ヨタハチを手に入れたことではじまった大好きな旧車に囲まれる日々
クルマ好きといってもその在り方は様々。1台をじっくり愛でるクルマ好きもいれば、自身の好みに合うクルマを複数所有することに楽しみを覚えるタイプも存在する。長野県あさひプライムスキー場で開催された『信州サンデーミーティング』に、とっておきの1965年式トヨタ・スポーツ800(UP15)で参加していた長谷川さんは、間違いなく後者のタイプのクルマ好きだ。
ヨタハチのほかに、初代ホンダ・シビックRS、そして初代フォード・サンダーバード、シボレー・K5ブレイザーを所有しているという長谷川さん。元をたどると、幼少期から外車に触れることが多い日常を送っていたのが現在の趣味に繋がっているという。
「叔父が自動車関係の輸入業に携わっていたため、ずっとヨーロッパやアメリカのクルマに乗っていたんです。父はフェアレディのSR311、ハコスカ、ケンメリと国産車を乗り継いでいましたね。一方の私はというと、30代になるまで自分のクルマを持っていませんでした」
当時、地元である東京に住まいがあり、徒歩圏内にバスや電車といった公共交通機関が充実している生活スタイルを送っていたので、日常の足となる自動車は必要なかったというのがその理由だという。
そのため、運転免許を取得したのも20代の半ばとなってから、教習所を使わず鮫洲運転免許試験場でのいわゆる一発免許を利用しての取得だったと過去を振り返る。
「父の乗る国産車も見てきましたが、いざ自分の愛車を選ぼうと考えた時には、叔父の影響がとても大きかったですね。スタイリングやパワーなど、アメ車の凄さを間近で見てきたので、私も初めてのクルマはシボレーのカマロを中古で買ったのを覚えています。当時はガソリン代も安くて燃費のことを考えなくてもよかったですから(笑)」
丸目のスタイリングが特徴的だった2代目モデルのカマロで、アメリカンマッスルのパワフルな乗り味を楽しむ日々を過ごし、その後は30代のうちにアコード、そしてアスコットイノーバとホンダ車を乗り継いだという。
しかし、公私共に充実した日々を送っていた矢先、長谷川さんに大きな転機となる出来事が起こってしまう。
「仕事が原因で体を壊してしまいました。俗に言う働きすぎの過労ですね。当時かかっていた都内の医者からは『地方に行って療養が必要だ』と言われたんです。その時に医師から療養先として提案された療養所が北海道と長野県でした。どちらに行くか悩みましたが、当時は関越道から上信越道に道路が伸びるころで『何かあった時にも陸続きで東京の医者のところへ行けるから』という理由で長野を選びました」
そうして37才の頃に移り住んだ長野は、長谷川さんにとって現在まで暮らしを続ける第二の故郷となるのだった。
長谷川さんが長野に移り住んで療養を続けるにあたって幸運だったのが、当時の副業にあたる仕事が順調となっていったこと。それにより、これまで乗ってきたクーペやセダンでは営業のために手狭となってしまったという。
「それで最初はトヨタのエスティマに乗り換えたんですが、それでも荷室は足りずにシボレーのアストロに乗り換えました」と、結局はアメリカンサイズのミニバンを選ぶところが長谷川さんらしい愛車チョイスだ。
一方で、現在所有しているバラエティに富んだ旧車ライフが始まる転機が訪れたのは今からおよそ8年前。これもまた、幼少期から長谷川さんのクルマの好みに影響を与えてきた叔父が大きく関係していたようだ。
「叔父が昔から大事に持っていたクルマのなかに、37フォードというクルマがありました」
正確には当時のフォードには車名が存在しないため、1937年型のフォードと呼ぶべきか。叔父の手元にあった戦前のクラシックカーを、長谷川さんと兄弟が協力してレストアして、完動状態で乗ってもらおうと試みたのである。
そして、そのレストアの依頼先だったお店を通じて巡り合ったのが、このS800だったという。
「フォードを預けているあいだ、私自身はヨタハチが好きでいつか乗りたいという話をずっとしていました。するとたまたま入庫したという話がやってきて、すでに業者間の売買の話が始まっていたところに割り込む形で無理を言って私に譲ってもらったんです(笑)」
こうしてヨタハチを手に入れたことで、37フォードよりも一歩先にクラシックカーオーナーとしてのカーライフを歩み始めることとなった長谷川さん。旧車ミーティングなどで、同じ世代のクルマに乗るオーナーらとの親交が増えていくことで、長谷川さんの愛車遍歴はさらにディープな世界へと進んでいくことに…。
「次に手に入れたのが初代シビックRSでした。これは知り合った友人がラリーに使っていた車両で、ロールケージが装着されているような状態に加えてステアリングやブレーキも重たくて、そのままではとてもじゃないけど私みたいな人間が普段乗るのは大変だったので、ちょっと手直ししてもらいました」
ちなみに1970年代に生まれた旧車ということで、安全性を考慮してロールケージだけはそのまま残してもらったそうだ。
そして、2023年に長谷川さんのカーライフにおける集大成とも言えるカタチで元へやってくることになったのが、1957年式のフォード・サンダーバードだ。
サンダーバードは1955年から2005年まで一定期間を除き11代に渡ってモデルチェンジを繰り返してきた歴史あるモデルであり、1955年から1957年までの初代モデルは2シーターコンバーチブルのプレミアムカーとしてサンダーバードのイメージを人々に知らしめる役割を担った名車である。そして、世界各国のクルマに対して造詣が深い長谷川さんにとっても憧れの存在だったという。
「初代サンダーバードは55、56、57年とそれぞれデザインが違うのが特徴なんですが、なによりも最終型のリヤデザインがすごく好きだったんです。私にとっては本当に憧れの存在でした」
そんな憧れのクルマを、37フォードのレストア開始当時から探し始めていたという長谷川さん。しかし、年代に加えて国内での流通数もあまりに少なく、市場価格からも購入をあきらめざるを得ない状態だったそうだ。
「ですが、知り合いを通じて1957年式のサンダーバードを所有している方を紹介していただいて、37フォードとの交換で譲っていただけるという話をもらったんです」
37フォードのレストアは、当初は叔父のために始めたものの途中で様々な事情が変化し、最終的には長谷川さんが所有するクルマとなっていたのだという。
「交換の条件は『お互いのクルマを車検に通して動く状態で交換しましょう』と決まり、ついに昨年サンダーバードが手元にやってきました。周りからは『37フォードの方が価値があるのでは?』と言われることがあるのですが、私も相手もそのクルマにこだわりがあってのことなので、単純に金額で比べられるものじゃないですしね」と、力強く答えてくれたのだった。
幼少期から育まれたクルマへの憧れが、叔父のクルマのレストアを経てさまざまな人との繋がりを生み、何台もの旧車を所有する理想の生活へ…ヨタハチの傍らで、いくつものドラマチックな出会いで彩られたカーライフを語ってくれた長谷川さん。そのクルマ愛やストーリーと同時に、各々の愛車が織りなすクルマ好き同士の“和”の素晴らしさを改めて感じさせてもらったのであった。
取材協力:信州サンデーミーティング
(⽂:長谷川実路 / 撮影:土屋勇人)
[GAZOO編集部]
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