「僕はこのクルマじゃないと、ダメなんです!」パジェロエボリューションを2台乗り継ぐオーナーの熱意と努力

  • GAZOO愛車取材会の会場である『米子駅前だんだん広場』で取材した三菱・パジェロエボリューション(V55W型)

    三菱・パジェロエボリューション(V55W型)


世界でも屈指の過酷な競技として知られるダカールラリー。その市販車改造クラス(T2クラス)に参戦するためのホモロゲーションモデルとして、1997年に発売された三菱パジェロエボリューション(V55W型)。
最高出力280psを発生するMIVEC(可変バルブタイミング機構)付き3.5リッターDOHC・6G74型エンジンや、リヤ側をリジッドアクスルから独立式に変更した4輪ダブルウィッシュボーンサスペンションの採用など、数々の専用メカニズムが満載されたモデルだ。

クロカン版エボリューションとして大いに話題を集めたいっぽうで、2ドアのショートボディ版のみの設定だったことや、当時としては高額な400万円近い新車価格であったことなどから、約2年間の生産期間における総販売台数は2700台弱(諸説あり)にとどまっている。
そんな希少なモデルを2006年から愛車としてきたのが、鳥取県在住の『ターチェン』さんである。

「元々スポーツタイプのクルマが好きで、運転免許を取ってからは2代目のインテグラ(DA6型)、プレリュード(BB1型)と2ドアクーペを2台乗り継ぎました。4WD車の面白さを知るキッカケとなったのは初代のCR-V(RD1型)でした。ただ見た目は4WD風だけどクルマの作り自体はオンロード寄りだったし、スポーツカーの感覚に慣れていたこともあってパワー不足が悩みとなっていました。そこで、せっかく4WD車に乗るならもっと振り切ったキャラクターを持っているヤツをと思い、パジェロエボリューション(以下、パジェロエボ)に目をつけたんです」

ブリスターフェンダーで武装した迫力のワイドボディや、競技シーンでの華々しい活躍もこのクルマを選んだポイントだったというターチェンさん。早速、知り合いの販売店に物件探しを依頼。
ちなみに当時(2000年代初頭)の中古車市場では、まだ丹念に探せば複数台の物件が見つかり、比較検討を行なう余地も残されていたそうだ。それでも好みの仕様がなかなか見つからず数ヵ月かけて探した結果、シルバーのパジェロエボがターチェンさんの元に納車されることとなった。

「とにかく手に入れられたことが嬉しくて、四国一周のツーリングや趣味の登山で富士山まで出掛けたり、クルマの特性的に不向きだと分かっていながらサーキットを走らせたり、ジムカーナにも何度か出場しました。カスタムについてもホイールやシートの交換なども行い、ボディカラーもブラックに全塗装しました。このクルマに詳しい方ならご存知だと思うのですが、エボ用の純正ボディカラーはシルバー、ホワイト、レッドという3色のみ。ブラックの設定は無かったので、結構目立ちましたね」

こだわりのブラックカラー仕様のパジェロエボとのカーライフを満喫していたターチェンさんだったが、走行距離が27万kmを超えた頃からエンジンの微振動が発生。知り合いのショップで詳しく調べてみたところ、クランクシャフトのトラブルと判明。しかし、メーカーからの補修部品の供給はすでに終了していた…。

エンジンを丸ごと換装するにも、国内ではMIVEC非搭載の6G74エンジンならば大型セダンのプラウディアに搭載されていたものの、パジェロエボ専用の6G74を中古パーツ市場で探すのは厳しいだろうと、処遇が決まらないまま不動状態が続いたという。しかし、ここで思いがけない展開が。

