亡き父から譲り受け、オーナーから息子、そして孫へ。57年家族と寄り添うシングルナンバーの1967年式トヨタ パブリカ スーパー

  • トヨタ パブリカ スーパー

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生まれたときから家にあったクルマがやがて自分の愛車となり、そして愛する子ども、さらには今後孫へと受け継がれていく……。クルマ好きとしてまさに理想的かつ極上のカーライフといえるのではないでしょうか。

クルマのコンディション維持、家族の理解など、あらゆる条件がそろわないとこの系譜は成立しません。そんなクルマ好きであれば1度は夢見るカーライフを送っていらっしゃる「プラムちゃん」さんの愛車は1967年式トヨタ パブリカ スーパー。

「大切な家族の一員」ともいえるパブリカ スーパーとはどのようなカーライフを送っていらっしゃるのでしょうか。

――まずは、プラムちゃんさんの愛車について教えてください!

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愛車は、1967年式トヨタ パブリカ スーパーです。所有年数は57年(家族所有を含めて)、現在の走行距離は7万6千km(オドメーター上)、これまでに23万km走りました。

亡き父が新車で購入して以来、ず〜っと我が家にあります。もはや家族同様の存在ですね。

――生まれたときから家にあったクルマを現在も所有されているなんてすごい(うらやましい!)です。幼少期に覚えていらっしゃることがあれば聞かせてください

幼少期の頃から、パブリカに乗って父の職場である工事現場について行っていました。「欲しいものは自分で働いて買え!」が父の口癖でしたから、小学校2年生のときからお小遣い稼ぎにほうきとちり取りをもって、工事現場を掃除して1日10円もらっていました。

工事現場では、職人さんたちが匠の技で仕事する姿が目に焼き付いています。それが結果として、今の仕事にも活かされています。

父はパブリカに家族を乗せて、いろいろなところに連れて行ってくれましたね。山口県の萩・津和野や、和歌山県の南紀白浜に連れて行ってもらったときの家族の写真がいまでも残っています。

あと、私が中学生の頃、父とパブリカに乗っているとき「トリップメーターがオールゼロになった瞬間」を鮮明に覚えています。

――そのときのクルマを今お乗りだなんて…。お父様から、パブリカ スーパーが納車された日のことを伺ったことはありますか?

詳しいことは聞いていませんが、親戚のクルマ屋さんから購入したと聞いています。

当時、父の給料が月給2万円の時代だったので、月賦(※いわゆるローン)の支払いが大変だったとはよく聞かされましたね。

――大人になったプラムちゃんさんが、パブリカ スーパーを初めて運転したときのことを聞かせてください

教習所に通って仮免許を取得して、助手席に父を乗せてパブリカで路上教習をしたのが初めてですね。その後、高校を卒業と同時に運転免許を取得。免許取得後は父が働いていた工事現場まで運転したのがパブリカでの初ドライブでした。

――プラムちゃんさんの幼少期はパブリカとともにあったんですね

そうですね。就職して間もなくの頃に瀬戸大橋が開通したのですが、瀬戸大橋の根元に鷲羽山ハイランドという遊園地があって、夜はそこでサンバカーニバルが開催されていて、パブリカに乗って足しげく通ったのがいい思い出です。

――ちなみに…パブリカ以外の愛車遍歴がありましたら教えてください

運転免許を取得して初めて所有したのが、初代ホンダ シビック RS、オレンジ色の5速MTのクルマでしたね。その後、トヨタ チェイサー(MX41)、クレスタ(GX71)、日産キャラバンのキャンピングカー、ダイハツ シャレード、メルセデス・ベンツSクラス(W140とW220)、スズキ エブリーワゴンです。

現在はトヨタ ノア、スズキ エブリー ワゴン、バイクではハーレーダビッドソン トライクを所有しています。

――パブリカ スーパーを譲り受けてから、ご自身のカーライフに何らかの変化はありましたか?

「パブリカオーナーズクラブ」のミーティングに参加したことをきっかけにパブリカ乗りの仲間ができ、旧車イベントにも積極的に参加するようになりました。

それまでは仕事が忙しくて旧車仲間を増やすこともできず、インターネットがない時代はいまより情報が手に入らなかったこともあり、仲間が作れずに1人だったんです。

SNSでパブリカオーナーズクラブの会長さんの投稿を見て、名古屋のトヨタ博物館で開催された「第1回パブリカ全国ミーティング」に初めて参加しました。「こんなにパブリカに乗っている方がいたんだ!」と驚いたことを鮮明に覚えています。

イベント当日にパブリカオーナーズクラブの会長さんから入会を誘われ、これをきっかけにパブリカ仲間が増えましたね。

――パブリカオーナーズクラブに参加して良かったことは何ですか?

