仕事先のガレージで眠っていたパブリカピックアップを20年ぶりに公道へ
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トヨタ・パブリカピックアップ
「昔のクルマって独特ですやんか。形、格好も個性があるし、運転していて“乗ってる”って感じがする。だって、古くなったらいつドコで止まるか分からない。だからガレージから出して、外に出かけて、家に帰れたら『ありがとう』って声をかけたくなる。『よく連れて行ってくれたな』って」
かつて、トヨタを代表する小型大衆車であったトヨタ・パブリカ(KP38)のピックアップモデルに乗るオーナーのヒサさんは、自身のクラシックカー趣味について、温かみのある言葉で話してくれた。
そんなヒサさんのクラシックカー好きは、免許を取りたての18歳の頃から始まっていたという。
「若い頃、最初に自分で買ったクルマはミニでしたね。どこか忘れたけど、トンネルの中を走っていたら横からバーンッと小さいクルマが抜いていって。暗かったから色は見えなかったけどミニだということは分かったんです。その軽快な走りの印象から、ボクもミニを買って8年くらいは乗り続けたかな」
62歳で建設業を営んでいるというヒサさんにとって、続いての思い出のクルマは1968年式のダットサン・フェアレディ(SR311)。当時20代後半だったと言うが、その時点ですでに生産から30年近く経った旧車にあたるモデルだ。
「今30歳過ぎた娘が、ちょうど生まれたころに買いました。これから子育てにお金が掛かる前に、今しかないわ! と。『お父さんのクルマ好きは鬼のような道楽や!』と今でも家族から言われ続けています(笑)」
その時は、今のような旧車ブームが訪れる前で、車体価格は驚くほどの価格ではなかったそうだが、車体を探すのにはそれなりの苦労があったという。
「街中で見かけるようなクルマではなかったですしね。テレビでスターが乗っている姿に憧れがあって、いつか乗ってみたいと思って程度が良いのが出るのを待っていたんです。レストアしてお金を掛けるよりは、最初からしっかりと維持されているものがよかったから」
そうしてヒサさんのもとへやってきたフェアレディSR311だが、旧車ならではの洗礼を味わった想い出も。
「遊びに出掛けて、現地に到着する直前に止まったこともありました。そういった一筋縄ではいかないところが、古いクルマが好きな理由なんです」
だが、そんなヒサさんのクルマ遊びも寄り道をすることが一度だけあったという。
「色々と修理して乗り続けていたけど、クルマが仕上がっちゃったら浮気心が出たんですね。それで速いクルマにも乗ってみたいなと、SRを売ってポルシェ911(964型)に乗り替えたことがありました」
ポルシェ964は当時も現行車ではなかったものの、根強いファンが多いポルシェ911の3代目であるスポーツモデル。スポーツカーとしての素性の良さに感動を覚えたヒサさんだったが、その裏で物足りなさを感じる場面もあったそうだ。
「964は良すぎたんです。踏めばスピードが出るし、ブレーキを踏めばちゃんと止まってくれましたから」
その物足りなさとは、自分がクルマに乗っているというより、乗らせてもらっているという感覚にあったというヒサさん。そんな思いから、ポルシェ911の964型よりも四半世紀以上古いモデルである、ポルシェ356を探してもらうようにショップにオーダーしたのであった。
赤いカラーリングとオープントップのボディ、それに片側2灯ずつ揃えられた丸いテールレンズ、メーターパネル中央に配置された油温計。ポルシェ356の中でも、これらが備わった1955年モデルにヒサさんのこだわりが詰まっていると話す。また、その乗り味はある意味でヒサさんの期待通りのものだった。
「真っすぐ走らないんですよ。フラフラしていてブレーキも効かないし。でも、自分がクルマを動かしている感覚がすごく感じられるから、やっぱりボクはこういうクルマが好きなんやと思いました」
これが今から十数年前のことで、愛着を覚えたポルシェ356はヒサさんの趣味の1台として、今でも自宅のガレージに動態保存されているという。そして現在、そのガレージで愛されることとなったもう1台のクルマがこちらのトヨタ・パブリカだ。
パブリカとの出会いは、ポルシェ・356を手に入れた前後の時期まで遡るという。
「仕事の付き合いで、ボクよりも年上の土建屋の社長さんのガレージに行った時、真っ白にホコリを被っているこのパブリカを見たんです。最初はサニトラかなと思ったんですが三角窓がなくて、よく見てみるとパブリカのピックアップでした」
だが、その時はパブリカのスタイリングに惹かれこそしたものの、すぐに自分で手に入れ乗るまでには至らなかったという。
「社長は、仕事用のクルマとして昔乗っていたそうです。10年前、ボクが社長のガレージで見た時も、おそらく10年以上は乗っていないといった様子でしたが、ナンバープレートが付いたままでしたから、いずれ乗る気持ちでいたんやと思います。でもお年を取られてきて、もうその気はなくなったのかな。今から3年前に『このまま眠らせ続けるのはもったいないから、自分に乗らせてくれ』とお願いして、譲ってもらいました」
パブリカがヒサさんのもとに来てからは、シッカリ動いてくれるように整備工場で1年間のメンテナンス期間を経て、乗り出したのは2年前。ガレージ保管でダメージが少なかったことに加え、熟年メカニックの腕のおかげで、大きなトラブルもなくパブリカとの愛車生活を満喫している。
パブリカにとって、ヒサさんは2代目のオーナー。もう仕事グルマとして使われなくなったため、荷台はヒサさんお手製のパネルでカバー。後部のアオリを開くと左右にあるチェーンの部分がボディと接触してしまうため、異音を出したり傷を付けないようにと軍手で保護をしているあたりはヒサさんアイデアだ。
今後は、『状態の良い純正のままをキープして乗り続けることが目標』と語ってくれたヒサさん。パブリカと走る機会は、もっぱらこういったイベントが中心となっているそうだが、撮影当日、ヒサさんの隣にはお仲間のクラシックな軽トラが並んでいる様子も。
「昔、旧車を持っていた頃よりも、こういうイベントが増えたおかげで集まる機会ができて助かっています」と、今後もこのパブリカと共に、元気に走り続ける姿を見られそうだ。
(文:長谷川実路 / 撮影:清水良太郎)
※許可を得て取材を行っています
第四回 昭和の乗り物大集合in片男波海水浴場2024
取材場所:片男波海水浴場(和歌山県和歌山市和歌浦南3丁目1740)
[GAZOO編集部]
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