仕事中、たまたま通りかかった鳥取市内の中古車販売店にパジェロエボが展示されているのを目撃し、はやる気持ちを抑えつつ仕事を終えた帰り道にお店を訪ねることに。
「本当にどうしてこんな近くに? と驚きました。しかもボディカラーはブラックに全塗装済み! これはもう、私のために用意されたクルマとしか思えませんでした。よくよく実車を調べてみると、過去に県内で見かけたことがあった個体で、その時ボディは黄色に塗装されていました。それが何らかの事情でブラックに塗り替えられ、その後に売却されたようです。そのクルマが販売用としてお店に並んだタイミングと、私のクルマが壊れたタイミングが偶然同時期だったことにも運命を感じ、購入を決めました」

こうして、2台目のパジェロエボを愛車として迎え入れることとなったターチェンさん。約9年間所有した初号機では、長距離ドライブからスポーツ走行まで、アクティブな楽しみ方を満喫していたが、2号機は長期保有を念頭にコンディションの維持にも配慮。購入当初は毎日の通勤にも使っていたが、走行距離を抑えるために普段乗り用としてジムニー(JB64型)を増車したそうだ。

「毎日乗っていれば事故に遭うリスクも増えるし、ブツけられても補修部品はない。そんな現状ですから、1台目の時と比べるといろんな意味で環境が変わりましたね。とは言っても、ガレージに仕舞い込んだままにしているワケではなく、暇を見つけては引っ張り出してオフ会に出かけたり、クルマの進入が許可されている近くの砂浜や雪山なども走らせて楽しんでいます」

「昨年は愛知県で行われた“パジェロを見る会”というコミュニティのイベントにも出掛けて、3台のパジェロエボオーナーさんと会えて感激しましたね。今履いている、レイズ製のホイールもそのイベント関係者の方から譲っていただいたもので、ジムニーでお世話になっている地元のオートルビーズさんでラプター塗装してもらいました。ちなみにこれは今回の取材会のような特別な場所に行く時のためのもので、普段はOZレーシングクロノを履かせています」

イベントで知り合いになったオーナーさん達とは、その後もSNSなどでの交流を続けているという。そこでの話題でメインとなるのは、やはりメンテナンスについてのこと。そして、交換パーツ類に関するものが多いそうで、各オーナーは大なり小なり、色々な悩みを抱えているのが現状だそうだ。

「皆さん、本当に苦労しています。私も去年、スタビリンク部分のブーツに破れが見つかり、純正品や社外品も無かったので、DIY加工してどうにか対処しました。ヘッドカバーのガスケットも代用品が無く、SNS上でも“この先どうする?”って、ザワついていますしね」

「旧車と言えば、大抵どこかのメーカーさんがリプロ品を作っていたりするけど、パジェロエボはクルマ的に特殊過ぎるのか、どこもパーツを作ってないんです。ネットオークションに出てくることも稀で、クルマ屋さんのつながりを通して入ってくる情報に頼るしかないのが現状です。なので、消耗品関係のパーツは普段から話があれば買っておくようにしています」

と、深刻な話が多くなってしまったが、そんな逆境の中でもターチェンさんのパジェロエボへの愛着は冷めるどころか深まる一方。車体に負担を掛け過ぎないよう、コンディションを労りながらも、キャンプやドライブなど、このクルマとの時間を存分に楽しんでおられる。

「1台目は9年で21万km、今のクルマになってからはペースが落ちたけど8年間で7万kmほど走っているので、パジェロエボでの総走行距離は合計28万km以上になります。色々と大変な面もありますが、困ったことに他に目移りするようなクルマが見当たらないので、まだまだ乗り続けますヨ!」

そんな数々の苦労を乗り越えていくことができるのも、同じ悩みを共有している仲間がいるからこそ。近年では、自動車メーカーが往年の名車用パーツの復刻や再販を行なう事例も見受けられるだけに、いつの日かターチェンさんたちをはじめとする熱烈なパジェロエボリューションオーナーの声が、メーカーを動かす時が来るかもしれない。

(文: 高橋陽介 / 撮影: 稲田浩章)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:米子駅前だんだん広場(鳥取県米子市弥生町2-20)

[GAZOO編集部]