェロを買おうと決心して、初めて買ったのが最終型(4代目)であるV98型のパジェロだったんです」
3年という月日は短いようで長く、少なくとも男の子の中で理不尽に燃え盛る“親への反抗心”が冷め、成長の階段を一段上るには十分な時間であっただろう。素直に自分と向き合う勇気を持てたdすけさんが、初めてパジェロを購入することには、お父さんも大賛成してくれたそうだ。
「いざパジェロに乗り始めると気分が解放されたからか、今度は一気にパジェロ熱が天井知らずに上昇してしまいまして(笑)。そうすると、改めて自分の中で一番想い出深いパジェロといったら、やっぱり父が乗っていた2代目でしたから、いつかは自分で所有してみたいという思いが強くなっていきました。それからというもの、中古車情報は毎日欠かさずチェックしていましたね」
2年前に結婚し、子宝にも恵まれたdすけさん。今度は自分が父親の立場となったことで、強い責任感も芽生えた。せっかく高年式のパジェロを所有しているのに、それより古い型のパジェロに買い替えることに躊躇がなかったわけでもない。
最初のパジェロ購入時は喜んでくれたお父さんからも、今度は『もう子供もいるんだし、出先で止まったりしたら困るからやめとけ』と、釘を刺されていたそうである。
だが、昔から“恋は病”という格言(?)がある通り、中古車情報を毎日毎日チェックしていると、そりゃまあ、意中のクルマと出会うことのひとつやふたつはあるわけで…走行距離5万7000kmのワンオーナー車、エンジンだけでなく年式もボディカラーも当時お父さんが乗っていたのと同じという奇跡的な車両が、東京都内の販売店から売りに出されているのを発見してしまったという。
「気がついたら、もう買っていました」と、やはり熱病に浮かされていたとしか思えない不可解な行動を取っていたそうだ。
「父がこの型のパジェロを手放したのが、僕が小学校2年生の頃だったので、大人になって改めて乗るとこんなに狭かったのかと驚きました(笑)。買ったことも何も告げずに、そのまま実家に乗って行ったんですけど、父も『お前、アホやろ』と言いつつ笑っていましたね。実家にいる間『ここは普段からやっとけよ』と勝手にグリスアップしてくれたりして、なんだかんだ喜んでくれていると思います」
奥さんには「ワンオーナー車だから壊れないよ!」と言って説得したそうだが、購入して一週間後にエアコンが故障。さっそく旧車の洗礼を受けることになったそうだが、出張取材会に同行してくださった奥さんにも、購入当時どう感じていたのか伺ってみた。
「私も当初は古いクルマに買い替えることには反対だったんですけど、家の中には2代目パジェロに関するものしか置いてないので、逆になんで今まで持ってなかったの? とも思っていました(笑)」
そう朗らかに教えてくれた奥さん。恐らくは、“まぁそこまで好きなんだったらしょうがないのかな”という諦めに似た感情と“そこまで好きなんだったら自分でどうにかするんでしょう”という期待が綯交ぜになっている感じとお見受けした。
1歳7ヵ月の娘さんには、父親がどれほどのパジェロ好きかを理解するにはまだ早すぎるだろうが、dすけさんの英才教育はすでに始まっている。
「自分が子供の頃に買ってもらったのと同じ、パジェロのペダルカーをたまたま発見して、娘に買ってあげたんです。古いおもちゃ屋さんに残っていたデッドストックの新品だったんですけど、それもたまたまX(旧Twitter)に掲載された写真に小さく写っていたのを知人が見つけて教えてくれたんです。娘もすっかり気に入ってくれて良かったです」
知人がたまたまSNSで見かけたペダルカーの写真を『これはdすけさんに教えてあげなきゃ!』と思ったのも、いかにdすけさんが普段から周囲にパジェロの話ばかりしているかの証左であり、dすけさんに備わる人徳のおかげとも言えるだろう。
dすけさんは徳島県出身だが、現在は仕事で香川県に住んでいる。いつもお世話になっている高松のディーラーにも、最初は“古いクルマに乗っていくと嫌がられるかな”と思ったそうだが『よくぞこんなにキレイなクルマを見つけてきましたね!』と逆に喜ばれたそうだ。
愛知県で年に一度開催されるパジェロのミーティングに参加すると、意外に同世代のオーナー仲間も多いほか、三菱自動車の関係者や整備士とも出会うことができた。「何か困ったことがあったら、すぐに連絡して」と、心強いサポートも得られているという。
「当時父が持っていたカタログは、僕が3歳の頃から読み過ぎてボロボロにしてしまいましたから、買い直したものもあります。パジェロに関する雑誌やグッズなどもしょっちゅう買い集めていますが、クルマを買った後に入手したバイヤーズガイドで後から知る新情報とかもあって飽きないですね(笑)。ラジコンは今では結構な高額商品なのでめったに外には出さないんですけど、今日は記念なので持ってきました!」
長年かけて買い集めてきたコレクションを手に、満面の笑みを浮かべるdすけさん。本当に好きな物に囲まれて過ごす幸福をストレートに表現してくれるので「そんなに好きなんだったら、なんとかしてあげなきゃ」と、家族や友人が思ってしまう気持ちが、なんとなくわかる気がした。
今は毎朝パジェロで通勤するが、その前に娘さんを園に送っていくのが日課。キーレスはついていないため、愛娘を抱っこしたまま鍵でドアロックを解錠するのは、なかなかの重労働だ。だが、これまたお父さんの影響で学生時代に始めたラグビーのおかげで、体力には自信がある。
腕にしっかりと感じる命の重みと、重厚感のあるドアの開閉音は、dすけさんにとってどちらも掛け替えのない存在。鍛え上げた身体と精神力が、今になって役立っている。
「音楽も父の影響でサザンばっかり聞いていて、同世代の友人と一緒にいる時は、なんだかひとりだけ昭和を生きているような気もしてくるんですよね(笑)」
なんのなんの、今思えば昭和ってイイ時代でしたよ。ちょっとだけ昭和を生きている令和のヤングファミリーと、その愛すべきファミリーカーのパジェロの未来に、幸多からんことを。
(文: 小林秀雄 / 撮影: 平野 陽)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:徳島中央公園 (徳島県徳島市徳島町城内1-番外)
[GAZOO編集部]
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