【素敵なカーライフレシピ #16】手描きの痕跡“ぬくもり”に魅了された、とある男の非日常。
クルマのある暮らしはオーナーの味付け次第。ひとりひとりの人生を豊かにするレシピは十人十色。どんな調理法でクルマとの生活を楽しんでいるのかに迫ります。
第16回目は、Alfa Romeo GIULIA Sprint GTを手放すことができない建築家の筒井紀博(きはく)さんにご登場いただきました。
筒井さんが所有するクルマは2台。1台が仕事で乗るためのクルマ。もう1台はご自身のモチベーションや癒し、心のバランスを整えるためになくてはならないクルマです。
クルマでゴルフに行く、クルマでサーフィンをするために海へ行く…クルマを移動させることで生まれるのがカーライフですが、筒井さんの場合は、ジュリアが側にある生活こそがカーライフそのものなのです。
「ジュリアは時間をつくって乗るクルマ。30分でも時間があるなっていうときはジュリアに乗ります。仕事で考えがなかなか思い浮ばなかったときや煮詰まっているときに、ジュリアに乗って走らせると良い気分転換になるんですよね。ジュリアに乗っているときは走らせることだけに集中しているので、考えをまとめるために乗っているわけではありませんが、走らせた後に仕事へ戻るとすっとアイデアが浮かぶということもあります」
ジュリアを愛でるだけでも心が癒されるという筒井さん。それは乗り込む前の儀式から癒しの時間が始まります。
「カバーを外したり暖気をしたり、ジュリアは走りだす前に時間がかかるのですが、その乗る前の準備の時間も“これからジュリアと出かけられる”という高揚感が少しずつ増えていくうれしい時間。…日常の喧噪から非日常へのスイッチが入っていくような感覚がありますね(笑)」
クルマの準備が整い、走りだすと心はどんどん無に近づいていくという筒井さん。
「運転しているときは本当に他のことが考えることができなくなり、雑念が遮断されていきます。タコメーターの動き、振動、オイルの焼けるニオイ、車内中に響くサウンドなど、さまざまな要素があいまって五感に訴えてくるので、それを素直に受け取り、ただただ走らせることができる。完全にクルマと対話しているような感覚です。何でもない日常の道であっても、ジュリアに乗れば走りだした瞬間から風景が変わります。―――だから逆に仕事が多忙すぎて乗れないことが最大のストレスです」
いまや2台のクルマが手放せなくなった筒井さんのクルマ生活は、18歳のときに乗り始めたゴルフⅡから始まります。2台目の愛車はキャブ車の最終型のミニ。このミニをきっかけにクルマのチューニングにはまり、サーキット走行会へ出かけるように。
そしてある日の走行会。筑波サーキットの裏ストレートで、筒井さんが走らせるミニを豪快に抜いていったアルファロメオの走りゆく様を見て、ジュリアスーパーを買うきっかけになりました。
「当時は建築設計事務所を独立したばかりで、ジュリアスーパーの1台体制。(クルマのトラブルで)仕事先にたどり着けないことがあり、ご迷惑をおかけしたこともありますね(笑)」
独立したばかりでクルマを2台所有することはままならず、仕方なく妥協して仕事にも使えるクルマに乗り換えた筒井さんですが、これが大きなミスリードとなります。
「ダメだったんですよ、本当に。僕にとってクルマを走らせる喜びは、格別のものだったことをそのとき改めて自覚しました。自分が楽しいと思えるクルマに乗らないと、生活も仕事も全く上手くいかないんです」
人生のバランスをとるためのクルマと、生活をするためのクルマが必要だということに筒井さん自身が気がついた瞬間でした。
明確に自覚したこともご縁を運んだのか、とあるガレージで白いジュリアスーパーに一目ぼれした筒井さんはさっそく購入。その後、結婚し子どもが誕生したのを機にクルマを増車。それ以来、ずっと2台のクルマのある暮らしを継続しています。
「仕事用のクルマですが、何でもよいわけではなく、湘南や葉山、那須など移動は高速道路を使って長距離を走ることも多いので、心身共に疲れないクルマを選んでいます。走りよりのクルマにするか、そのときの仕事の用途に合わせて利便性よりにするかは、購入するタイミングで多少変化しますね」
写真左は仕事用のクルマとして手に入れたアウディS3セダン
時折、息子さんをジュリアに乗せて出かけることもあります。でもジュリアはエンジン音が大きいため、とくに走らせているときは車内で会話をするのは難しいようです。
そんな中でふと信号待ちで助手席を見ると、気持ちよさそうに寝ている息子さんを目にすることもあるとか。賑やかなサウンドが響く車内で眠れる息子さんもさすがです。筒井さんのクルマ好きのDNAを受け継いでいる証ともいえそう。
「いつか息子が大人になったときに『自分勝手なオヤジに行きたくもないのに連れだされてさ』とジュリアの思い出が語れるように、ジュリアの記憶を刻ませておきたいんですよね。まぁ、これも僕のわがままですが(笑)」
最後に改めてジュリアの魅力について伺いました。
「360度、どこから見ても美しいクルマっていうのはなかなかない。ジュリアがそこにいてくれるだけで落ち着くんです」
「デザインがやはり秀逸。ジュリアのデザインを見ていると、手描きの痕跡が見られるんですよ。僕もスケッチするときは手描きで、何度も何度も、描きます。コンピュータだと1本の線から曲線をいじっていくわけですが、手描きは何回もスケッチすることで線が太くなっていき、無数の線の中から最善の1本を導き出すので、それはもうコンピュータでは描けない線なわけです。だからこそ、そこに“ぬくもり”が宿るのだと思っています。建築も同じで、手描きにはデジタルツールでは出せないぬくもりがあるんですよね」
ジュリアの持つぬくもりの虜になってしまった筒井さん。デザインが持つ力は時を経て、人を魅了する力があるということを、教えられたエピソードとなりました。
(取材・文/鈴木珠美(officetama,Inc.) 写真/村上悦子)
[ガズー編集部]
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