中学生の頃から憧れていたダルマセリカと歩むカーライフ
秋も深まるノスタルジックな風景、そして紅葉とのコントラストが映えるターコイズブルーのトヨタ・セリカ(TA22型)。長野県朝日村のあさひプライムスキー場で開催された『信州サンデーミーティング』の会場で、この1台はひときわ存在感を放っていた。
『ダルマ』の愛称で知られるこの初代セリカのオーナーは、長野県にお住まいの米窪さん。33才の彼がこのクルマを購入したのは22才の時だったというから、オーナー歴は早くも10年以上を迎える。そんな米窪さんがセリカに憧れたのは今から20年前、中学生の時からすでにストーリーが始まっていたという。
「最初に旧車に憧れを持つようになったのは、中学1年の時だったと思います。同じ学校のクルマ好き同士で、仲良くなった友人の家に遊びに行ったらお父さんが買っていたという旧車雑誌が置いてあって。そこに載っていたトヨタ2000GTとか、今乗っている初代のセリカなどを見て、普段街中で見るクルマとは全然雰囲気が違う、日本にもこんな素敵なクルマが存在していたんだな、と」
そこから今に至るまで、時の流れを感じさせるような古い世代の日本車が大好きになったという米窪さん。18才で運転免許を取得すると、最初に手に入れたのは軽快さを売りとしたコンパクトなハッチバックで人気だった、トヨタ・スターレットの最終モデル、EP91型だったそうだ。
「軽くて速くて小さくて。当時はまだ初めてのクルマで、両親に予算の協力をしてもらう立場でしたし、値段もちょうど良かったんです」
後に通勤用のダイハツ・ミラTR-XXを購入して2台持ちになったそうだが、こちらは軽自動車ながらターボエンジンを搭載したスポーツグレードを選択。前出のスターレットも含め、どちらも“軽快でキビキビ走れる”のが共通項で、これらの愛車遍歴からも米窪さんの嗜好が伺える。
そして、米窪さんが19才に差し掛かった頃、今のセリカにつながる人物との出会いが生まれることとなる。
「その頃に乗っていたスターレットも1990年代のクルマでしたし、ネットで知り合った古いクルマ同士が集まるコミュニティに参加していました。オフ会で一緒にツーリングに行ったりすることもあって、そこで私のスターレットと同じ白いボディのTA22セリカに乗っていた先輩と知り合ったんです」
中学生の頃から憧れている型のセリカに乗る先輩とは、所有する前には“セリカのオーナーになるため”の道筋と、オーナーとなってからは“維持する上での様々なアドバイス”をもらうようになっていったという。
一方で、米窪さんは20才から自動車整備士の職に就いた。仕事のモチベーションはもちろん、自分もいずれセリカを愛車とすることだった。そして、貯金をし始めてから2年経った頃、ついに米窪さんがセリカオーナーになるキッカケがやってくる。
「その先輩が、とあるお店に初期型のセリカが入ったから、一緒に見に行くぞって」
2人で見に行ったセリカは、薄暗い倉庫の中に置かれていた。
「当時は、普通の色が良いなと思っていたから、白いボディカラーが第一候補だったんです。けれど、そこに置かれていたのはオリオンターコイズメタリックのセリカでした」
「あれだけ白が良いと思っていたのに、このオリオンターコイズメタリックの現物を見たら、一目惚れしちゃいましたね(笑)」
そう米窪さんが感じた理由の裏には、セリカに憧れるきっかけのひとつとなった中学生時代の原体験もあったという。
「両親と出かけていた時でした。なにげなく川沿いの道を見上げた時、この色のセリカがスーっと走りすぎて行ったんです。その姿がとても印象的で、今でも覚えているくらいの出来事だったから、倉庫でこのセリカを見た時も『あのとき見たセリカの色と一緒だ』と、親近感を覚えたんです」
このセリカが、マイナーチェンジ前の1971年式の初期型ということも米窪さんの心を掴む理由だった。
初代セリカは1972年のマイナーチェンジでリヤコンビネーションランプが分割式となるのだが、米窪さんの愛車は通称『ワンテール』と呼ばれる初期型の一体型テールランプ。
「ボディ形状はリフトバックよりもクーペが好きななので迷うことはなかったのですが、ワンテールはどの個体も予算的に厳しくて。あきらめて(比較的に中古価格の安い)分割テールでもいいかな? と思いはじめていた矢先に出会えたクルマだったんです。このセリカも予算を少しオーバーしていましたが、いろいろと工夫すれば届かない範囲じゃない、と判断しました」
車体を見た瞬間、米窪さんはコレで決まりと内心では思っていたものの、気に入った車体と出会ってしまった瞬間の浮足立った気持ちで愛車を選んで後悔する可能性を考え、その場では返答を出さずに帰宅。一旦、冷静な気持ちとなって一晩考え抜いた結果は…
「よし、買おう! と翌日の朝起きてすぐにお店に電話しました(笑)」
それまでにも様々な車体を見てきた中で、コレ! と米窪さんが決めるに至っただけあって、クルマの状態は良好だった。
「おそらく、最初のオーナーが30年間ほどワンオーナーで乗られていて、そのあとに別のオーナーに渡ったようです。その方もこのクルマで雑誌に載るほど大事に乗られていたものなので、乗り始めるにあたって大掛かりな修理は必要ありませんでした」
どれだけ気を使っていても、テールランプの間にレイアウトされる給油口周辺はとくに腐食が進行する部分。10年乗る間にはそういった箇所の修理は必要となったが、これが50年前の車両ということを考えると、その程度の修理で済んでいるのは驚きだ。
また、車両整備に携わる仕事をしていることから、マイナートラブルなどは自分で修理できるというのも米窪さんの強み。旧車イベントに参加する先で、セリカのマイナートラブル箇所の情報を集め、先手を取って部品交換などを進めているという。
「スターレットやミラに乗っていた頃は、速いクルマにカスタムして乗るのが趣味みたいなところもあったんです。けれど、このセリカはあとから手を加えるのを躊躇するほど純正として整っていたので、修理のための部品交換もなるべく純正らしさが消えないようにやっています」
部品単体で見ると、所々にトラブルを避けるための近代化を施した箇所はある。しかし、それらを“非オリジナル”と見せないように修理するのもこだわりとなっている。
「当時らしさに憧れたからこそ、オーナーになってもそれを大事にしていきたい」という気持ちは、別の趣味のカタチとしても影響するようになったそう。
「腕時計収集も、例のセリカの先輩から勧められて始めました。高くて貴重なモノを集めるのではなく、セリカと同じ1960~1970年代のモデルを集めているんです。セリカに乗る時はなるべく一緒につけようと思っています」
もはや、自身のアイデンティティと切っても切れないようなカタチでリンクするようになったセリカと米窪さんの関係。「これまでの10年も、これから先の10年もやることは変わらず、綺麗な状態を維持していきたい」という言葉からも伝わってくる意気込み。年月を重ねるごとに、ますますセリカへの愛情は深まっていくばかりだ。
取材協力:信州サンデーミーティング
(⽂:長谷川実路 / 撮影:土屋勇人)
[GAZOO編集部]
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