新車購入から四半世紀、15万kmの走行でジックリ育ててきた我が相棒

  • 宮城県石巻市のオシカーズのミーティングで取材した日産・スカイラインGT-R(BNR34型)

    日産・スカイラインGT-R(BNR34型)



名機RB26DETTエンジンを心臓部に持つ最後のモデルとして、また第二世代GT-Rの歴史を締めくくるモデルとして、販売終了から20年以上が過ぎた今も根強い人気の日産スカイラインGT-R(BNR34型)。
日本のみならず海外にも熱烈なファンが数多く存在し、新車時の10倍を超えるようなプライスを掲げる中古車も珍しくないといった状況だ。

そんな世界の自動車史に輝かしい足跡を残す名車に惚れ、新車の発表と同時にオーダーしたという人物に『オシカーズ鮎川自動車大博覧会』でお話を伺うことができた。
1999年式のVスペックを四半世紀に渡って乗り続け、カスタムやサーキット走行も楽しむオーナー。まずは氏が『一生モノ』と断言する愛車との出会いから教えてもらおう。

「スカイラインGT-Rは、BNR32が発売された時からずっと欲しいと思っていたクルマなんです。けれど、若かった自分には価格的に手が出せず、その後はR33型のタイプMに乗っていました。BNR34は仕事の関係で正式な発表前に現車を見ることができ、言葉どおりのひと目惚れで、即座に上級グレードのVスペックを契約。鮮やかなベイサイドブルーのボディ色にも目を奪われました」

即決したおかげで、地元の山形県はおろか全国でも類を見ないほど早く納車され、まさにこの愛車がドナーとなって、市販品の第1作目となったカスタマイズパーツも少なくないという。

購入した当時から『コレが最後の第二世代GT-Rになるだろう』と感じてはいたが、以前の愛車も「ノーマルで乗ったことは1台もない」と豪語するだけあり、早々に過酷なサーキット走行を見据えた各部のカスタムがスタートする。

真っ先に手を入れたのはマフラーだ。選んだのは保安基準に適合するHKS製のハイパワーマフラーで、なんと約25年の年月が過ぎた現在も使用中。マフラーに限らず非常に物持ちが良いオーナーであるが、その秘訣は「やり過ぎないこと」と静かに語る。一例を挙げればタービン。500psや600psといったハイパワーは確かに楽しいし操り甲斐もあるが、耐久性や扱いやすさといった面ではデメリットも少なからずある。

BNR34を手に入れた当時は、ECUや油脂類の性能が今ほど高くなく、過度なチューニングはトラブルが出る確率とトレードオフになることが多かったとのこと。そこでタービンはあえて社外品には手を出さず、現在もノーマルを使い続けているそうだ。

「一時は、ニスモ製タービンへの交換も考えたこともありました。でも極端なパワーは初めから望んでいなかったし、低回転域からのトルクやレスポンスにも不満はありません。購入して間もなく、某プロショップでセッティングをしたのですが、HKS製のエンジンコンピューター『FコンVプロ』の味付けが自分の走りや好みに合っているので、社外タービンの必要性を感じていないというのが正直なところですかね」

何台ものチューニングカーを乗り継いだオーナーさんが、心の底から満足しているECUの現車セッティングとは、いわゆる『ブーストアップ』というもので、それを施すと370~400psのエンジンパワーとなる。

ドラッグレースや、ストレートの長いサーキットであればやや物足りないかもしれないが、メインのステージはコーナーが連続するスポーツランドSUGOや間瀬サーキットだ。そういった場合には高めのブースト圧設定でハイパワーを楽しむいっぽう、通常は扱いやすさは当然としてタービンや駆動系の負担が少ない低めのブースト圧設定で過ごしているという。

走行距離は15万㎞に達するも、現在も年に何度かサーキット走行を楽しみながら、タービンとミッションは新車時のままでオーバーホールすらしていない。エンジンは『N1仕様』と呼ばれるシリンダーブロックを使っているものの、大がかりなメンテナンスもなくコンディションを維持しているのは、同じGT-R乗りじゃなくともにわかには信じがたい事実であろう。

「ECUのデータ書き換えも最初にお願いしたとき以来、不満がないので一度もリセッティングしていません。壊れずに乗りやすく適度に速い、それが自分にとっての100点です」

ちなみにサーキット仕様では強化がお約束となる冷却系も、ラジエーターは純正のままで、オイルクーラーのみを装着。このあたりもパワーを適度に抑えたがゆえの恩恵といっていいだろう。

いっぽう妥協せずにこだわったのはサスペンションだ。
「昔はコレ1台で通勤から娘の保育園の送迎まで何でもやっていました。また今回の『オシカーズ鮎川自動車台博覧会』のような、ツーリングを兼ねてイベントに参加するというのも大好きです。だからこそ足まわりはサーキットに特化せず、一般道の乗り心地や気持ち良さにもこだわりました」

試行錯誤を重ねてたどり着いたサスペンションの結論は、オーリンズ製の車高調整式サスペンションがベース。当初は、決して軽くないボディとのマッチングを考慮して、スプリングは12㎏/mmからセットアップを開始。それが硬すぎだと感じ、正解を求めて1㎏/mm単位でレートを下げていった結果、フロント9㎏/mm、リヤ8㎏/mmに落ち着いたという。

高いグリップ力で知られるラジアルタイヤ、ポテンザRE-71RSとのマッチングも上々で、ストリートからサーキットまで不満はないそうだ。

もうひとつのコダワリはアライメントである。年に何度かのサーキット走行をライフワークとしており、室内にロールケージが組み込まれているにも関わらず、純正ホイールであることに違和感を覚えた人も多いはず。
オーナーさんに訊ねるとアライメントを優先した結果で、以前は軽量な社外品のホイールを使っていたという。

ところがある時『キャンバー角を付け過ぎでいるのではないか?』との疑問を抱き、試しにポジティブ方向に少し起こしてみたら、明らかに曲がりやすくなって、以前よりもタイムアップを果たせたのだ。そのキャンバー角に合わせてホイールのオフセットを再考したところ、ベストだったのがなんと出番を失くして眠っていた純正ホイール。結果として加速・減速・コーナリングとすべての面において向上し、25年を共に過ごした相棒は「今が完成形です」と太鼓判を押す。

とは言え、経年劣化を感じる部分もある。BNR34のイメージカラーであるベイサイドブルーは色褪せが進み、下まわりなどには深刻な状況ではないが、所々にサビも見受けられるようになってきたそうだ。

今後は『レストア』に手間とコストを割き、外観はノーマルにこだわりつつ、維持し続けていきたいと話してくれた。BNR32の登場で『スカイラインGT-R』の虜となり、第二世代GT-Rの完成形として知られるBNR34を、自分なりの完成形へと昇華させてきたオーナー。
ある時はサーキットで、またある時はストリートで。彼と愛車のストーリーは30年目、40年目へ向けてまだまだ続いていく。

(文: 佐藤 圭 / 撮影: 中村レオ)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:鮎川浜山鳥渡し駐車場 (宮城県石巻市鮎川浜)

[GAZOO編集部]

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