パブリカオーナーズクラブに参加したことで、車検整備は吉良自動車さん、板金塗装は堀川板金さんといった、パブリカに精通された方々とお知り合いになれたことですね。

実際に車検整備や板金塗装でお世話になりました。また、パブリカの部品に関してはマルセンラジエターさんにも大変お世話になっています。

パブリカが調子悪くなったときには、皆さんに相談すると「ここが悪い!」とか「ここを調整すれば良い!」といった的確なアドバイスをいただけるので、本当に助かっています。毎年11月に開催されるパブリカ全国ミーティングがいまから本当に待ち遠しいです。

――お父様からパブリカ スーパーを譲り受けてから、プラムちゃんさんが手を加えた箇所などを教えてください

エンジンおよびトランスミッションのオーバーホール、電気配線の自作もしました。エンジンとミッションのオーバーホールに関してはまったくの独学です。パブリカの修理書も何冊か所有しているので、それらを見ながら日々奮闘しています。

幼少期の頃からモノを分解しては組み立てるのが好きで、一時期はラジコンにもハマりましたし、高校は原付免許が取得可の学校だったので、ホンダのモンキーやシャリーのエンジンやミッション、キャブレターなどを整備したり、分解や改造もしたりしました。

自分で整備できるようになると、イベント等で県外に出向いた際、万一故障や不調が起きても対処できるので安心ですし、自信にもつながります。

――これまでパブリカを所有していて、苦労されたことなどありましたら聞かせてください

亡き父が新車で購入して今年で57年目。私は生まれたときからこのパブリカに乗っています。メカ機構なので電子制御の部分がなく、シンプルな構造のため、今まで大きな故障はありませんでした。

でも1度だけ、パブリカ全国ミーティングに参加するべく名古屋に向けて高速道路走行中にエンジンが不調になったことがありました。パーキンエリアに停車してエンジンをチェックしていたら掛からなくなり、いろいろ調整してようやく掛かったと思ってスタートしたら再びエンジン不調。

このときはレッカー移動で全国ミーティングも欠席かも!? と焦りましたね。

悩んだ挙句、キャブレターの燃調が濃いのかも?と思い、整備書を見ながらキャブレターの燃調合わせと同調を行ったところ、ようやく快調に走行できるようになりました。整備書と工具を搭載していてよかった!と心から思いました。

――失礼ながら…もう手放そうかなと思ったことはありましたか?

10数年前にとてもつらいできごとがあり、1度だけ売却を検討してネットオークションに出品したことがあります。

でも、ここで売却してしまったら亡き父に申し訳ないと思い、すぐに出品を取り下げました。売らなくて良かったです!

――もしこのとき手放していたら…って考えてしまいますよね。パブリカの自慢ポイントをぜひ聞かせてください

「シングルナンバーであること」でしょうか。あとは、「亡き父が乗っていたときの姿を変えることなく維持しているところ」に尽きます。

新車から親子三代(亡き父→私→私の息子)で大切に乗り継いでいることも自慢できるポイントですかね(笑)。

パブリカに対しては、ただの自動車(乗りもの)として扱っておらず、私が生まれてからず~っと乗っていますし、亡き父の形見でもありますし、家族同然と思っています。

パブリカに乗っているときは自然とクルマと会話していますね。「頑張れよ~!」とか「よく走ったなぁ~!」なんて。人によっては変わっていると思われるかもしれませんが、自然と気持ちが通じ合うようになりました。

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――これはなかなかできることではないですし、心より尊敬いたします。一生付き合えるクルマが欲しいと思っているクルマ好きの方に向けてメッセージがありましたら、ぜひ教えてください

一生付き合えるクルマに乗ろうとした場合、同じクルマを所有する仲間を増やしたり、旧車イベントに積極的に参加したりすることで自然と会話が弾み、さまざまな情報が入手できるのでおすすめです。

また、旧車に限らず、ある程度の点検・整備は自身で行えるようにしていれば、いざというときに対処できるので安心して乗れますし、所有するにあたっての費用も抑えられます。

――同感です!とっても参考になります。今後、パブリカ スーパーに対して手を加える予定はありますか?

運転席以外のシートは、これまで一部補修したぐらいで維持してきました。ただ、運転席と助手席の座面は破れが気になるので、シート張替えをしたいと思っています。

でも、リアシートはいまだにピカピカなんです。

――では、プラムちゃんさんがパブリカ スーパーを維持するうえで気をつけていること、意識していることを教えてください

エンジン音を聴きつつ、クルマと会話しながら楽しくドライブしています。

高齢のクルマですし、制限速度120㎞/hの高速道路を走行する際は、90km/h巡航に抑えて走るように心掛けています。万一のときのために、常に予備のオイルを携行していますよ。

――クラシックなクルマのオーナーさんのお手本ですね!愛情あふれるパブリカ スーパーに「伝えたいメッセージ」がありましたらぜひ聞かせてください

大切な家族であり、長い間活躍してくれてありがとう!私の孫も乗るといってくれており、パブリカ スーパーを継承するために4代目のオーナーを育てているので、これからもよろしく!

――本当にそうですよね。いつまでもパブリカ スーパーとのカーライフが続いていくことを願っています。どうもありがとうございました!

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<あとがき>
親子2代で1台のクルマを乗り継ぐというケースはときどき取材させていただくのですが(それでもレアケースです)、親子3代、しかも4代目のオーナー候補(お孫さん)もいらっしゃるという経験は初めてです。

クルマは機械ゆえに意思はありませんが、オーナーの気持ちを読み取っているのではないかと感じることがときどきあります。もし、パブリカ スーパーに意思があるとしたら、できるかぎりプラムちゃんさんファミリーのもとで暮らしていきたいし、これからもたくさんの思い出を作っていきたいと願っているはず。

大切に接すれば、クルマもそれに応えてくれる。あまりにもシンプルすぎて忘れがちだけれど、でも実はものすごく大切なことを、プラムちゃんさんそしてパブリカ スーパーから教えてもらったような気がします。

<取材・編集 株式会社キズナノート>

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